2020年9月2日
感染の勢いが衰えることがない新型コロナウィルス感染症(COVID-19)を制御するには、迅速で正確な診断テストが不可⽋です。現在の標準は、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)を検出するための定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RTqPCR)による⿐咽頭スワブ標本のテストが行われていますが唾液のサンプルが代替診断サンプルになる可能性があります。唾液検体が現在、標準となっている⿐咽頭スワブ検体と同等で唾液検体を用いるようにできれば検体採取を医師が行わなくとも済み、また、感染リスクを軽減するためにも好都合です。
本論文は、これを検証し、唾液検体は⿐咽頭スワブ検体とほぼ同等であることを証明したものです。
Q.どのように研究を進めたか?
・米国、エール大学グループによる報告。⿐咽頭スワブ検体によりCOVID-19の診断が確定し、入院中の患者、70名を対象として実施。
・入院中に患者自身で採取した唾液検体と医師が採取した⿐咽頭スワブ検体でのウィルス量を比較した。
・病院で働く無症状の医療者、495人を対象に唾液検体と上咽頭スワブ検体によるSARS-CoV-2の検出を実施、比較した。
・ウィルスの定量は、米国CDCで採用されている標準方法で実施。
Q.どのような結果が得られたか?
・唾液検体でSARS-CoV-2 RNAコピーを検出した(1ml当たりのlog表示のウィルス量は, 5.58(95%l信頼区間 [CI], 5.09-6.07)。他方、⿐咽頭スワブ標本では4.93(95% CIは4.53-5.33)(図1A)。
・唾液検体の方が⿐咽頭スワブ検体よりもウィルス量が多い現象は診断確定後、10日目まで認められた(図1B)。
・診断確定後、1-5日目までは唾液検体では81%の陽性(95%CI,71-96)に対し、⿐咽頭スワブ標本では71%(95%CI, 67-94)であった。
以上より、唾液検体と上咽頭スワブ検体が⼊院中のSARS-CoV-2の検出において少なくとも同等の感度を持っていることが示唆された。
・結果をさらに確認するため、入院中に反復して同じ方法で検体を採取し、経過でどのように変化するかを調べた。唾液検体の結果(図1C)と上咽頭スワブ検体の結果(図1D)を比較した。唾液検体の経過では、概算勾配は, −0.11( 95% Cl, −0.15 - −0.06)であり、上咽頭スワブ検体では概算勾配は−0.09(95%CI, −0.13 - −0.05)であった。
3例では、上咽頭スワブ検体では陰性であったが経過で陽性となった。しかし、このような現象は、唾液検体は1例に認められただけだった。
経過で反復して測定した結果では、唾液検体のウィルス量のバラつきは、上咽頭スワブ検体のウィルス量よりも少なかった。
図:Wyllie, AL. et al. Saliva or nasopharyngeal swab specimen for detection of SARS-CoV-2
New Eng J Med, in press. Downloaded from nejm.org on August 29, 2020より一部改変
図説明:COVID-19の診断が確定し入院した患者70名を対象。
1A:同一患者で唾液検体と上咽頭スワブ検体のウィルス量を対比した。線で結んでいるのは同一患者。唾液検体が、ウィルス量が多かった。統計学的に有意差あり(p<0.001)。
1B:入院時の診断確定後、1-5日後、6-10日後、11日以降で唾液検体と上咽頭スワブ検体のウィルス量を対比した。
1C:症状が出てからの経過とウィルス量の変化を、唾液検体を用いて測定した場合。
1D:1Cと同じ条件で上咽頭スワブ検体のウィルス量を示した。
・次に医療現場でCOVID-19の診療にあたっている無症状の医療者、495人を対象に唾液検体と上咽頭スワブ検体によるSARS-CoV-2の検出を実施。13人の唾液検体が陽性だった。
うち、9人に対しその日のうちに上咽頭スワブ検体を測定したところ7人は陰性と判定された。上咽頭スワブ検体によるPCR値にはバラつきが多いことが判明した。
Q.その結果の応用は?
・唾液検体によるSARS-CoV-2の定量測定は上咽頭スワブ検体による測定値と同等かそれ以上の感度が得られた。
患者が自分で唾液検体を得ると云う方法を使えば、検体採取で医療者を感染リスクが高くなり院内感染リスクとなる可能性がある。また、多数の検体採取が短時間に実施できる可能性があり、疑い患者が多いのに診断ができないというボトルネック現象を解決できる。
武漢でのパンデミック以来、上咽頭スワブ検体で判定する方法は、標準とされてきました。本研究では患者が自分で採取した唾液検体による判定は同等か、それ以上の精度で診断できることが判明しました。唾液検体での判定が標準化されれば診断にいたるまでの過程はかなり簡素化される可能性があります。
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