No.142 問題点が多い女性の慢性閉塞性肺疾患

2021年2月13日


 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、わが国では圧倒的に男性に多い疾患です。受診のピークは、年齢でいえば、60歳前後のころ。定年が近づいてきたころに身体の変調に気づき受診することが多いようです。実は、40歳後半ごろからすでに兆しがあったはずですが、ほとんどの人では、残念ながら受診するところまでには至っていません。


 近年、問題となっているのは女性のCOPDが増えていることです。これまでCOPDという病気の説明は、型にはまった画一的なイメージでなされてきました。教科書的な典型的な患者像は男性で説明されています。欧州呼吸器病学会(ERS)と患者財団(ELF)は、危機感をつのらせキャンペーンとして、女性のCOPD患者をイメージした美術作品を募集しました。全世界から57点の応募があり、トップに選ばれたのはインドの芸術家、Deo Prasad Raiの作品です(図1) [1]。「私の祖母」と題された絵は、孫と遊んでいる74歳の祖母を描写したものです(左側)。年齢よりもはるかに年が取っているように見えます。右側はその祖母と作者が並んだ写真です。祖母は、長い間の重喫煙者であり、労作時の息切れを訴え、いつも咳をしていました。祖母はタバコ煙の危険性を知っていましたから孫たちの前で決して吸うことはありませんでした、と説明がついています。

出典:McIvor ER, et al. Women with COPD. Breathe 2020; 16: 200239.



 女性のCOPDの特徴と問題点は何か。ここでは啓蒙運動で表彰された、英国、カナダからなるグループによる論文[1]を紹介します。




Q.COPDの問題点は?


・COPDは罹患者数、死亡数において実質的に国際的にも重要な疾患と位置づけられている。患者だけでなく家族のQOL(生活の質)をも損なう。また、医療費の高負担は社会全体の問題となっている。


・カナダでは、COPDは死因の第4位。男性では入院理由のトップ。女性では第6位。

2019年度には、35歳以上のカナダ人の8万5千人がCOPDと診断された(注:カナダの総人口は2018年現在で3,708万人)。




Q.COPDにおける性差の問題とは?


・COPDが、医学的、啓蒙的に紹介されるときは、典型的な男性の病気として紹介されてきた。


・以前は、COPDは、男性優位と考えられていたがこれは明らかに時代遅れの考え方である。COPDは女性にとっても重要な疾患であることが認識されていない。過去、20年間でCOPD死亡者は男性では一定であるが女性は2倍に増加してきた。


・スペインからの報告[2]では調査した1,610人のうち、17.9%が女性であった。


・この論文の特徴は、非喫煙のCOPD発症の違いを指摘していることである。男性では非喫煙者のCOPDは、0.6%であった。他方、女性の非喫煙者のCOPDは、9.1%であった。

女性の方がタバコの影響を受けやすい。女性で煮炊きや、野焼きなど廃棄物処理の煙を吸う機会、受動喫煙影響が多いこととも関係している。




Q.女性COPDの問題点は?


・COPDと診断されるまでの期間が長い。女性は男性と比較して、より進んだ段階で初めて指摘されている。


・その結果、早期の治療開始や症状に関わるQOL改善が遅れている。


・診断の遅れは、不安感を増し、健康不安を抱えることになる。さらに多くの女性COPD患者は自分の自覚症状に気づかず、かかりつけ医に自分の症状を報告することもしていない。


・2019年、米国胸部学会総会で発表された演題に、女性COPDは男性よりも本数が少ないにも拘わらずCOPDを発症すると発表された[3]。ところが女性COPDはより重い症状があり、QOLが低く、より増悪回数が多いという。


・このSPIROMICS研究と呼ばれる前向きコホート研究[3]では、COPDの予後の性差を検討した。研究は、1,832人のCOPDの診断された人で20本/日、20年間以上の喫煙歴あり、全体の42%が女性。QOLの定量評価では、女性は男性よりも低値で悪化。6分間平地歩行テストでは、男性に比べ距離は31.4m低下。重症の増悪回数が男性よりも多かった。


・米国、2004年度と2014年度の比較ではCOPDの啓蒙活動が進んできたので、男性ではCOPDによる入院は減少し、院内死亡例は減少してきているが女性では両者とも増加している。




Q.女性COPDの対応は?


・症状では気づきにくいので早期発見では受診し、まず、肺機能検査(スパイロメトリー)の実施が勧められる。


・女性COPDの特徴について不明な点が多く、全貌が分かっていない。研究を進める必要がある。




 私が診ている女性のCOPDの患者さんの中には重症となり在宅酸素療法を実施している患者さんがかなりいます。ここで取り上げた論文でも言及していますが非喫煙者のCOPDが女性で増加しています。さらに、喫煙者では、働いていない主婦で、ご主人のタバコを少し貰って吸っていただけで重症になった人。併存する骨粗鬆症が悪化して腰痛で困っている人。喘息症状が加わって強い発作を起こす人。経過中に心筋梗塞を経験した人。閉塞性動脈硬化症で下肢の切断にいたった人。肺がんが見つかった人など多彩です。女性のCOPDの全体像は複雑です。働く女性が多くなり、若い女性の喫煙率は、男性よりも増加している印象があります。わが国でも女性のCOPD対策を急ぐ必要があります。


女性の喫煙には危険が多いことはコラム(No.114)でも触れています。




参考文献:


1. McIvor ER, et al. Women with COPD. Breathe 2020; 16: 200239.


2. Trigueros JA, et al. Clinical features of women with COPD: sex differences in a cross sectional study in Spain (“The ESPIRAL-ES Study”). Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2019; 14: 2469–2478.


3. Lambert A, et al. Women with COPD experience increased symptom burden, frequent and severe exacerbation, and impaired functional capacity as compared to men in SPIROMICS. Am J Respir Crit Care Med 2019; 199: A5941.


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