No.223 オミクロン株の問題点


2021年12月9日


 南アフリカで発見されたオミクロン株は、急速に全世界に広がっており、WHO(世界保健機関)によると48か国に達しています(朝日新聞、令和3年12月7日)。

 正確な科学的なデータが今後の対策の拠りどころとなる、と思われます。


英国のNature, 米国のScienceは、いずれも信頼できる科学雑誌ですが、両雑誌からの情報も十分ではなく、Scienceでは、11月27日に電子版で発表した評論記事を12月1日には、執筆者を追加して記事を作り変えています。恐らく刻々に入ってくる新情報を参考にしながら内容を修正、加筆していると思われます。両雑誌からの情報は現時点では断片的ですが示唆に富んでいます。

 以下は、両雑誌の評論記事のまとめです[1-3]。




Q.オミクロン株の発端は?


・11月下旬、ヨハネスブルグにある南アフリカ国立伝染病研究所(NICD)ではRが、2を超えていると判断した(注:R=実効再生産数。1人が何人に感染させるかを示す値。ウイルスの感染が指数関数的な増加を続けるのか、それとも事態が終息に向かうのかを見極めるために重要な意味をもつ)。


・オミクロン株はボツワナで最初に特定され、ゲノム配列データでB.1.1.529の発見を確認した。南アフリカから香港に到着した旅行者で発見された。


・WHOの専門家グループが11月26日に会合し検討した。

名称はNu(ギリシア文字の命名システムで利用可能な文字)だったがオミクロンとなった。Nuは新しいという意味に誤解され、またXiは人名と紛らわしいという理由。


・他の株から早期に分岐したのではないか。時期として、2020年半ばごろではないかと推定した。




Q.変異株の特徴は?


・変異体B.1.1.529は、宿主細胞を認識し、体の免疫応答の主な標的であるSARS-CoV-2タンパク質に30を超える変化が含まれているため、際立っている。


・B.1.1.529が、免疫を担当するT細胞の別の構成要素によって与えられた免疫をかわすことができるというコンピュータモデリングからの情報がある。すなわち、これまでの免疫学的予防効果が期待できないのではないか?


・変更の多くは、デルタ株やアルファ株などの亜種で発見されており、感染阻止抗体を回避する能力に関連している➡この点からもワクチンの効果が疑問視された。


・デルタ株を含む他の亜種にみられる多数の突然変異を含んでいる。


・現在、使用されているワクチンにより引き起こされる免疫応答で感染が回避できるかは不明。


・他の変異体よりも重症度が高いか、についても不明。


・オミクロン株は、アルファ株やデルタ株など初期の懸念株からきたわけではない。




Q.ワクチンの有効性は?


・南アフリカでは、ジョンソン&ジョンソン、ファイザー・ビオンテック、オックスフォード・アストラゼネカの3種のワクチン接種者からのブレイク・スルー感染が報告されている。香港で発見された2人もファイザー・ジャブのワクチン接種済み。




Q.オミクロン株はどこに潜んでいたか?


1)ウィルスは、監視、配列決定がほとんどない集団で循環し、進化したのではないか?

➡感染対策が全く実施されない未開の地の感染?

冬の波の間にアフリカのどこかで進化したか?

進化するには「大きな進化の圧力」が必要であり、その圧力原因があるのではないか?具体的には不明。



2) 慢性的なCOVID-19 感染者が発端ではないか?

・慢性的に感染していたCOVID-19患者が問題。恐らく他の疾患の治療目的の薬により免疫反応が損なわれていた患者でオミクロン株が発生した可能性が高いのではないか。


・アルファ株が2020年後半に最初に発見されたとき、その変異体も一度に多数の突然変異を獲得したのではないか?➡この発見以来、研究者たちは慢性感染があるのではないかと考えるようになった。この考え方は、さらに慢性的な感染患者からのSARS-CoV-2サンプルのシーケンスの研究により強化された。


・具体的には、南アの若い女性でHIV感染症が6ヶ月間以上無治療のSARS-CoV-2(新型コロナウィルス)を持っていた事例がある。この症例では変異株でみられると同じ多数の変異を持っていた。

➡SARS-CoV-2ゲノムとは非常にことなるため「暗闇の中で進化した株」であると推定された。



3)人間以外の種で進化した可能性がある。

・ウィルスがヒトでなく齧歯類動物や他の動物に隠れていた可能性がある。

しかし、人間の感染数が非常に多いことから動物説は考え難いという説もある。



4)南アとボツワナでのワクチン接種が低いことが多数の無治療感染を生み出し、それが亜種の進化に繋がったのではないか。当時、南アのワクチン接種率は約25%であった。




Q. オミクロン株までの経過は?


オミクロン株までの亜種発生の経過

A version of this story appeared in Science 2021; 374(6572)より一部改変



 パンデミックがピークに達したとき、WHOは、途上国へのワクチン供給を促していました。しかし、多くの先進国は、自国優先で接種を進めてきました。その結果、途上国では多くの感染者を出し、さらに多くは無治療で経過していました。また、南アの若年女性のHIV感染者のような例も亜種発生の危険となりうることが示唆されています。途上国で一旦発症した亜種は、あっという間に先進国に拡散することも判明しました。世界全体が足並みを揃えた対策を求めれているという点では地球温暖化対策にも類似しているように思われます。



考文献:


1. Kupferschmidt K. et al.

Where did ‘weird’ Omicron come from? Mutations could have accumulated in a chronically infected patient, an overlooked human population, or an animal reserve

A version of this story appeared in Science 2021; 374(6572)

doi: 10.1126/science.acx9754


2. Kupferschmidt K.

‘Patient is crucial’: Why we won’t know for weeks how dangerous omicron is

A version of this story appeared in Science, Vol 374, issue6572

Update, 1December: This story has been updated to include comments from Paul Bieniasz and Moritz Kraemer.

doi: 10.1126/science.acx9721Patience is crucial’: W


3. Callaway E.et al.

How bad is Omicron? What scientists know so far

Nature News December 2, 2021

doi: https://doi.org/10.1038/d41586-021-03614-z


※無断転載禁止

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2022年9月26日 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に罹患し、治ってから、さまざまな症状に悩まされている人が多く診られるようになってきています。long COVIDとも呼ばれています。症状は多彩ですが、注目されているのが「慢性疲労症候群」や「筋痛性脳脊髄炎」という病気との類似性です。 最近のScienceには、査読中のプレプリント版[1]であるが、と断って、新しい研究の意義を解説して