2021年3月17日
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、親兄弟など血族の中に同じくらい重症の人が複数いることは良く知られています。主な原因は、喫煙習慣ですが、喫煙者の15~25%しか、発症しないことから遺伝的な影響は確実視されています。
共通する遺伝子があるかどうかを調査する研究は、多くの人種を網羅し、しかも多数の人を調べなければならないこと、これに伴う莫大な研究費用がかかることが問題です。
ここで紹介する論文[1]は、国際COPD遺伝学コンソーシアム(ICGC)を設立し、国際的な研究グループを立ち上げ実施した研究です。代表者として50人以上と、さらに7つの大きな研究グループによる共同研究です。
結論的には、COPDと喘息は近接した関係にあるのに対し、肺線維症はCOPDとは異なる範疇に入る、という臨床的な観察事項を支持する所見となりました。
Q.研究方法?
・中等度異常のCOPDと診断された15,256例と健常者47,936例を比較し、ゲノム全体でCOPDに関係する遺伝子、22個の遺伝子座を特定した。
・次いで、別に設定したCOPD、9,498例と健常者、9,748例を同じ方法で検討し、先の22個の遺伝子座の再現性をチェックし、一致することを確認した。
Q.研究成果の意義は?
・今回の研究でCOPDと関連することを確認した13種の遺伝子座は肺機能に関連していた。そのうち、4つは新規の発見であった(EEFSEC, DSP, MTCL1, SFTPD)
・肺線維症と共通するのは2種(FAM13A,DSP)であったがCOPDのリスク対立遺伝子は反対方向であった。
・喘息のゲノムワイド関連と重複する新しく発見した遺伝子はなかった。
・しかし、1個の遺伝子座は喘息と肥満に関するものであった。
・COPDと喘息の間の遺伝子の差異は、臨床的に確実に区別する方法がないため個体を区別して調べることができなかった。
・COPDと喫煙行動に共通する遺伝子座があった(15q25,19q13)。
膨大な臨床データをもとにCOPDに関係する遺伝子を特定するに至りました。発見された遺伝子は入力した臨床データに対応するものが明らかになったということであり、どのようにして病気が発症するか、進むかを予見するものではありませんでした。ここで示したデータ以外ではCOPDに併存する心血管病変や骨粗しょう症との関連性を示すデータがありますが、特定の人たちで併存症が見られるというものです。日常の臨床では、網羅的に全遺伝子を調べて予見しながら治療戦略を立てることなどは煩雑さから到底、不可能です。結局、症状や検査に加えて経験的に治療を進めるということに落ち着きそうです。