No.228 デジタル時代の呼吸リハビリテーション

2022年1月11日


 COPDや重い喘息など多くの慢性呼吸器疾患では、息切れなどの呼吸器症状が長い期間にわたり持続し、日常の活動性が次第に低下していくことが問題です。


 家から出られない(Home bound)、さらに進めばベッドから出られない状態(Bed bound)となります。吸入薬などの薬物療法と並行して治療が必要となるのが非薬物療法。すなわち呼吸リハビリテーション(PR)です。PRはarmamentarium (医療のために利用できる技術)ともいわれ、極めて大切な治療法ですがCOPDでPRを受けているのは世界的にみても必要な患者さんの2%以下と言われています。PRは全ての慢性呼吸器疾患の治療に共通して必要な重要な項目です。


わが国でもCOPDの患者さんを対象に専門外来を開設しているところは極めて限られています。増悪を起こし入院中となった限られた期間のみPRを行っているところはありますが安定期のCOPDの患者さんに広く実施しているところも限られています。一方、患者さんの方はあっても遠く離れていて利用するのが難しいという理由があります。さらに、外来型PRを困難にしているのが新型コロナウィルス感染症(Covid-19)の流行です。


 ここで紹介する論文は、遠隔医療、すなわちデジタルでPRを、専門的な治療ができない周辺の医療機関を結んでリモート・スタイルでPRを実施し、ある程度の成果を得たという論文です。指導にあたっているのは、カナダ、モントリオールにあるMcGill大学のBourbouau。彼は、長年、PRに取り組んでいる呼吸器内科医です。恐らく、PRは、遠隔医療に進んでいくのではないか、と予想させる論文です[1]。




Q. 呼吸リハを開始、継続する問題点は?


・呼吸リハビリテーション(PR)は、COPDでは特に重要な治療法の一つであり、経過で増悪、入院をくり返し、死亡に至る悪循環を抑えるための大切な治療法である。


・カナダではCOPD患者の1.2%しかPRを受けていない。


・継続の問題点は、PR施設に至るアクセス、すなわち移動距離と時間である。

通院が30分を超えるとアクセスが低下する。ところが、PRを実施している医療施設は限られており近くで探すことは難しい。Covid-19の流行でさらに状況は困難となった。




Q. 研究の目的は?


・広域にわたるコミュニティベースの遠隔PRプログラムを試行してみる。


・そのアクセスの可能性、継続実施、その有効性、安全性を通常の通院型PRと比較検討した。




Q. 研究方法と結果は?


・2017年より2020年までの3年間にわたり実施された前向き臨床研究。重症のCOPDを対象


2群に分けて、遠隔治療群、通常治療群に分けて実施した。通常、実施されているPRは8週間のコースで週3回の通院。実施される項目は、COPDに関する教育項目と呼吸を中心とした運動療法を含む


・指導内容は、広範なリハビリテーションの経験を持つセンターベースのPRプログラム、または運動器具を備えた衛星センターでのコミュニティベースの遠隔PRに登録した。


・PRセッションは、ビデオ会議を介してプライマリセンターとサテライトセンターで同時に行われ、各サイトのPRスタッフがローカルで進行した。


・効果は1,3,6および12か月後に6分間歩行テスト、COPD患者評価テスト(CAT)で評価。さらにアクセス、継続実施、安全性につき検証した。


結果:7つの衛星サイトのうち、6つは3年までに参加し続けた。6分間平地歩行テストでは歩行距離6分(46対53m)の同等の改善と、COPD評価テストスコア(CATスコア)の減少(4.0対2.7単位)が、PR後に見られグループ間の差異なし。


・特に、センターベースのPRと比較して、遠隔PRプログラムは、大きな有害事象なしに、より高い完了率(83%対72%)を示した。


・3年間の研究期間にわたって、サテライトセンターでのテレPRの実装は、プライマリPRセンターのみと比較して、登録された患者数を2倍にし、参加したセッション数を4倍に増加した。




Q. 問題点はなにか?


実施方法について


1)患者が自分で、または定期的なチェックインを伴う教育ビデオの助けを借りて運動する非同期介入と、リアルタイムビデオ会議を介した同期介入がある。両方とも機能的能力、生活の質、および入院の大幅な改善をもたらすが、結果は一定しない。


2)遠隔PRでは、運動トレーニング強度と、運動器具が使用されているかどうかによって結果が異なる。



遠隔PRの標準化の問題


1)遠隔PRプログラムで提供される低強度の運動トレーニングは、有酸素運動により歩行持久力を改善する可能性がある。高強度にした方がより効果を高める可能性がある。


2)運動処方を多様化すると監督が難しくなる。従って、遠隔PRの広範な実施をサポートするための問題点の検証は将来の課題である。


3)運動器具、電子機器、インターネットアクセスの欠如、またはそれらを利用できるスキルの欠如が問題である。


4)一定レベルの内容のPRの品質基準、および遠隔PRを提供するための国内指標が必要である。これが確立できれば保険診療が可能となる道筋ができる。


5)遠隔PRの配信に関する法的およびプライバシーの懸念を解決しなければならない。



一定のPRの質をどのように保っていくか?


1)サイト間でのプログラムを標準化することである。PRが中央の場所からビデオ会議を介して周辺の衛星サイトに配信され、PRが中央の場所からビデオ会議を介して周辺の衛星サイトに配信されるハブ・アンド・スポーク・モデルが考えられる。


2)重要なことは、遠隔PRは、センターベースのPRに取って代わるものではなく、従来のセンターベースのプログラムへのアクセスが不足している可能性のある人々のための代替戦略として、それを補完することを目的としていることである。


3)複雑な多種の慢性疾患を有する人々では、多くの場合、センターベースのPRが最も良い。


4)遠隔PRでは日常的に実行可能ではないその患者に合わせたマルチ・モダリティ治療介入が利用可能となる。




 コロナ禍の中でそれまで行われた医療は、大きく変更を余儀なくされました。中でも、通院という手段で日常的に医療者に接し、さまざまな形の生活上でのアドバイスを受けていた形は多受診という弊害があったにしろある程度の病気に対する予防効果があったことは事実です。現在、それら従来型は大きく変えざるを得なくなりました。

 

COPDを初めとして多くの慢性呼吸器疾患では呼吸リハビリの考え方を日常の診療の中で伝え、どのように継続実施していくかは、私たちにとっても大きな問題です。当院では、YouTubeを利用して多くの方々に情報を提供していくヘルスリテラシーの向上に努力しています。ご利用下さい。




参考文献:


1. Alwakeel AJ et al. The accessibility, feasibility, and safety of a standardized community-based tele-pulmonary rehab program for chronic obstructive pulmonary disease: A 3-year real-world prospective study

Ann Am Thorac Soc Vol 19, No 1, pp 39–47, Jan 2022

DOI: 10.1513/AnnalsATS.202006-638OC


※無断転載禁止

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