2021年3月16日
COPD(慢性閉塞性肺疾患)に罹患している患者さんの95%以上が元喫煙者か、いま、喫煙している人たちです。他方、喫煙者側からみると15~25%がCOPDを発症すると云われます。
どのような人たちがCOPDになっていくのか?
喫煙を続けていてもCOPDにはなりにくい人はいるのか?
COPDと診断されたら薬が必要となるのか?
いまだに疑問点だらけのCOPDに米国、ノースカロライナ大学を中心とした12の研究グループが2010年以来、一貫して取り組んでいるテーマが、前述の疑問点などです。略称、SPIROMICS と呼ばれ、COPDの臨床問題を遺伝子レベルの解明まで結びつけることをテーマにした研究を展開しています。
COPDを避けるためには、一律に禁煙を勧めた方が良いに決まっていますが、ここでは、このグループがテーマとした問題の回答として、New England Journal of Medicine(NEJM)に発表した論文[1]を紹介し、次いで最近、発表した新しい論文[2]を解説します。
Q.現在のCOPD診断法の問題点は?
・吸入薬を吸った後でスパイロメトリーにより1秒量(FEV1)と努力性肺活量(FVC)の比、FEV1/FVCが0.7以下の場合にCOPDの診断が確定する。
・しかし、この基準値に入らないのに、咳、痰、息切れなどの呼吸器症状があり、症状が一時的に悪化する「増悪」のエピソードがあり、さらに胸部CTで異常が見られる人がかなりいる。
・COPDには、多様な病型がありスパイロメトリーの検査だけで診断できるほど簡単ではない。
・近年、胸部高感度HRCT画像での解析技術が高まり、肺組織の一部が壊れた肺気腫所見、気管支に炎症が持続した結果生ずる気道壁の肥厚などの病的変化を読み取ることができるようになった。しかし、これらの所見は、スパイロメトリーの異常と必ずしも一致しない。
Q.現喫煙者、元喫煙者ではどのような問題が生ずるか?
SPIROMICSは2010年に発足したが、2016年にNEJMに発表した内容の要点は以下の通りである。呼吸器症状は、CATと呼ばれる定量化を用いた(0~40点:40点がもっとも症状が強い)。
・喫煙歴あり(元喫煙者、現喫煙者)と喫煙歴なしの人たち、計2,736人で以下の研究結果を得た。この人たちの継続した対象研究は最近も継続されている。
・FEV1/FVCが正常値であっても喫煙歴ありの50%の人たちでは、呼吸器症状がある。
・喫煙歴がある人で呼吸器症状を伴っている人たちは、喫煙歴があっても無症状の人や喫煙歴がない人たちと比べて増悪の回数が有意に多い。
・喫煙歴があり、呼吸器症状がある人たちは、喫煙歴ありで、無症状の人たちと比較して喘息症状の有無に拘わらず日常の活動性は低下しており、FEV1, FVCが低めに経過し、胸部HRCTでは気道壁が厚く見られる。
・喫煙歴があり、呼吸器症状がある人たちでは、その42%は吸入薬の気管支拡張薬を、23%がステロイド薬を使用している。
Q.次の論文での研究方法と結論は?
・SPIROMICSと呼ばれるCOPDの研究に関係している研究者、72名が加わっている研究グループ内部で行ったアンケート調査を実施した。
・統計処理は、ドルファイ調査検索方法という、統計学的に合意点を捜しだす手法を用いた。
これは専門家の間での意見の相違を途中で討論会を持ちながらくり返し調査を進める手法である。
・研究目的は、「回復力のあるCOPD」をどのような方法で診断するか、である。
・喫煙歴のない男性では、FEV1の年間低下は、19.6ml、女性では17.6mlであった。
・SPIROMICSに登録し、追跡調査を行っている、計2,973人のうち、FEV1/FVCが0.7以下の人(n=1,847)、および喫煙歴のない人(n=202)は除外した。喫煙歴があり、スパイロメトリーが正常な人でも「増悪」エピソードがあり、呼吸器症状あり、胸部高感度CTで異常ありは除外した(449人)。
・計149人(16.7%)が「回復可能な人たち」に該当することが判明。非喫煙者、喫煙者の両方を含むがありだがドルファイ調査により委員会メンバー総意で回復可能者と分類した。このグループと喫煙ありで回復不能者に分けて比較した。
・「回復可能者」は、現喫煙者が少なく(38.9% vs 51.0%)、4.8%だけがCOPDと診断されていた。
・「回復可能者」では血中のCRP値が低値。
・症状、増悪の有無、胸部高感度CTの異常、FEV1の低下速度、の4項目の比較では下図のような構成となった。
出典:Oh AL. et al. Ann Am Thorac Soc. 2021 Nov;18(11):1822-1831.より一部改変
スパイロメトリーが正常で喫煙歴ありの892人を症状あり、増悪あり、胸部高感度CTで異常あり、FEV1の低下幅が大きい、という4項目でそれらの分布図を示した。294人ではデータの一部が欠損してため除外。このグラフの人数に入っていない人たちが、「回復可能」と判断された。これに該当するのは、喫煙歴ありで計149人であった(全体の16.7%)。
すなわち、全体の16.7%は、悪化せず、むしろ健康な状態を維持できそうだ、と結論した。残りの人たちは、将来、悪化し、COPDに近づくか、基準に入る可能性が高い。
従来、喫煙者の15~25%でCOPDが発症すると云われてきました。これは、スパイロメトリーのデータによる追跡調査です。本研究では、喫煙歴ありでは、83%以上がCOPDに移行する可能性を示唆します。
在宅酸素療法や在宅人工呼吸療法が必要となる最重症のCOPDを頂点とするなら、それよりも中等度あるいは軽症な人は次第に多くなることが経験的に知られています。
COPDの予備群を予見し、早目にどのような治療を開始すればもっとも効果的であるか?
難しいのは、次第に悪化していく可能性のあるCOPDをどの時期に発見するか、また、その治療方針を早期にどのように立てるかが問題です。最初に薬ありきではないことは確実です。薬が不要な状態を保ち続ける工夫が必要となります。
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