• 木田 厚瑞 医師

No.116 ここまで分かった軽症、中等症の新型コロナウィルス感染症―症状、診断、治療の概要


2020年11月2日


 これまでに明らかになってきた軽症、中等症のCovid-19の臨床情報を医療者向けに最近の情報を盛り込んでまとめています[1]。いわば、新型コロナウィルス感染症の医療者に向けた総論です。最近の情報を整頓するには便利です。


 全体の要約はコラム,No.115を参照して下さい。

論文中では、新型コロナウィルス感染症は、Covid-19。それを起こすウィルスの正式な名称は、SARS-Co-2を用いて記載します。




Q.コロナウィルスの特徴とは?


・コロナウィルスは4つの属に分けられるRNAウィルスである。αコロナウィルス、

βコロナウィルスは、⼈間に感染する。

・SARS-CoV-2は、コウモリのコロナウィルスと、SARSを引き起こすウィルスであるSARS-CoVに関連している。


・SARS-CoVと同様に、SARS-CoV-2は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を介してヒト細胞に侵⼊する。

・SARS-CoV-2には、RNA依存性RNAポリメラーゼとプロテアーゼがあり、これらは開発中の治療薬中の標的である。



Q.感染の仕方は?


・SARS-CoV-2は主に、感染した⼈が咳、くしゃみ、または話すときに放出される、おそらくさまざまなサイズの呼吸器粒子を介して人から人へと広がる。


・小さい粒⼦(エアロゾル)と大きい粒子(液滴)のいずれかが数メートル以内に集中した状態で感染が起る。物理的な距離と換気の増加に伴って感染の可能性が低下する。


・SARS-CoV-2感染のほとんどは、呼吸器粒子の伝播によって短距離(感染者から2m未満の場合)の場合に広がる。


・エアロゾルは、治療行為である挿管やネブライザーの使用などに生成される可能性があるが、他の活動や、換気の悪い環境での屋内での会話、歌、叫びなどの特別な状況でも発生する。このような状況では、長く離れた距離でも感染が発生する可能性がある。


・呼吸器感染がもっとも顕著であり、マスク装着および物理的に距離を保つことにより、感染の可能性が著しく減少する。


・ SARS-CoV-2 RNAは⾎液と便から検出されているが、糞便感染は記録されていない。


・小さなクラスターでの環境および疫学研究では、トイレの水洗後の糞便エアロゾル関連の空中伝播の可能性を示唆したが、これはまれである。


・実験室の条件下では、SARS-CoV-2は段ボール、プラスチック、およびステンレス鋼で数日間持続する可能性がある。無生物の表⾯からの汚染が起こることが考えられているがその寄与は不確実であり、可能性は小さい。


・SARS-CoV-2の蔓延を抑えるための主な課題は、無症候性および前症候性の⼈々からの感染予防である。


症状発現の1〜3日前に感染する可能性がある。感染症例の最大40〜50%は、無症候性または前症候性の人々からの感染に起因する。


・症状の発症の直前と直後に、患者は⿐咽頭ウイルスレベルが⾼く、その後1〜2週間で低下する。


・患者は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)テストで数週間から数か月間検出可能なSARS-CoV-2 RNAを持っている可能性があるが、感染能力としてのウィルスは、その期間がはるかに短いことを示唆している。


・現時点で専⾨家の推奨は、発熱が少なくとも24時間(解熱剤を使用せずに)存在せず、他の症状が減少した場合、症状の発症から10日後にほとんどの患者で隔離を解除して良いとしている。



Q.臨床症状とは?


・SARS-CoV-2感染症は、無症候性感染症から重篤な状態にまでの幅がある。


・症候性の患者では、潜伏期間の中央値は約4〜5日であり、97.5%は感染後5日以内に症状がある。

・症状は、発熱、咳、喉の痛み、倦怠感、筋肉痛などがある。⼀部の患者では、食欲不振、吐き気、下痢などの胃腸症状を示す。

嗅覚異常と味覚消失は、患者の最大68%で報告されており、男性よりも女性に多く見られる。

・入院患者では、息切れは初期症状の発症後中央値で5〜8日目に発症した。その場合は病気の悪化を示唆している。



Q.重症化のリスクが高い人とは?


