• 木田 厚瑞 医師

No.132 集中治療室に収容できない重症新型コロナウィルス感染症の治療


2021年1月12日


 わが国の多くの地域で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が急増しています。最重症例は集中治療室(ICU)で治療。基礎疾患がある人やリスクの高い人は入院し、隔離された専用の一般病棟での治療。若い人やリスクが少ない人では隔離され、指定されたホテルでの隔離となっていることが多いようです。患者数が急増した地域では、次第にその対応が難しくなり、医療崩壊が心配されています。

 昨年(2020年)、春ごろ、イタリア北部では、短期間に患者が急増し、医療崩壊に近い状態まで追い込まれました。ここで紹介する論文は、もっとも患者数が多かったミラノ周辺で各医療機関が、どのように危機を乗り切ってきたか、の集計報告です。


 人工呼吸器を装着しない非侵襲性換気療法(NIV)の一つとして、閉塞性睡眠時無呼吸症候群で使用されているCPAP治療(間歇的陽圧呼吸療法)を重症のCOVID-19に、それも一般病棟で使用したときの治療効果とその問題点を指摘した論文です。いま、わが国がそれに近い状況に直面している中で参考となる点が多いと思います。




Q.COVID-19による呼吸不全とは?


・COVID-19による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が問題である。高度の低酸素血症、胸部画像の浸潤影。呼吸困難。多くは気管内挿管で人工呼吸器装着が必要である。




Q.侵襲的治療のリスクは?


・死亡率はICUで治療した患者全体で16~78%に達する。気管内への挿管治療による侵襲治療は合併症が多く、これによる死亡率の増加も考えられる。


・1回換気量が過剰、肺静水圧が高すぎ、これにより患者個人のリスクが上昇する。




Q.非侵襲的治療(NIV)選択の利点?


・ARDSの時に、NIVの実施は、気管内挿管が直ぐにできない時の選択肢である。


・患者数が急増し、ICUベッドが不足となり、一般病床で対応せざるをえなくなった。

これまではCPAP治療の代用は、挿管ができない患者でのみ便宜的に実施されてきた。




Q.非侵襲的治療(NIV)選択の欠点?


・非侵襲性換気療法(NIV)が増加しているが、この治療がどの程度の効果を挙げており、今後も推奨される治療法となりうるかは疑問。


・NIVは、ICUで行うことは少ないので酸素飽和度、血圧、心電図など継続的におこなう身体所見のモニターができない。


・NIV実施中ではマスクからの空気漏れは室内汚染、医療者感染のリスクを高める。


・ARDSを伴うCOVID-19の治療ガイドラインによればNIVも高流量の酸素を投与するハイフロー鼻酸素療法(HFNO)の両方とも治療推奨度が低い。ヘルメット式CPAPの推奨度はさらに、低い。すなわち、エビデンスが少ない。


・重症となり換気量が大きい場合、一般病棟でモニタリングが少ない場合に医師、看護師らが治療を行う時に迷いの幅が大きくなる。そのような環境の中で評価が不明なCPAP治療を行うことになる。




Q.非侵襲的治療(NIV)選択の理由は?


・COVID-19が急増し、病床数が逼迫した段階では挿管を減らすという意味でHFNOやNIVは使わざるを得なくなる。


・イタリアでは、これまでも場合によっては、CPAPで対応してきたという事情があった。臨床医の苦衷の判断でNIVの治療選択を行った。




Q.研究方法は?


本研究の目的は調査日を決めてICU以外でNIVがどのように実施されているかを調査したものである。


・イタリア、ロンバルディア地方、ミラノ周辺の31病院の実態調査。


・2020年3月26日(木曜日)あるいは31日(火曜日)現在のどちらかでの調査。


・調査対象:18歳以上、COVID-19肺炎の診断、ICU以外でのNIV実施あり。




Q.当時の医療事情は?


・周辺37施設のうち31施設が調査に協力。ICUベッドは平時に比べて223%増で稼働していた。そのうち96%は使用中。ICU治療がほぼ限界に近かった。


・COVID-19による入院は全体で8,753人、全病院病床数の62%に達していた。




Q.調査結果のアウトラインは?


・COVID-19の診断で入院中の患者総数は8,753人。


・ICU治療は854人(9.7%)。このうち、53人(6.2%)はICUでNIVを受けていた。40人は抜管後だった。


・909人(10%)がICUの外で治療された。


・ICU以外でNIVを受けていた患者の大多数は、CPAP治療だった。778/909 (85%)。NIVの大多数はヘルメット式CPAPだった(617人。68%)。


・NIV失敗例は300人(37.6%)。498人 (62.4%)は挿管なしに生存退院。全体の死亡率は25%。


・NPPV(非侵襲性陽圧呼吸法)は90人(10%)。通常のフェイス・マスク治療は248人。


・ハイフロー鼻酸素治療(HFNC)はわずか39人だった。


・予後調査は、798人で実施可能であった。37人は調査時点でなお、入院中だった。


・NIV開始後、5日間で方針変更による気管挿管は123人(15.4%)で実施。177人は、NIVを実施したが気管内挿管はせずに死亡。


・うち138人は患者、家族との話し合いでDNI(挿管不要)の判断がなされていた。


・PaO2/FiO2 比(動脈血酸素分圧と吸入している酸素濃度の比)<150mmHgは152/284 (53%)。


・NIV失敗例ではCRP高値、低PaO2/FiO2 比、血小板数減少が失敗の原因に関係する独立因子。


・重症COVID-19でICU以外の治療が多い。ヘルメット式CPAP治療で実施されている成功率は68%であり、これはICUで行う通常の侵襲性治療の75%に近い。




Q.NIV治療が失敗した症例の特徴は?


