• 木田 厚瑞 医師

No.109 睡眠障害と高血圧、糖尿病の発症


2020年9月26日

 不眠が続けば、何となく体調が悪くなり、仕事の効率も低下してしまいます。ここで紹介する論文は、睡眠障害と高血圧、糖尿病が関係していることを明らかにしたものです。

 研究デザインには特徴があります。第1は、極めて多数の人たちを6年間の間隔を置いて調べたこと。第2は、対象をヒスパニック系、ラテン系米国人に絞ったことです。これには、米国が抱える人種問題と不平等社会が関連していることを明らかにしようとしたこともあります。さらに、第3は、睡眠障害が高血圧、糖尿病の発症と関係することを明らかにしたことです。研究目的は第3にあります。




Q.健康に関する不平等問題とは?


・WHO(世界保健機構)は、健康格差とは、不必要、回避しがたいだけでなく不公平、不条理なことと定義している。


・健康格差の原因として、個人の行動、与えられている情報と姿勢、組織的な健康ケアシステムの構造、社会的、文化的側面が影響する。




Q.米国で問題としている健康の阻害要因とは?


・次の4項目を重視している:喫煙習慣、高血圧、過剰な身体の脂肪分、糖分が過剰な食品摂取。




Q.睡眠障害が社会問題である根拠は?


・少数民族が社会経済的な理由により睡眠時間が限定され、睡眠の質の障害を受けているという現状がある。


・睡眠障害が、少数民族における心血管系の病変のハイリスク要因となっていることは良く知られた事実である。すなわち、その結果として高血圧、肥満、糖尿病を発症させている。

ヒスパニック系、ラテン系米国人がそれに該当する民族である。


・ヒスパニック系、ラテン系米国人は現在、17.8%であるが、40年後の将来は、2倍に増加すると予測されている。米国では、社会問題が大きくなる可能性がある。



Q.研究方法は?


・ニューヨークを含む全米4カ所のセンターから無作為に抽出。

市中居住者の自己申告でヒスパニック系、ラテン系米国人を特定した。計12,415人。18-74歳。


・第1回目は2008年から2011年の調査では16,415人を対象。

第2回目は、同じ対象者を2014年から2017年に再調査。この時には、11,623人が対象。平均6.1年間の追跡調査。


・質問票、睡眠時無呼吸簡易テストを実施。全睡眠時間での無呼吸、低呼吸指数(AHI3)の総数を算出した。低呼吸は酸素飽和度が3%以上低下する場合を1回とした。

機器の感度は十分で通常判断するAHI 5以上に80-88%一致していた。


・高血圧は140/90 mmHg以上か、降圧剤服薬者。糖尿病は空腹時血糖値が126mg/dl以上か、食後2時間血糖値が200mg/dl以上、あるいはHbA1cが6.5%以上の場合とした。




Q.研究結果は?


・高血圧検査の該当者は、6,965人、他方、糖尿病検査の該当者は、8,023人。平均年齢41歳。

・結果の要約は図1。

図1 睡眠呼吸障害、不眠の各群で比較した高血圧と糖尿病発症リスクの比較


出典:Li X. et al. Associations of sleep disordered breathing and insomnia with incident hypertension and diabetes: The Hispanic Community Health Study/Study of Latinos.Am J Respir Crit Care Med [online ahead of print] 06 August 2020; https://www.atsjournals.org/doi/abs/10.1164/rccm.201912-2330OC.

より一部改変

・高血圧の発症:男性では、睡眠呼吸障害と睡眠障害の両方で有意に高値。

女性で睡眠呼吸障害は関係するが睡眠障害では関係しない。


・糖尿病の発症:男性では関係しないが女性では有意に関係する。睡眠障害では男女とも関係しない。



Q.本研究から読み取れることは?


・睡眠障害が健康に悪影響を及ぼすかどうかは、不明であったが高血圧の発症に関係する。しかし、糖尿病の発症には人種的な差(遺伝的背景)と人種に特有な生活習慣、文化は周囲との交流などが関与している可能性がある。



Q.睡眠呼吸障害、睡眠障害が引き起こす機序の推定?


・理由として睡眠呼吸障害では、睡眠中に覚醒と間歇的な低酸素血症を反復する。その結果、睡眠が分断され、交感神経の亢進が起こり高血圧、糖尿病を発症する。睡眠呼吸障害は、さらに炎症反応を促進し、ホルモンバランスを障害する。結果としてインスリン抵抗性となり、炎症性細胞の動員が起こり、血管内皮細胞が障害され、糖尿病が起こりやすくなり動脈硬化が進行する。さらに、無呼吸と深呼吸の繰り返しで体循環を担う血管、肺循環の変動幅が大きくなり血管を傷害する。


・不眠症では、高血圧、糖尿病が起こりやすいと云われてきた。不眠症では心拍数が増加し、慢性的に視床―下垂体―副腎の連絡路の活性化が起こる。これが糖尿病を発症させる理由と言われている。最近の研究では不眠症、睡眠時間の短縮は高血圧の発症と関係するといわれている。


・男性では不眠と高血圧には統計的に有意な関係があった。男性では動脈硬化の指標であるCRP値と不眠は関係する。また、死亡率とも関係する。一般には女性で不眠症が多いが女性では高血圧との関係はなかった。この違いは、一般に女性の方が健康問題について細かく関心を持つが男性は訴えも少ないという性差に関係しているかもしれない。


・睡眠呼吸障害と不眠がともにある場合には慢性疾患合併が高くなることが知られている。



 この研究の特徴は、睡眠呼吸障害と睡眠障害が高血圧、糖尿病という代表的な慢性疾患との因果関係を疫学的に証明しようとしたものです。睡眠呼吸障害についてはすでに関係することが多くの先行研究で証明されていますが、睡眠障害が原因となるかどうかについてはユニークな研究と思われます。

 さらに研究デザインではヒスパニック系、ラテン系米国人に焦点をあてた研究として社会問題としての解決策を考える上で参考となるデータと言えます。平均年齢41歳という働き盛りの人たちの健康問題を扱っていることも特徴です。



参考文献:


1. Li X. et al. Associations of sleep disordered breathing and insomnia with incident hypertension and diabetes: The Hispanic Community Health Study/Study of Latinos

Am J Respir Crit Care Med [online ahead of print] 06 August

2020; https://www.atsjournals.org/doi/abs/10.1164/rccm.201912-2330OC.

2. Ghani SB. et al. Sleep disordered breathing and insomnia as cardiometabolic risk factors among US Hispanics/Latinos

Am J Respir Crit Care Med [online ahead of print] 06 August

Published September 11, 2020 as 10.1164/rccm.202008-3171ED

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