2021年7月5日
わが国で広く接種が進められている新型コロナワクチンは、mRNA型と分類されているファイザー社製、モデルナ社製です。これと異なるウィルスベクター型が、アストラゼネカ社製です。
ファイザー社製とモデルナ社製のワクチンの安全性と効果は、厳密に計画された第3相の臨床治験により証明されており、それぞれ、米国のNew England Journal of Medicine に論文が発表されています[1,2]。臨床治験は、健康人たちを、無作為に実薬と偽薬の2群に分け、本人にも接種した人にも分からないようにして接種効果を検証したものです。
効果と安全性が検証されても実際の社会で接種効果がどうであったかの検証と必ずしも一致しない可能性があります。ここで紹介する論文[3]は、健康人に対して、mRNAを接種したときの効果を検証したものです。
Q.mRNA型ワクチン接種に伴う疑問点とはなにか?
mRNAワクチンが有する潜在的で重要な二次的な利点は不明である。すなわち、以下の疑問がある。
・ワクチン接種後では、もし、感染しても重症度は低下するか?
・また、感染ウィルスRNAの負荷(ウィルス量)はどうなるのか?
・さらにウィルスRNA検出期間は短縮するだろうか?
Q.本論文の目的は?
米国、6つの州で医療従事者、警察官など社会の最前線で働く人たちにワクチン接種を行い前向きコホート研究として実施した。以下の3つの目的がある。
・流行状態、接種の傾向などを調整して、1回目接種と2回目接種の効果の有効性を評価した。
・PCR検査で感染が確認された人たちが1回目及び2回目のワクチン接種を受けたかどうかを検証する。
・PCR陽性者で1回目、2回目接種した人たちの発熱の頻度と感染症状の期間を非接種者と比較した。
Q.研究方法は?
・場所は、アリゾナ州、フロリダ州、ミネソタ州、オレゴン州、テキサス州、ユタ州。計3,975人。実施時期は、2020年12月14日より2021年4月10日。参加者の全員について観察期間の17週間、毎週、鼻咽腔の粘膜のスワブ法によりPCR検査を実施した。
・ワクチンの有効性は、ワクチン接種者と非接種者の比率(%)で決めた。
・対象者:18-49歳が72%、50歳以上は28%。女性は62%。白人が86%。慢性疾患なしが69%。
Q.結果は?
・計17週間の観察期間内にPCR検査の実施は100%で脱落例はなかった。
・1回目接種者は、3,179人。1回目+2回目接種者は、2,586人。
・観察期間内のPCR陽性者は204人(5%)。
うち5人は、2回接種後14日以上経過(=ワクチン完全群)。1人は1回目の投与後14日以上。2回目の接種後14日未満(=ワクチン不完全群)。
156人はワクチン未接種。ワクチン接種の期日不明が32人あり、これらは除外。
・ワクチンの有効性は、ワクチン完全群で91%(95%CI: 76-97)。ワクチン不完全群で81%(95%CI: 64-90%)。
・感染者の中で平均ウィルスRNA負荷量は、ワクチン完全群では不完全群と比較して48%低下(95%CI:16-59%)。
・発熱症状のリスクは、58%低下。相対リスクは0.42(95%CI: 0.18-0.58)。
・感染期間は、ワクチン接種者で短縮。ベッドに横たわる期日は、2日。非接種群よりも3日短縮(95%CI: 0.8-3.7)。
Q.問題点は何か?
・ワクチン接種の有効性を数値で明らかにすることができた。ワクチン完全接種群で91%。ワクチン不完全接種群で81%であった。この結果は、第3相の臨床治験結果と一致している。
・ワクチン接種完全群では69日間の追跡だったが不完全接種群は22日間の追跡と短かったこと。
・PCR検査の検出性にばらつきがあった可能性が否定できず、実際の感染者はここに報告された数値よりも多かったのではないかという疑問が残る。
・感染者では、変異ウィルスの頻度はチェックしていないので変異ウィルスに対する効果を決めることはできない。
・ワクチン接種完全群と不完全群の違いを明確にすることはできなかった。
・今回の治験に組み入れた対象者は、なるべく平均的になるように選んだがワクチン効果に人種間の差異があるかも知れない。
・医療従事者を主な対象としたが、どの程度の感染予防具を使っていた人たちがワクチン接種後に感染したかは不明である。
・感染者の症状の変化(発熱など)は自己申告に拠っているが厳密さに欠けるかもしれないが結果はウィルスRNA変化量と一致していた。
・PCR検査結果とウィルスRNA量とは一致していない。前者の増幅サイクルは必ずしも一定ではないという問題点が残る。
mRNAワクチンの第3相臨床治験は、論文1では、計43,543人、論文2では、計30,420人をそれぞれ実薬群、偽薬群に無作為に接種し、その効果を検証し、前者の有効率は94.1%、後者では95%でした。今回の論文3は、全て実薬群で対象者は医療従事者であり、厳密にフォロアップされており、有効率はほぼ再現され91%でした。全員に毎週、PCR検査を実施し、検査の脱落例がみられませんでした。
mRNAワクチンの有効性はほぼ検証されたといってよいと思われます。
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