No.16 COPDの増悪


2019年11月5日


COPDの研究論文は、年を追うごとに増え続けています。

その中でもここで紹介する論文は、米国の臨床医学雑誌ではトップと言われている一流雑誌であること、著者の二人はCOPDのオピニオン・リーダーであることです。引用されている文献の数は75編、ほとんどが5年以内の新しい発表です。タイトルは、「COPDの臨床的な最新の見解」[1]。


この論文の中では、私は、「増悪」がどのように記載されているかに特に興味を持って読みました。増悪は、COPDの治療を担っている医療者にとって、もっとも手ごわい現象です。治療に難渋することがあり、治療が奏功しても肺機能は大きく低下し、足の筋力も低下し、日常の活動性は大きく低下することが少なくありません。COPDの治療で診る医師の技量が問われるのは増悪をどのように診断し、治療するかにあると思われます。



Q. 増悪とはなにか


増悪の定義は1987年にカナダ、マニトバ大学のニック・アントニーセンによるものが現在でも使われています。

「上気道の感染による炎症がある場合、ない場合に関わらず息切れがいつもより強くなり、咳と痰が多い」。

あいまいな表現であり、これに従って増悪を見分けることは簡単ではありません。1980年代初期に私は、彼の主宰する教室の隣で研究に従事していました。博識で直観力に富んでいる彼なりの表現ですが、増悪をこれ以上に詳しく定義することは難しいと思います。明らかな肺炎を起こしている場合は増悪とは呼びません。要するに、COPDと診断されている人がカゼ症状に近い症状を呈する場合を指しますが、カゼと異なるところはいのちに関わることが多いことです。


以前は急性増悪と呼ばれていましたが、実際には数か月間にわたり息切れ、咳、痰が続き、適切な治療で安定した元の状態に戻せることがあり、必ずしも急性の経過ではない、という意味で「増悪」と呼ばれるようになりました。




Q.増悪の重症度はどのように決めるか


大まかに軽症、中等症、重症に分類されています。重症は救急入院が必要な程度であり、COPDでは合併症(併存症と呼ばれています)が同時に悪化することがあります。これらには心筋梗塞、脳梗塞、急性肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群として知られている)が挙げられていますが、他にも多種が知られています。


症状では呼吸困難が強く呼吸数が多い、血中の酸素濃度が低下していることなどが目安となり、入院治療が必要となる場合は、肺機能検査で1秒量が1L 以下の重症、血中の酸素が不足、二酸化炭素が過剰のほか、重い合併症がある場合です。




Q.増悪はなぜ問題か


増悪の頻度が多くなると、これと並行して健康に関連した生活の質(QOL)が低下していき、肺機能も低下がみられるようになります。入院が必要な重症では20%が30日以内に再入院となることが知られており、これが問題となるのです。


多くの場合に増悪は治療を開始しても回復までにある程度の日数がかかることも問題です。




Q.増悪の原因


3つの要因が知られています。

1)過去に増悪を起こしたことがある。

2)肺機能検査では経過で悪化している。

3)逆流性食道炎がある。


著者たちは、3)を挙げていますが実態は不明です。患者さんごとに異なる多様な原因があります。禁煙していたのに再び吸い始めたということもありました。また、大気汚染が強くなると増悪を起こしやすくなることが知られています。

30-50%で細菌やウィルス感染が原因となっています。細菌では、インフルエンザ桿菌、肺炎球菌、モラキセラ・カタラーリスのほか、クラミジアが挙げられています。ウィルス感染ではインフルエンザのほか、ライノウィルス感染が知られています。




Q.増悪の予防


1)日常生活で運動習慣がある。

2)禁煙。

3)薬の処方が適切であり、指示された通り服薬していること。

4)インフルエンザ、肺炎球菌のワクチン接種を行うこと。

5)大気汚染が強いときは室内で過ごすこと。




過去5年間に報告された研究論文の中で信頼できるものをつなぎ合わせた解説ですが、「増悪」については残念ながらまだ十分とはいえません。

増悪の中では軽症、中等症が圧倒的に多く、これがCOPDの増悪と気づいていない患者さんが多数です。カゼだと思い込み、市販薬を長期間服薬している人がいます。また、治療を受ける医師を次々と変更すると医師の方もCOPDの増悪と気づきにくくなります。身近なところに日常の様子を詳しく知っている「かかりつけ医」を決めておくことが大切です。





参考論文:

1.Celli BR. et al. Update on clinical aspects of chronic obstructive pulmonary disease. N Eng J Med 2019; 381:1257-66.



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