2021年3月10日
新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)に対するワクチンは、中国、ロシア製を除けば、英国の1種、米国の2種に限られていました。米国、食品医薬品局(FDA)は、最近、第3のワクチンの緊急使用許可(EUA)を付与したと伝えています。これが認可されれば米国では3種類のワクチン、すなわち先行開発のPfizer、Modernaと新しく開発されたJohnson &Johnson社の使用ができるようになります。
すでに、英米では、広く一般人に対するワクチン接種が進められてきています。複数のワクチンがあることによる、問題点が浮かび上がってきました。まず、3種類のワクチンの比較を説明し[1]、複数のワクチンがあることにより生ずる問題点を解説します[2]。
Q.3種ワクチンの作用機序の違いは?
・PfizerとModernaは、mNRAを利用している。
mRNAの指示で作られるタンパク質が免疫系を活性化し、SARS-CoV-2が持っているスパイクタンパク質を異物とみなし体内で抗体を作るようになる。
・Johnson &Johnsonは無害なアデノウィルス(風邪のウィルス)を利用し、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の遺伝暗号コードを運ばせる。アデノウィルスが、体内の細胞に入ると、このコードを利用してスパイクタンパク質である抗体を作る。
Johnson &Johnsonはこの方法によりエボラ熱のワクチンを開発したという実績がある。
Q.3種ワクチンのターゲット層の違いは?
・Pfizerは16歳以上。
・Moderna は18歳以上。12~17歳で臨床治験が進行中。
・Johnson &Johnsonは18歳以上。
Q.ワクチンの有効性の違いは?
・Pfizerは2回接種後に95%の有効性。
・Modernaは同じく2回接種後に94.1%の有効性。65歳以上でやや低い。
・Johnson &Johnsonは1回のみの接種。接種28日後、米国で72%、南米で66%、
南アフリカで57%の保護作用。
➡3種とも無症候性感染に対する有効性は不明。
Q.副反応の比較は?
・Pfizer、Modernaでは最も⼀般的な副作用は、注射部位の痛み、倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛と、臨床試験段階では発熱。
・重度の副反応は、100万例あたりPfizerは4.7例、Modernaは2.5例。Johnson &Johnsonは1例。
Q.ワクチンの保存、運搬方法の違いは?
・Pfizer、ModernaのmRNAワクチンでは運搬、保存に複雑なコールドチェーンが必要である。
・特にPfizerでは最初、バイアルを保管するため華氏-94度(-70℃)冷凍庫が必要とされたが最近、華氏-13度から5度(-25から-15℃)の間で、2週間のみ保存できると変更した。
・Modernaでは冷凍庫内温度である華氏-4度(-20℃)で出荷する必要がある。
・Johnson &Johnsonではバイアルに穴が開いていない状態では室温で12時間保存が可能。最初の投与が中止された後、バイアルは冷蔵庫で6時間、または室温で2時間保管できる。通常の冷蔵庫の温度で3カ月以上保存が可能である。
Q.最小注文書は?
・Pfizerでは最小注文量は1,170回分。6回分バイアルで出荷される。
・Modernaでは最小注文量は140回分。14回分バイアルに入っている。
・Johnson&Johnsonでは最小注文量は不明。5回分バイアルにパッケージされている。
Q.ワクチン接種の基本原則とは?
二つの相対する問題点がある[2]。
・第1に、国民の健康を守るという目標達成のためにできるだけ多くの人にできるだけ早くが原則。そのためには投与を合理化することが重要である。他方で、ワクチンの選択肢が増え、その個人的希望を受け入れると接種の効率が大幅に低下する可能性がある。
・これに反する第2の問題点として、パンデミックの間を通し、すでに医療面では患者の自律的な判断を大きく制限してきた。例えば、待機手術が遅れ、入院患者での面会の慣行が縮小されるなど、すでに本来、保証されるべき権利は大きく制限されてきた。緊急事態に入り、医療面での人、物の不足に加え、病院逼迫の危機は患者自身の判断により必要なケアにアクセスすることを制限してきた。
Q.ワクチン接種という医療行為で生ずる問題点とは?
・第1に受ける側の自律による判断が原則である。患者の人格と自己決定が大切にされなければならない。
・複数回数の接種よりも単回接種を好む可能性あり。
・接種による効果が発症率や死亡を減少させるという公衆の健康推進よりも自分の価値観に合わせた希望が多くなるかも知れない。
・第2に、利点として複数の選択肢があることは、全体的な予防接種の受け入れを増加させるかも知れない。
・第3に行政に申請された臨床治験データによる効果、副反応の予測よりも、実際に利用が可能なワクチン接種ではその効果は、治験データに一致しないかも知れない。行政は便宜性、公平性、平等性を重視している。
Q.米国の医療はワクチン接種をどのように新しく受け入れていくことになるだろうか?
・米国の医療は、患者の自主的な判断を重要視して進められてきた。ワクチン接種では、選択肢を多くすること、接種を自由に断ること、などが自分の判断でできるべきだ。
・米国では、COVID-19によりヘルスケアへのアクセス制限、経済的脆弱性、構造的な人種差別、その他の要因から生ずる社会的条件における既存の不平等がさらに拡大してきた。自分の好みを重視した場合、経済的な裕福者に優先的に接種が進む差別化が生ずる可能性ある。
・政策立案者、医療制度、その他のワクチン接種の実施組織が、数種の中から1種類のワクチンを選択し、選択理由や問題点など本当のことを受ける側に正確に伝える義務がある。
わが国では、ワクチン接種は始まったばかりですが、今後、広く実施を広げるとすれば多種のワクチンの方が十分なサプライ量が期待でき便利です。多種にわたった場合に恐らく地域ごとに異なるワクチンを接種する可能性があり、業務内容が極めて複雑化する可能性があります。いずれ、季節型インフルエンザワクチン接種のようにプライマリケアの医療機関で接種を行うようになると思われますが恐らく、米国で問題となっているとほぼ同じような問題点が生ずる可能性があります。
Comments