・高齢者

・COPD(慢性閉塞性肺疾患)

・心血管病変(心不全、冠動脈病変、心筋症)

・糖尿病

・高度の肥満(BMI>30) 

・鎌状赤血球症

・慢性腎疾患 

・臓器移植後で免疫能低下状態

・がん

 米国CDCのデータによると人種別、貧困がリスク因子とされている。性差はCDCデータには入っていないが男性の罹患が多いというデータがある。

・その他のハイリスクグループ:軽症以上の喘息、脳血管障害、高血圧、認知症などの神経疾患、間質性肺炎、喫煙者。



Q.診断は?


・診断検査には、通常、PCRアッセイによるSARS-CoV-2核酸の検出を行う。

症状発現の直前と直後は、鼻咽頭スワブのPCR検査の感度が高い。


・ Covid-19の疑いがある人で検査が陰性の場合は、検査を繰り返すことが推奨される。


・ほとんどのSARS-CoV-2 PCRアッセイの特異性は、検体の処理中に相互汚染が発生しない限り、ほぼ100%である。


・食品医薬品局(FDA)は、鼻咽頭、中咽頭、鼻甲介中部および前鼻孔(鼻)スワブなど、複数の検体タイプでの使用が検証された市販のPCRアッセイの緊急使用許可(EUA)を発行した。


・唾液検体は、医療従事者の曝露を減らすことができる。自宅での患者の収集と検査室への出荷は安全で効果的であることが示されているが、米国ではアクセスが制限されている。


・痰など下気道からの検体検査は、鼻咽頭スワブの検査よりも感度が高い場合がある。

費用がかからず、15分で結果が得られる。


・抗体レベルは時間とともに減少する可能性があり、免疫の相関関係はまだわかっていないため、血清学的検査の結果からは現在、再感染するかどうかは不明である。



Q.臨床状態の把握は?


・Covid-19の評価は、病気の重症度によって決める。


・中国のデータによると、Covid-19の患者の81%が軽度または中等度の疾患(肺炎のない人と軽度の肺炎のある人を含む)、14%が重度の疾患、5%が重篤な疾患であった。


・軽度の徴候や症状がある患者は、通常、追加の評価は必要ではない。ただし、最初は軽度の症状の患者の一部では、その後、症状の発症から約1週間後に急激な臨床的悪化が起こる。


・重篤な疾患の危険因⼦がある患者では、臨床進行の綿密なモニタリングが必要であり、追加の検査が必要である。


・最初は軽度の病気の患者に新たな症状または悪化する症状(呼吸困難など)が発生した場合は、追加の評価が必要である。

頻呼吸、低酸素血症、および異常な肺所見を評価するために在宅療養者であっても診察を実施する必要がある。さらに、可能であれば、他の病原体(季節によってはインフルエンザウイルス、その他の呼吸器ウィルスなど)の検査を実施し、胸部画像検査を実施する必要がある。



Q.入院患者での検査データの異常とは?


・⼊院患者の検査で見られる異常所⾒には、リンパ球減少症およびDダイマー、LDH、CRP、およびフェリチンの上昇が見られる場合がある。


・予後不良に関連する所⾒では、リンパ球減少症を伴う⽩⾎球数の増加、プロトロンビン時間の延⻑、LDH、D-ダイマー、インターロイキン-6、CRP、およびプロカルシトニンのレベルの上昇がある。



Q.その他、必要とされる検査とは?


・画像診断として胸部X線撮影を行う。⼀部のセンターでは、肺超音波検査も使用している(注:わが国では一般的ではない)。


・院内感染のリスクを高めるという理由からCT撮影は、実施しないことを推奨し、診断上、必要な特定の場合にのみ、あるいは入院患者にのみ「控えめに」使用することを推奨している。




Q.COVID-19の管理をどうするか?


