2021年1月19日
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、経過中の肺がん発生リスクが高い疾患として知られています。共通原因は喫煙であろう、と考えられていましたが、最近、フランスのグループが発表した論文は[1]、閉塞性無呼吸症候群(OSA)の治療経過中に癌発生が多くなることを明らかにしています。その機序は、夜間、睡眠中に長く続く低酸素血症が原因ではないか、と推定しています。
喫煙―COPDー肥満―OSA―低酸素血症のつながりが発癌、特に肺がんの発生と結びつく可能性を指摘したもので極めて示唆にとんでいます。
Q.これまでの問題点とされてきたことは?
・実験的および臨床的なデータからOSAは、発癌機序と密接に関係しているのはないか、とされてきた。
・動物実験でのデータではOSAがあると、腫瘍発育、転移の起こりやすさが指摘されている。
Q.発癌とOSAが関係していると推定される機序は?
・交感神経の過剰活性化?
・全身性の炎症反応?
・血管新生亢進?
・免疫学的異常?
Q.OSAと発癌の関係を指摘した研究は?
・OSA疑い患者で重症度と発癌が関係する。(Campos-Rodriguez F, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2013;187:99-105)。
この論文では夜間就寝中の低酸素血症(酸素飽和度<90%:T90)が関係していた。
・しかし、既報の3編の論文中、2編は無関係であると報告。1編では45歳以上では関係していたが以下では無関係だった。
Q.本論文の研究方法は?
・フランス、多施設共同研究。フランスでは退院時の病名登録は、全国でPMSIと呼ばれる統一したものを使っており、多施設のデータの結合が容易である。
・2007年5月~2015年12月までにOSAと診断された11,218例。うち、818例に癌の診断あり。1,644例は臨床データが不十分。818例は睡眠データなし。
8,748例が、睡眠に関するデータあり、と判断された段階で癌はなかった。
・OSAの検査がされた患者の特徴:男性が多く、肥満。メタボリック症候群関連の病名あり。
・8,748例の内訳:OSAなし(1,161例:13.0%)、軽症OSA(1,878例:21.5%)、中等度OSA(1,826例:21.0%), 高度OSA(3,883例:44.5%)。
・OSAの重症度と関連したのは、高齢者、肥満度BMI高値、男性が多い。糖尿病、高血圧、心血管疾患、飲酒習慣あり、喫煙習慣あり。
・5.8年間の追跡調査で718人の癌患者あり(8.2%)。内訳は、大腸直腸(129例)、肺69例)、前立腺(66例)、乳がん(62例)。
・癌の診断ありは、OSAが重症化するにつれ増加(P<0.0005),T90による夜間就寝中の低酸素血症と相関(P<0.0001)。
出典:Justeau G. et al. CHEST 2020; 158:2610-2620より一部改変
図説明:癌の発症が無く生存した期間をT90(=酸素飽和度<90%の時間)の大きさに分けて比較した図。
酸素低下が無い正常群では癌がない状態の期間が最も長い。最重症のOSAでは有意に短い。
Q.何が判明したか?
・既報の、動物実験では低酸素血症が強いほど癌の進行が早い。
・就寝中の低酸素血症は、発癌だけでなく、心房細動、心血管病変のリスクとなっている。
・癌の発生は、心疾患、肥満度(BMI)、COPDなど本来、発癌が多い疾患を補正してもT90が有意に相関していた。
・COPDとOSAの合併例は本研究でも多いが(約10%)、肺がんの合併が多い。
T90が13以上の最重症OSAでは、偶然、肺がんが発見されるHazard Riskは2.14(p=0.0349)。
典型的なOSAの症状は、睡眠中のいびき、反復して起きる無呼吸、昼間の眠気ですが、心血管病変の頻度を高めるだけでなく発癌の危険が高まるという点で注意が必要です。
私たちは、COPD、喘息に合併したOSAの方をたくさん、診ています。
OSAは、実は簡単な病気ではなく、経過中に別の病気の合併が起こりやすいことが知られています。つねに全身への目配りが必要な病気の一つです。
慢性呼吸不全は、高度の低酸素血症が持続する状態で多くの方が、在宅酸素療法を実施しています。この場合でも低酸素血症は、他の病気を起こしやすいと云う点でOSAと共通している部分があります。
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