No.251 重症喘息でみられる気管支の痰づまり

2022年5月20日


 喘息が重症化すると気管支の中に痰が充満した状態になり、空気の取り込みができなくなることがあります。19世紀、内科学の祖と言われたウィリアム・オスラー卿 (1849-1919年)は、喘息患者ではゼラチンのような痰が出る、と記載しています。しかし、重症の喘息患者でみられる痰づまりの現象については古くから、注目されながらも目立った研究がみられませんでした。2018年に、胸部CTを用いて正確に肺のどの位置にどのくらいの痰が溜まっているかを見る方法が発表され、ようやく研究の新展開がみられるようになりました。気管支を塞ぐように見える変化は、「粘液栓」という名称で呼ばれます。ここに至って粘液栓を取り除く粘液クリアランス治療は重症喘息の治療では極めて重要と認識されるようになりました。


 ここで紹介する論文[1]では、重症の喘息患者の胸部CT像を3年間の間隔で観察し、粘液栓の数を比較し、治療の効果を検証したものです。現行の吸入薬や、経口薬による治療法では粘液栓の改善効果は認められないことを示唆するもので、新しい検査方法により治療の方針を変更できる可能性があります。




Q.喘息の患者に見られる痰とは?


・粘液、炎症細胞、血漿浸出液、細胞外トラップ、Charcot-Leyden結晶、などから成っている。Charcot-Leyden結晶についてはコラムNo. 17を参照。




Q. 本論文の要旨は?


・研究の目的:喘息が持続する症例において気管支の中の粘液栓が肺機能とどのように関連しているかを明らかにする。


・方法:SARP-3と呼ばれるプロジェクト研究として集められた喘息患者を初年度と3年目に胸部CT撮影を実施し、粘液栓の持続性を経時的に評価した。粘液栓をスコア化し、肺機能とCT画像の変化として解析した。スコアは放射線専門医が別個に判断し、症例ごとに計算した。


・肺は気管支の分岐に対応して区分されている。右肺が3葉,左肺が2葉に分かれ、それぞれが3本と2 本の葉気管支を持つ。葉気管支は各葉でそれぞれ数本の枝に分かれ,肺葉内の一定の領域に分布する。この気管支を区域気管支と呼び,その分布領域のことを肺区域という。右肺は10区域,左肺は8区域 に分けられる。区域気管支の内径は約4mmである。


・本論文における胸部CT画像は、主に区域気管支レベルでの変化を観察している。


・結果:計164人の患者で粘液栓の平均は、前値と3年目で類似しており3.4[0-20] 対 3.8[0-20]であった。前値で粘液栓のある患者での気管支肺区域は、前値で粘液栓のない参加者よりも3年目に粘液栓を持っている可能性が高かった(リスク比、2.8; 95%信頼区間[CI]、2.0–4.1; P  <0.001;およびリスク比、5.0; 95%CI、4.5〜5.6; P  <0.001、それぞれ)。ベースラインから3年目までの粘液栓スコアの変化は、予測される気流閉塞の指標FEV 1%の変化(r p  = -0.35; P  <0.001)およびCTで算出した空気のとらえ込み(エアトラッピング)測定値の変化(すべてのP値<0.05)と有意に負の相関があった。




Q. 結果?


・CTで観察された粘液栓は、喘息表現型として持続性であった。

3年後でも変わらず認められた。


・粘液栓は、気流閉塞、喘息の重症度、重症の理由となっている。


・肺機能検査ではFEV1(1秒量)、努力性肺活量(FVC)を指数としたFEV1%予測、FVC%予測、FEV1/FVCにより測定された気流閉塞と粘液栓の存在が関連した。


・血中、喀痰中の好酸球数の減少は粘液スコアの減少と関連していた。好酸球を減少させると粘液栓が低下する可能性がある。好酸球が3%以内の場合には粘液栓はない。喀痰好酸球数が3%未満では重症喘息の2/3が粘液を含まない。


・喀痰好酸球数が正常化すると喀痰産生に関係するMUC5Aの発現が低下する。


・粘液栓がある重症では74%が高容量の吸入ステロイド、23%が経口ステロイド使用であった。今回の研究では、好酸球増多に対する抗体薬使用は13%(21人/164人)




Q. 考察?


・粘液栓スコアが高い患者は、より重度の気流閉塞と喀痰中の好酸球数の増加を特徴としていた。しかし、驚くべきことに、粘液栓スコアが高い患者では、粘液栓のスコアが低いか存在しない参加者よりも咳と喀痰の生成に関する症状スコアが高くなかった。

➡咳、痰の症状と粘液栓が存在することは必ずしも一致しなかった。


・前値に気道粘液栓がある患者の82%が3年目に粘液栓を持っていたのに対し、前値に粘液栓が見えない患者の71%では1年目に粘液栓がないままであった。


・持続性および断続的な気道粘液栓の頻度は、右肺と左肺で類似していた。


・持続性に気道粘液栓がみられる生物学的要因は、加齢と2型炎症に関連している可能性がある。これは、粘液栓を有する重症喘息の典型的な患者が高齢であり、全身性および気道の好酸球増加症と鼻ポリープが関係していた。


・結論:特定の持続性の喘息表現型では、粘液栓に対する治療の変化は気管支肺区域レベルで発生する。粘液栓スコアの変化と経時的な肺機能検査での気流の変化と関連しており、喘息の気流閉塞のメカニズムにおける粘液栓の因果的役割を裏付けている。粘液栓がある状態で去痰薬、粘液溶解薬などの投与効果は疑問であった。




 喘息の治療では、科学的なデータを検証して定めたガイドラインがあります。国際的なレベルではGINAと呼ばれています[2]。この中で、新しい治療薬として好酸球数が多い場合に抗体薬が有効であると記載されています。しかし、高価な抗体薬の使い分けは必ずしも十分に記載されていません。この論文では、好酸球数―胸部CTの粘液栓を結び付け、検証した点がユニークです。胸部CTの所見にもとづき粘液子の存在を確認し、難治性喘息の治療法として抗体薬の使用を決めていくという新しい可能性を示したものです。




参考文献:


1. Tang M. et al. Mucus Plugs Persist in Asthma, and Changes in Mucus Plugs Associate with Changes in Airflow over Time

Am J Respir Crit Care Med Vol 205, Iss 9, pp 1036–1045, May 1, 2022.

Originally Published in Press as DOI: 10.1164/rccm.202110-2265OC on February 1, 2022


2.Global Strategy for Asthma Management and Prevention (GINA 2021)

GINA website at www.ginaasthma.org


※無断転載禁止

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