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No.163 電子タバコと紙巻タバコが呼吸器に与える違い


2021年4月27日


 私たちが毎日、診ている呼吸器疾患の患者さんの6割近くが、喫煙習慣に関連しています。初診時には、喫煙歴を必ず聞きますが、ほとんどの人は喫煙の害を知っているか、感じています。

 禁煙した理由では、健康に関係した理由が多く、子供が生まれたので影響を心配して止めた、あるいは親しい人が、肺がんなどタバコが関連する病気で亡くなったことが機会となった、などです。


 自分でも、紙巻タバコが有害と分かってきたので電子タバコに変更しているという人がいます。


ここで紹介する論文は、電子タバコと紙巻タバコが呼吸器症状にどのように影響するかを解析した論文で、米国、ハーバード大学付属病院のグループが行った研究です[1]。




Q.何が問題か?


・紙巻タバコが有害であるからという理由で電子タバコに変更した人が多い。電子タバコによる呼吸器症状の影響はあるのか、ないのか?




Q.どのような対象者について研究を行ったか?


・米国では、タバコの長期的な影響を調査するための疫学研究PATHがある。本研究はPATHのデータを解析したものである。

 (注:PATH=Population Assessment of Tobacco and Health)


・PATHは12歳以上の喫煙関連データを毎年Waveとしてグループ化し、追跡調査している。


・本研究ではWave3(2016-2018年に登録)のグループを登録1年後に調査した。過去12カ月間、呼吸器症状なかった人たちを対象とした。


・呼吸器症状とは、カゼや肺炎以外の理由で喘鳴、ヒューヒュー、夜間の空咳。


・Wave 3の人たちを以下に3分類した。

 ―現在、紙巻タバコ、電子タバコの両方とも吸っていない。

 ―電子タバコのみ使用。

 ―紙巻タバコのみ使用。

 ―電子タバコと紙巻タバコの両者を使用。




Q.研究結果は?


・登録時に過去12カ月間、呼吸器症状がなかった人は計、20,882人


・―現在、紙巻タバコ、電子タバコの両方とも吸っていない➡81.6%

 ―電子タバコのみ使用➡1.4%

 ―紙巻タバコのみ使用➡14.3%

 ―電子タバコと紙巻タバコの両者を使用➡2.7%


・若年者を除いた比較:

 成人で毎日電子タバコのみ➡54.8%

 成人で毎日、電子タバコ+紙巻タバコ➡22.2%

紙巻タバコの本数は毎日平均10本(7-20本/日)


・Wave4の段階で呼吸器症状があった人の割合は以下の通り。

 ―現在、紙巻タバコ、電子タバコの両方とも吸っていない➡10.7%

 ―電子タバコのみ使用➡11.8%

 ―紙巻タバコのみ使用➡17.1%

 ―電子タバコと紙巻タバコの両者を使用➡19.7%


・呼吸器症状を呈するOddは以下の通り。

 ―電子タバコと紙巻タバコの両者を使用➡1.90

 ―紙巻タバコのみ使用➡1.24




Q.呼吸器症状とタバコの関連は?


・呼吸器症状あり、では喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の罹患率が高い。


・連日、紙巻タバコ使用群は時々、使用群よりも呼吸器症状は多い。


・電子タバコ、時々と連日電子タバコ使用群の間では差がない。


・電子タバコか、紙巻タバコを使用と全く吸っていない群では後者で呼吸器症状は有意に少ない。


・両方使用者では相乗効果となる。




 紙巻タバコが有害であるという理由で電子タバコに変更する人がいます。本論文では、電子タバコも呼吸器系に有害であると結論しています。また、電子タバコ使用者は簡単に元の紙巻タバコに戻る危険性を指摘しています。実際に、私たちが診ている人たちにはかなりみられています。禁煙していたはずの人がいつの間にか、戻ってしまったという人たちもたくさんいます。特に、受診中に一時的に咳や痰が増え、症状が悪化してきた人では問診の際に必ず再確認しなければならない点だと、考えています。


 禁煙治療薬、チャンピックスをうまく使用すればかなりうまく禁煙できます。米国、FDAもその方針を強く勧めています。




参考文献:


1.Reddy KP. Et al. Respiratory Symptom Incidence Among People Using Electronic Cigarettes, Combustible Tobacco, or Both

Am J Resp Crit Care Med in Press. Published April 15, 2021 as 10.1164/rccm.202012-4441LE


※無断転載禁止

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