鼻が詰まって苦しく喘息も悪化してきたという患者さんをしばしば診ます。特に花粉症の季節になると鼻症状の悪化に伴い喘息が悪化してくる人が多いようです。
鼻―咽頭・喉頭―気管―気管支はいわば連続のチューブですから相互に関係しているらしいことは容易に理解できます。喘息は気管支の壁に慢性の炎症が生ずることにより咳こんだり、痰が多くなったりします。鼻の粘膜にもこれに近い病変が起こる可能性は高いと云えます。
「鼻中隔は、鼻腔中央に位置する板状構造物で鼻腔を左右に分ける。鼻中隔軟骨が弯曲していたり、鼻中隔軟骨と鋤骨との接合部の異常で鼻中隔はしばしば上下前後の方向に弯曲していることがある。弯曲が著明で鼻閉などの症状を来すことを鼻中隔弯曲症という」(南山堂 医学大辞典、一部改変)。
鼻中隔弯曲症は、喘息と密接に関連しているようですが、鼻中隔弯曲症を手術すると喘息が改善するかどうかは不明です。ここに紹介する論文[1]は、両者は深い関係にあり、手術により喘息が改善することを示した論文です。
Q. 鼻中隔弯曲症とは何か?
・鼻中隔弯曲症(SD)があると、どちらかの鼻孔の気流が損なわれ、鼻づまりと鼻抵抗の増加を起こす。
・SDによる鼻詰まりの重症例は、いびきや睡眠時無呼吸症候群を起こすことがある。
・重度のSDでは、鼻腔の生理機能に影響を及ぼし、粘膜および神経学的変化を引き起こす。
・しかし、SDが下気道の病態生理に及ぼす影響に関する情報はほとんどない。
Q. 喘息と鼻病変の関連性は?
・喘息は、下気道に一般的にみられる慢性炎症性疾患である。遺伝的要因と環境要因の間の複雑な相互作用により引き起こされる不均一な臨床症候群である。アトピー、アレルゲン、大気汚染、気道感染症などの多くの要因が喘息の炎症を引き起こしたり悪化させたりすることが知られているが、喘息の正確な病態はほとんど解明されていない。
Q. 上気道と喘息の関係は?
・上気道の特定の病的な状態が喘息の症状や炎症に影響を与えるかどうかは不明である。
・アレルギー性鼻炎のアレルギー性炎症は、喘息の症状と密接に関連していることが知られている。
Q. 鼻中隔弯曲症と喘息の発生に関係があるか?
本論文では、韓国人を対象に喘息の発生率に対するSDの潜在的な影響を調査した。さらにSDの外科的矯正(鼻中隔矯正術)がSDの喘息の発生率に影響を与えるかどうかを調査した。
Q. 方法は?
・韓国のNational Health Insurance Serviceのデータベースを利用した。韓国人全体の約2%に相当する約100万人のデータを含む。
・データは2005年のデータに基づき、国際疾病分類による病名、年齢、性別、居住歴、経済状態、高血圧、糖尿病などの病歴を含む。2013 年まで計9年間追跡調査した。
・約100万人のコホートサンプルのうち、合計29,853人(SDグループが9,951人、非SDグループが19,902人)の追跡調査。
Q. 結果は?
・SD群の喘息発生が高値であった。非SD群と比較してhazard risk(HR)は2.43(95%CI,2.31-2.56)であり2.43倍喘息の発症が高値であった。
・2002年から2004年の期間にSDと診断された9,951人を、鼻中隔形成術を受けた群(1,526人)と受けなかった群(8,425人)に分けた。2013年までのフォロアップの結果、SD群では鼻中隔矯正術後の喘息のHRは0.83に減少した。(95%CI: 0.75~0.93)
➡経年的な変化では、SD患者での鼻中隔矯正術は一部の患者の喘息の発生率を低下させる可能性がある。
・SDグループのサブ解析では、
アレルギー性鼻炎ではHR=1.58(95%CI: 1.50~1.67)、慢性副鼻腔炎のHRは1.22(95%CI:1.15~1.31)、男性ではHR=0.70(95%CI=0.67~0.74)、若年者ではHR=0.64(95%CI:0.61~0.68)。
高血圧ありのグループではHR=1.13(95%CI:1.01~1.27)であった。
Q. 考察は?
・SDがあると喘息を起こしやすくなる。さらに鼻閉を起こすアレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎でも同じ傾向がみられた。
・SDを手術にて矯正すると喘息の発症が低下する可能性がある。SDと喘息リスクの関係では女性で高齢者では因果関係が高い傾向があり、高血圧ではSDの非手術者が多かった。
この論文は、日本人と顔の骨格、体型が似ている韓国人で鼻中隔弯曲症がある場合に喘息の発症頻度が高くなり、これを手術で矯正した場合には低下すること、さらに高齢、女性ではより影響を受けやすいことを推測させる論文です。
鼻閉と高血圧の関係も睡眠時無呼吸症候群を悪化させ、相互に深く関係している可能性もあり、たかが鼻づまりと簡単に言い切れません。
高齢女性の難治性の喘息を診ることがしばしば、あります。鼻閉が強い場合には治療方針を決めるにあたり必要に応じて耳鼻科医と連絡を取り合うことの必要性を強く示唆するものです。
鼻閉または鼻閉感については、朝方だけに強いという時間的な変動や、花粉症の時期などに強いという季節変動がみられ、中にはアレルギー鼻炎があっても口呼吸に慣れ、鼻閉の自覚のいない人もいます。当院では、鼻腔通気度測定を行い、呼気、吸気とも鼻腔の通りやすさを測定して治療に役立たせています。
参考文献:
1.You YS et al. Septal deviation could be associated with the development of bronchial asthma: A nationwide cohort study. J Allergy Clin Immunol Pract. 2021 Nov 12; S2213-2198(21)01264-2. doi: 10.1016/j.jaip.2021.11.002. Online ahead of print.
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