2020年8月3日
私たちが診ている喘息の患者さんの中には、子供の頃から喘息がありました、という人がたくさんいます。中には高齢になっても重症のまま続いている人もいます。
私は若いころ、「肺の成長と発育」というテーマで研究生活をしていた時期があります。最近になり成人や高齢者の肺の病気が幼少時の生活の影響を深く受けていることが分かってきました。
小児に始まった喘息が年とともにどのように変化していくのでしょうか。これは「喘息の自然経過」と呼ばれています。成人や高齢者の喘息の治療を考える場合に幼少期はどのように経過してきたか、の情報は治療戦略を立てるために極めて大切です。
ここでは喘息の自然経過について解説します。
Q. 乳幼児期の喘鳴は成長でどう変わるか?
・幼児期にゼイゼイするような喘鳴が時々、聴かれる場合には肺機能が正常よりも低下している可能性がある。
・ただし、1歳以下で時々、ゼイゼイする場合には必ずしも喘息とはいえない。
Q. 6歳未満でみられる喘鳴はどう変わるのか?
・身体の成長とともに気道の径と長さ(サイズ)が大きくなり、ほとんどの場合、成人期まで持ち越すことはない。
Q. 幼児期の喘息が成人期まで持ち越される場合とは?
・6歳以前に喘息があった一部の子供では、その症状が持続し、そのまま喘息が続く場合がある。アトピー症状がある場合、血液中のIgE抗体が高値、幼少時の症状が比較的、重症で経過した場合、母親が喘息の場合には要注意である。特に、母親が喫煙者の場合は危険が増す。
Q. 子供で喘息症状が重い場合には?
・成長に伴い、肺機能が低下していくことがある。6-7歳ごろに同年齢の子供と比較して低下している場合には成人になっても低下したままが持続する可能性が高い。
Q. 思春期ごろまでの喘息の経過は?
・成人に達しても喘息が持続する可能性が高い(約75%)。
・ただし、喘息以外に病気が無い場合には、青年期の喘息症状がさらに悪化していくことはない。
Q. 成人になってからの喘息の経過は?
・成人になってから発症した喘息では、小児期の喘息に気がつかず治療されずに経過して悪化した可能性がある。
・成人の喘息は男性よりも女性に多い。女性で初めて喘息症状を認める場合には閉経期ごろに増加する。
Q. 高齢者の喘息の経過は?
・肺機能の低下を伴うことが多い。
・夜間に重い発作を起こすことがあり、注意が必要である。喘息死は圧倒的に高齢女性に多い(コラム No.27 参照)
Q. 成人の重症喘息の経過は?
・喘息症状が重い人、成人で初めて喘息症状が出てきた人では、肺機能の低下が起こりやすい。
小児期に喘息の治療を受けていた患者さんは、成人に達し、生活が独立するとともに担当する医師が代わり、治療を開始することになります。
私たちが、初めて喘息の患者さんを診察する場合には、幼少時の経過を詳しく聴くことにしているのはこのような事情によるものです。
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