No.215 大気汚染がCOPDの増悪に与える影響 


2021年11月2日


 COPDはタバコが代表的な原因ですが、30%は非喫煙者です。COPDの原因として環境要因もまた、大きな発症原因となることが知られていますが、詳しいことは分かっていません。

 COPDの治療経過でもっとも問題となることが、一時的に症状が悪化する「増悪」です。

重い増悪では、入院して、酸素吸入、抗生物質などの点滴投与が必要となります。


 大気汚染など環境要因が「増悪」とどのような因果関係にあるかについて詳しいことは不明です。ここで紹介する論文[1]は、韓国の8つの大きな市において大気汚染、気温、湿度などがCOPDの増悪回数にどのような影響を与えるかをみたものです。韓国発のデータは、大陸続きの中国発のデータと類似している点がありますが、欧州とはかなり異なっています。

 わが国と気象状態が類似しているので興味が持たれるデータです。




研究の背景

・COPDは、世界的に罹患率、死亡率が増加している慢性で進行性の疾患である。発症には、喫煙習慣、PMs*(particulate matter)、 埃、蒸気、煙、有機物質、ガス体などが発症と進行に関与している。

他方で30%は非喫煙者である。

*PM2.5,PM10等さまざまな種類や性状、大きさをもつ粒の総称


・PMsはCOPDの発症要因及び発症の頻度に関わることが判明している。


・思春期での大気汚染は、肺の成長発育に影響し、COPDの発症、進行に関係する。

寒気、乾燥もCOPDの進行、増悪に関係し、死亡率を高める。


・気象、環境が疾患の経過に関係しているという点では、COPD,喘息は共通している。



方法

COPDの増悪回数のデータはNational Health Insurance Service(NHIS)を利用した。大気汚染データは同国のデータとしてそれぞれの都市で公表されている24時間の平均値を使用した。



結果

2015~2018年で計1,04,505人のCOPD患者の登録患者のうち15,282人の増悪があった。大気汚染の測定項目では、PM2.5, PM10, NO2,SO2, CO, O3の各項目に加え、平均気温、寒暖差(DTR)と増悪との関連性を統計学的に検討した。


・計11,562人の男性(75.7%)および3,720人の女性(24.3%)のCOPD患者を解析した。

全体の70.0%が70歳以上の高齢者であった。


・研究期間中の平均気温は13.8℃、寒暖差は8.6℃、平均気圧は12.3hPa,太陽輻射は13.1MJ/m2、湿度は62.7%。


・GAM モデル解析によればPM2.5, PM10, CO, NO2, SO2, O3, DTR, 湿度と増悪回数はU字型を示した。2015-2016年度と2017-2018年度のパターンは異なっていた。


COPDの「重症増悪」と関連していたのはPM2.5, PM10, CO, NO2, O3, SO3、平均気温、湿度、寒暖差であった。


・COPDの重症増悪は、2015~2016年度、2017~2018年度の両期間でU-字型を呈した。

PM2.5、PM10は同じ影響を示した。影響力はPM10の方が大きかった。


COのリスクは0.4~0.6ppmが危険領域であった。


NO2は2.5~3.5ppm(2015~2016年度)、2.3~2.9ppm(2017~2018年度)


SO2は0.4ppb~0.6ppb


気温の関係もU-字型であり、0℃以下か、20℃以上がリスクであった。

O3は1.0ppb~3.5ppbで影響あり。


・COPD増悪頻度は大気汚染悪化の7日目以降で増加した。



考察

・PM2.5は、固形及び液体粒子で直径が2.5以下を指す。吸気時に呼吸器系に入り込み、COPDの発症、肺機能低下、COPD増悪の頻度に関係する。本研究では39μg/m3以上では増悪頻度は、低下した。説明としては、測定幅が広いことで正確に測定されていたかが問題となること、さらに韓国では、2015年以来、PM2.5濃度が上昇すると外出を控えるようにという注意報道がなされることになっているので、濃度測定で患者行動が変化し、これが増悪頻度を低下させている可能性がある。


・同様にPM10の上昇も呼吸器疾患を有する患者の入院回数を高めることが知られている。従来のデータではPM10が10㎍/m3上昇するごとにCOPDの入院回数は、1.5%ずつ上昇すると云われている。本研究では1.0%の増加であった。


・CO濃度とCOPD増悪回数との関係は本研究でも正確には不明であった。北京でのデータではCO濃度が1mg/m3上昇するごとにCOPD増悪入院は3%ずつ増加する。

他方、これとは逆にCOは、抗炎症作用、抗オキシダント作用がある、という研究もある。

これは、COだけの影響ではなく、他の交絡因子が関与するためと推定されている。


・本研究では、COPD増悪は、NO2濃度が3.5ppbまでは濃度上昇で増悪回数が増える。これ以上の濃度では必ずしもそうではないのはリスクの高い人たちの行動変容がおこるためと推定されている。NO2濃度と同じ傾向は、PMs, CO, SO2, O3でもみられる。大気汚染の情報はCOPDの患者ではアウトドアの行動制限を起こすためであろう。


・SO2は、PM2.5と同じパターンであり、濃度上昇がCOPD患者の行動を変えることが中国のデータでも同様であった。


・O3濃度は、COPD増悪に対する影響は、2峰性であり、必ずしも濃度依存性ではない。この理由は、患者間で喫煙影響と経済的な影響が推定されている。以前のデータではO3濃度は現喫煙者では高いが既喫煙者では低い。O3濃度上昇で息切れが強くなるのは現喫煙者だけであり、既喫煙者ではその影響はみられない。


気温低下は増悪頻度を増加させる。呼吸器症状の悪化も多くなり、吸入薬の使用数と相関することも判明している。


寒暖の差も影響し、1℃幅が大きくなるとCOPD増悪回数は3.0% 増加する。また、COPDの死亡率、入院回数、救急受診にも関係することが判明している。


・湿度の影響は、ドイツからの報告と中国からの報告では異なっている。ドイツではCOPD増悪受診に逆影響するが、中国からの報告では、高湿度は低気温に相乗的な効果を与えた。



結論

PM2.5, PM10, CO, NO2, SO2、平均気温、湿度、DTRは平均10日間遅れでCOPDの増悪と関係していた。




 気象条件がCOPDの発症および増悪に関係することは古くから知られており、我が国でも同様な報告があります。

 大気汚染は気象条件と重なり相乗的な悪影響を与えます。しかし、個別的なマーカーとの因果関係は乏しく、重なりあって悪影響を与えます。

 

 PM濃度や寒暖の差、湿度が呼吸器疾患の悪化に微妙に影響することは容易に想像がつきますが、外出やアウトドアでの生活は控えるようにという報道はわが国でもなされていますが、これがCOPDの増悪エピソードに影響を与えているという推論は、興味が持たれます。メデイアは、工夫してリスクの高い人たちに分かりやすく、情報提供してほしいと思います。




参考文献:


1.Jin-Young Huh J-Y, et al.

The Impact of air pollutants and meteorological factors on chronic obstructive pulmonary disease exacerbations: A nationwide study

Ann ATS Articles in Press. Published September 09, 2021 as 10.1513/AnnalsATS.202103-298OC


※無断転載禁止

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