・軽症患者は通常、支持療法と隔離を行い、自宅で回復させる(注:米国の場合)。合併症のリスクが高い人では、酸素飽和度を自己監視するためのパルスオキシメータを使用する。


・中等度の患者は監視下の目的で、入院が必要である。重症では入院させる必要がある(注:米国での一般的な見解)。


・細菌性肺炎が合併していると臨床的に診断された場合には抗菌剤を投与するが、それ以外、抗菌剤は、できるだけ早く中止する。季節性インフルエンザ感染とは厳密に鑑別する。


・感染後の後半では、強い炎症状態と血液凝固障害が臨床的合併症を引き起こすと考えられている。この段階では、抗炎症薬、免疫調節剤、抗凝固剤、またはこれらの治療法の組み合わせが、抗ウィルス剤よりも効果的である可能性がある。



Q.治療薬についての概略は?


・治療は、病気の病期(早期、中期など)と重症度によって異なる。


ウィルス量は症状の発症の直前または直後に最大になるため、抗ウィルス薬(レムデシビルや抗体ベースの治療など)は早期に使⽤すると最も効果的である可能性がある。


・病気の後半では、炎症状態過剰と血液凝固障害が臨床的合併症を引き起こすと考えられる。この段階では、抗炎症薬、免疫調節剤、抗凝固剤、またはこれらの治療法の組み合わせが、抗ウィルス剤よりも効果的である可能性がある。


・Covid-19の承認された治療法はないが、いくつかの薬が有益であることが⽰されている。


・クロロキンとヒドロキシクロロキンは、おそらくエンドソーム輸送を遮断するという機序により、SARS-CoV-2に対して試験管内検査で(in vitro)有効が証明されている。


・単⼀グループの観察研究と小規模なランダム化試験の結果から、Covid-19の治療に関わるヒドロキシクロロキンは最初の関心が高まったが、その後のランダム化試験では効果がなかった。


・ランダム化評価(RECOVERY)試験は、標準治療と比較して、ヒドロキシクロロキンが入院患者の死亡率を低下させなかった。軽度から中等度の入院患者を対象とした別のランダム化試験では、アジスロマイシンの有無にかかわらずヒドロキシクロロキンは臨床転帰を改善しなかった。



Q.レムデシビルの評価は?


・RNA依存性RNAポリメラーゼの阻害剤であり試験管内データおよび動物実験ではSARS-CoV-2に対して活性を有することが証明されている。


・臨床治験(ACTT-1)のデータではCvid-19の診断確定した入院患者で10日間の静脈投与。

 実薬群と偽薬群の比較では回復までの日数は、実薬10日に対し、偽薬15日間。実薬では回復期間が短縮した。

 29日目までの死亡率は、実薬11.4%に対し偽薬は15.2%であり、実薬の死亡率は低値。


・他の臨床試験は、レムデシビルを5日間投与するものであったが結果は投与10日間と同様だった。


・中等度のCovid-19(肺浸潤および酸素飽和度が94%以上)の入院患者を対象とした非盲検ランダム化試験では、臨床状態は5⽇間のレムデシビル(10⽇間のレムデシビルではない)の方が良好。標準的なケアでは、効果は小さく、臨床的な重要性は不確かであった。


・ FDAは、Covid-19の入院患者向けのレムデシビルに関するEUA(緊急使用許可)を発行した。


・ガイドラインは、重症Covid-19の入院患者の治療にレムデシビルを推奨しているが、中等度の疾患に対するこの薬の日常的な使用を推奨または反対するにはデータが不十分であると考えている。

中等度の疾患を有する入院患者におけるレムデシビルの使⽤に関する決定は、臨床的悪化のリスクに関する判断に基づいて個別的に決められるべきである。



Q.回復期の⾎漿およびモノクローナル抗体の治療効果は?


・Covid-19から回復した人々から得られた回復期⾎漿を投与した小規模なランダム化試験では、明確な利点を示さなかった。


・米国で回復期⾎漿の大規模な拡張アクセスプログラムに登録されたCovid-19患者のデータは、抗体価の高い血漿を受け取った⽅が、力価の低い血漿を受け取った場合よりも亡率が低い可能性があることを示唆している。データはまた、診断後3日以内に⾎漿を投与した場合、診断後3日を超えて血漿を投与した場合よりも死亡率が低くなる可能性があることを示唆している。これらのデータの解釈では、未処理の対照群がないこと、および低力価の抗体で⾎漿を受け取ることによる交絡または有害な影響の可能性があり複雑になっている。


・米国NIHとFDAの治療ガイドラインでは、2020年8月に回復期の血漿投与のためのEUAを発行した。FDAは、回復期プラズマがCovid-19の標準的な治療ではないことを強調している。回復期血漿の効果を決定するには、進行中のランダム化試験を完了する必要がある。


・SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対するモノクローナル抗体は、軽度または中等度のCovid-19患者の治療として、およびCovid-19患者の家庭内での接触者の予防として、ランダム化試験で評価されている。公表されたデータは、臨床診療に情報を提供するためにまだ利用できない。



Q.副腎ステロイドの効果は?