・NIV失敗例はより高齢者(72歳vs 64歳)、より虚弱者。合併症として虚血性心疾患、糖尿病、悪性腫瘍、現および過去の喫煙者。高血圧には差がなし。




Q.NIV治療者の内訳は?


・NIVは入院直後から開始。平均は1日(0~4日間)。NIV失敗、成功者間で開始時に差がなかった。


・COVID-19の初発症状より入院までの日数の平均は7日(5~10日間)。

中等度の低酸素血症あり(PaO2/FiO2=172mmHg)。多くは低PaCO2で高二酸化炭素血症が少ないこともCPAP治療が選ばれた理由だった。

430人(53.9%)はPaCO2<40mmHg。


・CPAP設定条件でPEEP圧は平均10.8cmH2O(range は2~20 cmH2O)。画像の重症度とは関係なし。


・NIV失敗例では、低PaO2/FiO2であり、PaCO2はやや低値で呼吸困難が強い場合。


・NIV失敗例ではPaO2/FiO2>150mmHgの50人/279人 (18%)、およびPaO2/FiO2<150mmHgの152人/284 人(53%)。




Q.NIVが失敗した症例は?


・腎機能障害、白血球数が高値、血小板減少、CRP高値、頻脈、収縮期血圧上昇が多い。


・多変量解析でNIV失敗例は、CRP高値、低PaO2/FiO2、血小板減少がそれぞれ独立した危険因子だった。高齢は危険因子ではあるが統計的有意差なし。




Q.一般病棟でNIVが選択された理由は?


・COVID-19による呼吸不全患者が急増。呼吸サポートが必要な患者の増加で医療体制がついていけなくなった。


・COVID-19による急性呼吸不全の治療をNIVで行う、risk-to-benefitは不明である。その点でこの論文はこれまでの報告では、最大多数例を網羅している。パンデミックでICU以外のNIV使用はCOVID-19入院例の約12%に達していた。


・ICUでは95%が挿管治療を受けていた。NIVの利用は、最初は中国で実施、その次はニューヨーク市。しかし、ニューヨーク市では入院患者の1%に使っただけだった。これは利用可能なICUベッド数、一般病床の利用度を反映している。


全体では1/3の患者ではNIV治療は、失敗だったがその治療法はICUで治療を受けられない人たちに残された唯一の治療法というべきである。


・NIVはHFNCよりも良い。最も一般的に使用されているのはヘルメットCPAPであり、76%に使われていた。この理由は、機器の使いやすさ、医療者の熟知度、PEEPによるガス交換能の改善効果による。


・最近の報告をまとめたメタ解析でもヘルメットCPAPは気管内挿管を回避し、死亡を防ぐ効果は酸素マスクやハイフローよりも大きかった。


・ヘルメットCPAPでは一定圧を送るのでPEEP圧が一定という利点がある。PEEPバルブは低値の利用が選択できる。


・ヘルメットCPAPは環境汚染が少ないという利点。これは、マスクやハイフローよりもリークが少ないので。ウィルス拡散予防の目的で呼気相のバルブに高度のフィルターを付けることができる。これを付けたときの医療者感染の可能性については調べる必要がある。


・挿管回避により肺傷害を避ける利点とMIV使用の利点を考えたバランスの中でどちらを選択するかの判断が必要である。


・ARDSに対して行う人工呼吸器の装着では換気量増加による過剰圧による気胸など、過剰圧の危険に加え、毛細血管に高圧をかけることによる肺傷害が起こりうる。


・重症COVID-19における呼吸困難、呼吸補助筋使用、PaCO2のモニターでNIVの選択を決めるのが良い。


・その場合に、CRP高値, 白血球増加、血小板減少があれば多臓器傷害の可能性が高くなり予後不良の可能性が高くなる。


 イタリアで発生したパンデミックでは、ICUのベッド、人工呼吸器が足りないという状況になり一般病棟で、通常は、睡眠時無呼吸症候群の治療として家庭で使用しているCPAPを、代用してCOVID-19によるARDS患者を治療しました。この方法は、非常時にやむを得ずとられた対策でしたが多数のデータを集計して振りかえってみるとICUで人工呼吸器を装着して行う治療と同等に近い結果が得られていました。

 わが国においても今後、考え得る治療選択肢になると思われます。




参考文献:


1.Giacomo Bellani C. et al.

Noninvasive ventilatory support of COVID-19 patients 0utside the intensive care units (WARd-COVID)

Ann ATS: Articles in press. Published January 04, 2021 as 10.1513/AnnalsATS.202008-1080OC


※無断転載禁止

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