No.266 タバコの害と禁煙方法

2022年10月11日


 タバコは1543年(天文12年)、ポルトガルより鉄砲とともに種子島に伝来したといわれています。嗜好品の中で、タバコは酒と並んで古い歴史を持っています。1589年(天正17年)、九州から中国を経て北陸地方まで急速に広がった背景には文禄、慶長の役、関が原の戦いで、地方から集められた武士たちが帰郷するにあたり、極めて小粒でふところに入れ、持ち帰るのに便利なタバコの種を土産にしたのではないか、と言われています。

最初の禁煙令は、1609年(慶長14年)、将軍、徳川秀忠が出しました。タバコの健康被害を心配したのではなく、農民が稲作を止め、収益性の高いタバコ栽培を始めるようになったためです。


呼吸器科医に共通する認識は、「タバコこそ健康を害する源」です。科学的な立場からみるとタバコの害の情報は昔と比べるとかなり進化しています。ここで紹介する論文[1]は、New England J. Medicineの総説であり、質的には信頼できる情報です。主に禁煙達成の方法を解説しています。




Q. 米国のタバコ被害は?


・推定4,710万人の米国成人(人口の19.0%)が、主に紙巻きタバコ(人口の12.5%)の形でタバコを使用している。米国では毎年48万人以上の成人が喫煙の影響で死亡しており、約1,600万人が喫煙関連の病気にかかっている。

注:米国人口数、約3億3,145万人(2021年度)。日本人口数、約1億5,502万人(2021年度)。


・喫煙率は25〜64歳の成人で最も高い。


・喫煙はさまざまなグループよりも低所得または低レベルの教育を受けている人で高い。米国では、社会生活で問題を抱えながら暮らしている精神疾患のある人の喫煙率は、一般人口の2〜4倍である。




Q. タバコ依存症とは何か?


タバコ依存症は、慢性で再発性の障害である。これによる健康被害で米国では毎年、48万人以上が死亡している。頻回に禁煙を試みるが、脱落、「再発」をくり返す。


・バレニクリン、長時間作用型および短時間作用型のニコチン補充療法などの薬物療法は、常習喫煙患者の禁煙療法で使用するため禁煙ガイドラインで推奨されている。


バレニクリンおよびニコチンパッチと短時間作用型ニコチン置換製剤の組み合わせが、現在最も効果的な薬剤と考えられている。

これらの治療法を使用して1人がタバコを長期間禁欲し、維持するために必要な通院治療回数は、8~20回の範囲である。


・米国ではブプロピオンという精神安定薬が禁煙教育の目的で投与されることがあるがわが国では未承認である。


投薬に加えてカウンセリングを行うと、禁煙達成効果が高い。カウンセリングは、直接の面接、または電話、テキストメッセージング、またはインターネットを介して提供される場合がある。




Q. ニコチンの作用は?


・ニコチンはタバコの主要な依存性化合物である。タバコの煙を吸い込むと、ニコチンは動脈内を経由し、1本あたり平均1mgのニコチンが7〜30秒で脳に送達される。


・これにより、脳の報酬経路でドーパミンの放出を仲介するニコチン受容体が活性化される。高濃度のニコチンがこのように迅速に送達され、結果として喫煙によりニコチン送達が最も中毒性の高い形態にする。


・タバコの煙に含まれるベータカルボリンは、強力なモノアミンオキシダーゼ阻害剤として作用し、脳内のドーパミン、ノルエピネフリン、およびセロトニンのレベルを上昇させる。煙中の多環芳香族炭化水素は、シトクロムP450酵素(CYP1A1、CYP1A2、場合によってはCYP2E1)を誘発し、臨床的に重要な薬物相互作用を引き起こす。




Q. タバコ煙の有害性は?


・タバコの煙には、60〜70種の既知のヒト発がん物質を含み、約7,000種の化学物質を含む。


・喫煙の開始および、その後のタバコ依存症の危険因子は、遺伝的および環境的の両方である。人が喫煙を開始する年齢、1日あたりに喫煙されるタバコの本数、および禁煙効果は、406種の遺伝子座における566個の遺伝的変異と関連している。


・親の喫煙、仲間の喫煙の影響は、衝動性およびリスクを冒し、感覚を求める行動に関連する性格の特性は、実験的に喫煙の開始と関係する。さらに、小児期の逆社会経験が、成人後に喫煙者になるリスクを2倍に増加させる。




Q. 喫煙と関連する慢性疾患は?


・タバコ関連の慢性疾患は、通常、数十年の喫煙習慣の後に発症する。

肺がんのリスクは25倍高く、冠状動脈性心臓病や脳卒中のリスクは非喫煙者の2〜4倍である。


40歳以前に禁煙すると、たばこ関連疾患による死亡リスクが約90%減少する。




Q. 禁煙の試みの問題点は?


・喫煙者では、永久禁煙ができるまでに30回以上、禁煙を試みていると云われる。


・喫煙者のわずか3〜5%が、6〜12か月後に禁煙が達成できる。再喫煙は禁煙後の最初の8日以内に発生する。


・急性禁断症状(例えば、集中力の低下および不安の増大、悲しみ、怒り、欲求不満、過敏性、不眠症、および空腹)、その後の喫煙衝動(すなわち、吸いたいという渇望感)が問題である。


禁断症状は、喫煙をやめた後2日以内にピークに達し、禁煙日から1週間以内に大幅に減少するが、渇望感は持続し、再喫煙につながることが多い。


・再喫煙リスクは、禁煙の翌年に10%、2年後に2~4%に減少する。


1本でも喫煙すると、完全に再喫煙となる可能性がある。しかし、エビデンスに基づく治療では、喫煙者の10〜30%が長期の禁煙を保っている。




Q. タバコ依存度の判定は?


・たばこ使用における障害を診断するための基準(すなわち、精神障害の診断および統計マニュアル[DSM-5]の第5版の基準)が利用可能である。


・1日あたりの本数、および目覚めてから最初の喫煙までの時間が短い場合は依存度が高い。

依存症の重症度を正確に判断するために使用できる。




Q. 禁煙の達成方法は?


・米国食品医薬品局(FDA)による推奨では、禁煙のためのいくつかの薬(すなわち、ニコチン置換療法、バレニクリン、ニコチンパッチと短時間作用型ニコチン置換療法の組み合わせの両方が、禁煙のための最も効果的で安全な一次治療と考えられている。


・ニコチン置換療法は通常、患者の目標禁煙日(患者が少なくとも24時間禁煙を約束する日)に開始する。非ニコチン経口薬は少なくとも1週間前に開始する。治療期間は通常8〜12週間である。


・ニコチン置換療法に反応するほとんどの喫煙者は、治療開始後4週間以内に禁煙しますが、治療の完了は、長期禁煙の高くなる。


・薬物療法にカウンセリングを追加すると、禁煙達成の可能性が高まる。


・ニコチンパッチに短時間作用型ニコチン置換療法(ガム、トローチ、ミスト、吸入器など)を追加すると、禁煙達成の可能性が高まる。




 本論文の中でも述べていますが多くの喫煙者は、禁煙の必要性をある程度は理解しながら自分で試みて失敗を繰り返しています。理解はできていても実際には難しいのが禁煙です。本論文でも強調していますがカウンセリングを追加することにより禁煙達成の可能性が高くなります。当院でも診察と兼ねたカウンセリングを医師、看護師で行っています。なぜ禁煙が必要かを理解していただくのが最も重要なポイントと考えています。

 



参考文献

1.Selby P. et al. Tobacco addiction. N Engl J Med 2022; 387: 345-54. DOI: 10.1056/NEJMcp2032393


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