・過炎症状態がCovid-19の重篤な症状を引き起こす可能性があるという懸念から、免疫調節療法が調査検討されている。RECOVERY試験では、デキサメタゾンはCovid-19の入院患者の死亡率を低下させたが、効果は酸素補給を受けた患者に限定され、人工呼吸器を装着した患者で効果は最大であった。


・デキサメタゾンは、酸素補給を受けなかった患者の転帰を悪化させた。従って、軽症、中等症のCovid-19の治療には推奨されない。



Q.COVID-19の患者に対する併⽤薬の使⽤効果は?


・SARS-CoV-2はACE2受容体を介してヒト細胞に侵入するため、高血圧治療として使われているACE阻害薬またはアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)の使用がCovid-19の経過に影響を与える可能性があるかどうかに関して疑問が提起されたが、大規模な観察研究ではリスクの増加との関連は示されておらず、これら降圧剤の服用を中止すべきではない。


・権威ある組織がCovid-19患者では非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使⽤に関しては臨床データがない。



Q.医療従事者の感染予防策は?


・可能な場合は遠隔医療を使用し、感染した患者とやり取りする医療従事者の数を減らし、適切な換気を確保し、適切な環境洗浄を行うことが重要である。


・Covid-19が既知または疑われる患者のケア中に使用される個人用保護具(PPE)には、少なくとも、隔離ガウン、手袋、フェイスマスク、および目の保護具(ゴーグルまたフェイスシールド)が必要である。


・Covid-19患者の日常的なケアのためのこれらの飛沫および接触予防策の使用は効果的であるという点では世界保健機関(WHO)ガイドラインと⼀致している。 ただし、米国疾病予防管理センター(CDC)は、代わりに呼吸器(通常、N95マスク、電動空気浄化呼吸器[PAPR]ユニット、または内蔵空気浄化呼吸器[CAPR]ユニット)の使用を推奨している。


・供給が不足している場合はフェイスマスクを使用できる。


・CDCとWHOは、呼吸器や空中感染隔離室の使用など、エアロゾル発生予防を強化することを推奨している。


・強化された保護が利用できないサイトでは、可能であれば、ネブライザーやその他のエアロゾルを生成する機器使用を避ける必要がある。


・パンデミックの状況では、症状がない場合でも感染の危険性があり、すべての患者との接遇でマスクと眼の保護の使用を推奨する。



Q.不確実な領域は何か?


・軽度または中等度の疾患を持つ患者の標準治療を確立し、曝露された人の感染リスクを減らすための潜在的な戦略を評価するには、なおデータが不十分である。


・多数の臨床試験が登録され、進行中である。効果的なワクチンを開発するための研究が進行中である。予防と安全性、有効性を評価するための大規模な試験が進⾏中である。


・Covid-19感染で免疫が成立するか(もしそうなら、どのくらいの期間)、そして血清学的検査の結果で医療従事者や他の人が安全に仕事に復帰できる時期を知ることができるかどうかは不明である。



 本論文の筆頭著者、Gandhiは、ハーバード大学付属病院のマサチューセッツ総合病院のアレルギー、感染症の教授であり、共著者もそうそうたるメンバーで引用文献は71編。中にはまだ印刷中の早期のものがありますが現時点での信頼できる論文をまとめた総論であることには間違いはありません。しかし、Covid-19の治療に関わる薬剤などは、残念ながら、まだレベルの段階にあるのか、というのが偽らざる心境です。

 現時点では、感染の予防策こそが最大の治療ということになります。



参考文献:


1.Gandhi,RT. et al. Mild or moderate Covid-19. N Engl J Med 2020; 383: 1757-66.

DOI: 10.1056/NEJMcp2009249


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