• 木田 厚瑞 医師

No.192 コロナ後遺症をどのように解決していくか?


2021年8月18日


喘息で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の患者数は、107万人(2021年8月12日現在)に達し、死亡者数は、約1万5,000人です。大多数の人が、回復していますが、他方でその後もさまざまな症状が続き、苦しんでいる人がたくさんいることが判明しています。私たちの外来でも相談をうける機会が多くなってきました。

COVID-19後遺症に関する英文論文は最近、急に増加してきました。問題は病気の後遺症だけでなく深刻が社会問題にリンクしています。


ロングコビット(Long COVID)という病名は、COVID-19の急性期を過ぎてもなお症状が続く人たちがTwitterやFacebookなどソーシャルメデイアにより意見を交換し合っているうちに作り上げられ、広められた初めての病名であると言われています。


ここで紹介する2つの雑誌の提言は恐らく米国が取り組むべき方向を示しておりわが国にも強い影響力を与える可能性があります。

ScienceではロングコビットLong COVID)と呼び[1]、New England Journal of Medicine長く引っ張るコビットLong-Haul COVID)と呼んでいます[2]。


ここでは両論文の意見を紹介します。


最初は、Science誌に掲載された提言です。




Q.ロングコビットの問題は?


・COVID-19のリスクは、主に死亡者数と医療機関の収容能力の観点からのみ問題にされてきた。


・症候性COVID-19の約3人に1人は発症後12週後でも症状がある


・ロングコビットは全年齢層で起こる。


症状は広範囲で多臓器であり、変動し、再発しやすい


・ソーシャルメディアが問題としている事項は、医療専門家の認識が欠如していることの不満。受診しても軽くみられる。他方で、就業障害があり解雇される不安ありと訴えている。汚名と差別に苦しんでいる。


・初期に軽症と診断された人たちが一般的にロングコビットとなることが多い。初期から多臓器病変を疑わせる兆候があった。




Q.ロングコビットの症状とは?


・「疲労感」が強い。倦怠感ではなくて休息によっても必ずしも回復しない身体機能障害である。


・記憶力や集中力の低下、混乱、「脳の霧(brain fog)」などの認知機能障害が続く。


・胸痛、息切れ、頭痛、筋肉痛、めまい、動悸の頻度も高い。


・心臓血管系、呼吸器系、神経認知系、胃腸系などに関するさまざまな症状、および皮膚、眼の影響や身体の痛みなど多彩な症状の報告があり、ロングコビットは、多系統性疾患とみなされている。


・症状の引き金には、身体活動、ストレス、睡眠障害、認知課題がある。


・中国、武漢でのCOVID-19退院後の追跡調査では、76%に症状があった。


・入院治療を受けていない比較的軽症例のフォロアップでは、50万人以上を調査した英国のデータが英国コミュニティ有病率調査として発表されている。ロングコビットの有病率の推定値は、38%(男性33%、女性42%)。少なくとも一つの症状が12週間以上続き、15%が少なくとも3つの症状が12週間続いた。


・英国国家統計局(ONS)は2021年6月にCOVID-19に感染下ほぼ100万人の4週間以上、症状が持続したと推定している(人口の1.5%)。うち、385,000人が少なくとも1年前の感染であった。データからの推定値では、25~34歳で1.6%、35~69歳で2.1%。特に最前線で働く職種に多かった。このデータは、ロングコビットが将来、経済格差を生む原因になる可能性を指摘している。しかも、経済的な低い階層でCOVID-19の発症が多かったので格差はさらに開く可能性を推定している。


・メンタルヘルスに対するロングコビットの影響が懸念される。特にCOVID-19の診断がPCR検査などで確認されていなかった場合には不安感が大きくなると云われる。他の症状に配慮することなく不安神経症と診断される可能性が大きく、将来、健康の不平等が拡大する可能性がある。




Q.ロングコビットの診断は?


・ロングコビットの診断基準は標準化されるには至っていない。


・名称も国により異なる ➡ COVID-19後症候群、COVID-19後の状態、COVID-19の急性後遺症など。


・診断上の問題点は、COVID-19感染後に臓器病理(臓器に特有な病変)が含まれるかどうか、あるいは原因不明の症状が持続する場合にするかなど。


・他のウィルス感染でも長期の後遺症あり。

SARSおよびMERS(中東呼吸器症候群)でも感染者の1/4から1/3は長期間の肺機能異常、運動能力の低下、および心理的症状を呈する。


・自律神経症状はロングコビットでも見られているが筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群(ME/CFS)などと同様な症状を呈し、体位性頻脈症候群(POTS)などを引き起こす可能性がある。従って、「ポストウィルス症候群」として正確な定義を与えるのが良いのではないか。




Q.ポストコロナの病変分布は?


