2021年1月5日
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、男性に多い疾患です。これに対し、喘息は圧倒的に女性に多いという特徴があります。
COPDも喘息も、カゼを契機に症状が悪化する人がたくさんいます。カゼの原因は、細菌感染のこともありますが圧倒的に多いのがウィルス感染です。
若い女性は、しばしばカゼを引きやすく、子供がいる場合にはさらに感染の機会が多くなる、といわれています。
いったい、喘息の患者さんは、そうでない人と比べてカゼを引きやすいのでしょうか。また、カゼの引きやすさに男女差があるのでしょうか、その理由はなにか、これらの疑問に答えようとしたのがここで紹介する論文です。オーストラリアのグループによる研究ですが同国では喘息患者が多いので歴史的に喘息研究を牽引しています。
最初に現在の問題点を指摘し、研究の具体的な方法を述べています。その順序に従い、話を進めます。
Q.喘息とウィルス感染の関係は?
・呼吸器感染は全ての年代で多いが、ある特定の人では、ウィルス感染がもとで肺炎や二次的な細菌感染を起こやすい。その理由は、分かっていない。
・呼吸器感染は喘息悪化のリスクを高める。
・カゼはほとんどがウィルス感染症である。しかも、喘息が悪化する原因である。ときに悪化して入院治療が必要となる。
・気道感染を起こす喘息は、気道感染がない場合よりも痰が多くなり、呼吸困難が強くなる。
・就学前では喘息のある子どもは、ない子どもに比べてしばしば、気道感染を起こし、呼吸器感染が長引く。従って、呼吸器感染の起こしやすさ、喘息発作の起こしやすさは成人、子供に共通していると考えられる。
Q.カゼと喘息の関係の疑問点は?
・カゼはウィルス感染症である。その中で最も頻度の高いのがライノウィルス感染で1重螺旋(らせん)のRNAウィルスである。これは、コロナウィルスと類似している。
Q.男性のウィルス感染は?
・男性はウィルス感染のかかりやすさに女性よりも個人差が大きい。
Q. 女性のウィルス感染は?
・カゼに関わる因子に男女差があるかどうかは、よく分かっていない。
・炎症に影響する因子には年齢が挙げられ、たぶんホルモンの影響も推定される。
Q.本研究の方法は?
・18歳以上、喫煙歴が少ない人で2週間以上、カゼの症状のない人を無作為に抽出。
症状はすでに報告されているACQ6を使い評価した。
対象は、ほぼ同じ世代からなり性差がないように喘息群150人、対照群151人を比較した。研究協力が得られた喘息群では女性64.7%, 対照群では女性59.6%。喘息は女性に多いことを反映している。
Q.どのように研究を進めたか?
・喘息群と健康人群の比較、性差に及ぼす項目につき統計的に比較した。
・抗ウィルスの免疫に関わる因子として免疫反応に関係する血液細胞を用いて以下を含む項目を調べた。これらと喘息の関連、カゼの頻度との関連性を調べた。
toll-like receptor (TLR)7/8遺伝子の発現、plasmacytoid dendric cell (pDC), 血中のinterferonα、tumor necrosis factor, interleukin-12 productionの測定値。
Q.喘息の人はカゼを引きやすいか?
・喘息の人は1.5倍、カゼを引きやすい(喘息の場合の中央値3 vs 健常者2, p<0.001)
これは、既報の、喘息では、より重症のライノウィルス感染症を起こしやすい、ということに合致する。
ただし、ライノウィルス感染症は喘息では健康人と比較してodds ratio =1.15であるが統計的な有意差なし。
・TLR7遺伝子発現が低値の時にカゼを引きやすい。
・多変量解析では、喘息患者がカゼにかかりやすく、BMI(体重kg/身長m2)が大きいほどかかりやすく, 血液検査で好中球の比率が多いほどかかりやすく、さらに細胞のCLEC4CmRNAが関与していた。
Q.カゼの引き方がどのように喘息を起こすか?
・男女のカゼの引き方の差で喘息の起こりやすさに関わる因子は統計学的には以下の項目で差があった。
年齢が若いこと、CLEC4 遺伝子の発現があること, 血中の好中球数が多いこと。
好酸球数は関係していなかった。
Q.男女差の問題点は?
・女性では、喘息あり、好中球の増多あり、年齢が若いこと、BMIが大きいこと、はそれぞれ、独立してカゼの引きやすさに関係する。
・男性だけの比較では喘息がある場合にはカゼを引きやすくなる。これにはCLEC4CmRNA, TLR7mRNAが関係していた。TLR7が低値, CLEC4Cの高値は、それぞれ独立してカゼ の引きやすさと関係していた。
Q.本研究の要点は?
・カゼを引いていない時でも好中球数の多さ、すなわち全身の炎症とリンクしていること、好中球のある特定の種類の反応に男女差があることを示したことである。
・女性では血中の好中球数が多いこと、男性ではpDC細胞の増加がある場合にカゼを引きやすい。
・オランダの大規模試験でも喘息で好中球数が多い人は増悪回数が多いことが報告されている。
Q.男女の喘息患者の比較は?
・女性と男性の比較では女性では、好中球数が多い、若い、子供との接触なし、がカゼをひきやすいことが統計学的に判明した。
男性は、TLR7発現が低値。CLEC4Cの発現が高値は、それぞれ、独立してカゼにかかりやすい。
・喘息コントロールが悪い人では、TLR8遺伝子発現が減少、BMIが高値である。
喘息、年齢、炎症マーカー、末梢血の抗ウィルス免疫がしばしばカゼを引きやすい。カゼの引きやすさには男女差がある。
Q.喘息の人はなぜカゼを引きやすいか?
・X染色体にはToll-like 受容体7(TLR7), Toll-like 受容体8(TLR8)がある。この受容体にウィルスssRNAが結合する。従って、抗ウィルス作用を考える際に重要である。
・これらの受容体の活性化は抗ウィルス作用を有するI型インターフェロン(IFNs)の産生を促す。これら抗ウィルス物質の減少は、より呼吸器感染症を起こしやすくする。
これまでにI型IFNの産生減少とライノウィルス感染によるTLR7発現と喘息の機能状態の関係を研究した報告がある。
・I型IFNの反応に関与する因子にはpDCsの変動, 性、年齢がある。
喘息は肥満と深く関係することが知られています。肥満はインフルエンザにかかりやすいことが知られています。子供でも肥満児は呼吸器感染起こしやすいことが分かっています。この論文では、注意点は、BMIが25kgm-2 以上の場合としていますが、一般に太ると喘息が悪化しやすいことが知られています。特に若い女性では、要注意です。
若い女性で、カゼを引きやすく、カゼを引くと咳が長引くなどの症状の人をたくさん診ます。この論文を参考に考えると、喘息でカゼの引きやすさは、体質的な問題がかなり関与していることが分かります。女性が持つX染色体にはToll-like 受容体7(TLR7), Toll-like 受容体8(TLR8)が関与しており、これらは以前から感染のかかりやすさに関係すると推定されていました。
これまでは、好酸球数が多い人はアレルギー反応との関係が深いことが知られています。この論文で述べられている好中球数が多い人ではウィルス感染を起こしやすいという結果は参考になります。簡単にできる検査だからです。
喘息は男性よりも女性に多いことは多くのデータから知られていますが、ホルモンが関係しているとはこのデータからも簡単に言い切れないようです。
ここで紹介をした論文は、問診と簡単な血液検査からでも感染にかかりやすい喘息を推定できる可能性があるという点で貴重な情報といえます。
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