・経過が急速なCOVID-19では心臓、肝臓、腎臓、膵臓などの臓器特異性病変の発生率が高く、感染後数か月間の再入院率、死亡率が高い。

血管損傷、凝固亢進、微小血栓症などの機序と関係している可能性がある。


・ロングコビットの潜在的な原因として長期にウィルスが残存している可能性もある。SARS-CoV-2ヌクレオカプシド蛋白質は感染後6か月まで腸、肝臓、胆嚢、リンパ節に残存しうることがあることが報告されている。




Q.医療、福祉、労働問題などからの対策は?


・方針として患者の訴えの分析、適切な臨床評価と検査、個別化治療、リハビリテ―ションが必要。

➡ロングコビットは学際的な臨床アプローチを必要とする多臓器疾患である。




Q.対応策のまとめは?


4つのRが重要である。

Reporting

Recognition

Rehabilitation

Research




Q.Reportingとは何か?


Reportingとは以下の項目を含む。

・研究発展に即した新しい定義の確立

・疾患登録を開始し、追跡しやすい体制を作る。

・感染直後から回復に至るフォロアップを行う仕組みを作る。

・パンデミック及びパンデミック後の警戒、見張り体制を構築する。

・感染予防の政策を立てる。

・健康、ソーシャルケアでの情報伝達の仕組みを整える。




Q.Recognition、Rehabilitationとは何か?


Recognitionとは以下の項目を含む。

・患者からの聞き取り、患者に心を寄せる、画一的な対応としない。

・臨床的な評価、すなわちどのような検査を進めるか、研究面を強化する。

・診断基準を作成する。

・個別的治療法、リハビリテーションの体制。

・公平なケア体制を作る。

・チーム医療体制を作り医療者間の連携を行う。

・労働権利を守り勤労者の健康を保つための仕組みを作る。




Q.Researchとはなにか?


・ロングコビットを起こすリスク因子の解明。

・予後と進行についての知見を集める。

・回復の予測を立てる。

・病態生理を解明する。

・治療法を検討する。

・COVID-19ワクチンの役割との関係を知る。

・再感染の可能性はないか。

・不公平感、劣等感の原因とさせない工夫。

・経済的負担についての情報収集。

・子供たちのロングコビットについても解明する。




Q.政府への提言は?


New England Journal of Medicine誌掲載の提言[2]。


・ロングコビッドは公衆衛生学的な見地からみた災害とみなされる。


・米国疾病予防センター(CDC)は2021年3月までにすでに米国人の1億4千万人が感染したと推定している。平均年齢は約40歳。


・ロングコビッドは医療制度、経済回復に長い影を落とす可能性がある。


問題点は5つ。

1.ロングコビットは女性に多い。女性の他の病気の症状はこれまでは深く捉えられず誤診したり、軽くみられて来たと云う医療の歴史がある。


2.原因、機序解明の国内、国際研究体制を構築する必要がある。


3.ロングコビッドは米国NIH(アメリカ国立衛生研究所)、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)、WHO(世界保健機関)のほか、国立アレルギー・感染症疾患研究所の所長であり、バイデン大統領の医学アドバ―サー統括者のAnthony Fauci氏の指導力に期待したい。


4.米国では権威ある病院、センターがすでに30以上がロングコビット外来を開設している。


5.医療者による支援体制を作る必要がある。



 ロングコビットは、医療だけの問題だけでなく、経済、行政など多方面に新たな戦略を求められることになるでしょう。米国、英国では、いま、COVID-19との闘いの真っ最中にありながら次のステップに進もうとしています。わが国でも連帯して解決策の検討を開始すべきでしょう。さもなくば、急性期対策だけでなく後遺症対策にも大きな後れをとることになります。



参考文献:

1.Alwan NA. et al. The road to addressing long Covid

Science 30 Jul 2021:Vol. 373, Issue 6554, pp. 491-493

DOI:10.1126/science.abg7113


2.Phillips S.et al. Confronting our next national health disaster― Long-haul Covid

New Eng J Med 2021: 385; 577-579.

DOI: 10.1056/NEJMp2109285


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