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No.271 未解決の問題点が多いマスク着用


2023年2月25日


 新型コロナ感染症がパンデミックとなり、公衆衛生上の対策が大きな問題点となってきました。その中には、これまでは広く取り上げられてこなかった医学的な問題点としてマスク着用の意味付けが挙げられています。

 マスク着用の科学データが必ずしも十分ではなかったことを取り上げています。全米科学アカデミーは、適切なマスクの選択とこれによる保護作用を検証し,さらに、米国胸部学会では、呼吸器専門医向けに具体的な問題点を解説しています[1]。専門医が、一般の人たちからどのようなマスクが適切であるかを尋ねられることが多いからです。この論文では問いかけられた医師がきちんと答える準備ができていますか、と医師側の理解を求めています。具体例を挙げ、回答の難しさを説明しています。




Q. 全米科学アカデミーの報告書が取り上げていることは?


・報告書は全米科学アカデミーと労働安全衛生局(OSHA)によるもので「呼吸を守ること」と「医療機関」の役割が中心となっている。


問題点は以下の2つの場合である。


1)健康被害を起こす労働環境で働く労働者に対し、新型コロナウィルスのような感染力の高い病原体を防ぐ目的と有害物質吸入を避ける目的でマスク着用を勧告しているが現在の基準は不十分である、としている。


2)一般市民から呼吸保護具としてのマスク着用の必要性を質問されたときの判断は各医師に任されているという現状がある。明確な基準はない。




Q.  労働安全衛生局(OSHA)が求めている安全性とは何か?


・OSHAは、作業中に着用したマスク(レスピレーターと呼ぶ)自体が着用者に害を及ぼすことを防ぐことを目的としている。


・レスピレーターには自給式呼吸器、ハーフフェイス、フルフェイスのエラストマーフィルター・レスピレーターなど重装備のマスクは、呼吸仕事量そのものを増加させる危険があり、呼吸困難を起こす。不適切な使用は生命を危険にさらす。(図1)。肺機能が正常な健常人では耐えられるがCOPDや喘息で低下している場合には重装備のレスピレーター式のマスクを着用することが危険となる可能性がある。

さらに着用が閉所恐怖症を起こす場合や、顔の形、サイズがマスクの適切な着用を妨げるリスクもある。


(図1)

出典:Rice MB. et al. Ann Am Thorac Soc 2023; 20: 196-199.より


マスク、フェイスカバー、レスピレーターの例を示す




Q. 【具体例1】 36歳の喘息患者。大気汚染が深刻なニューデリーでのビジネス会議に出席予定だがマスク着用はどうすればよいか?


・布製マスクは直径が約0.3μmの大気汚染の微粒子を除去するには不十分でほとんど役立たない。適切なサイズのN95人工呼吸器の着用が勧められる(図参照)。これを正しく使用するには事前のフィットテストを行う必要があるが一般人に行うことは適切ではない。

結論的には、戸外へは出ず、可能な限り濾過された空気が提供される室内にとどまることが望ましい。




Q. 【具体例2】 3週間前から咳が止まらない。山火事の多い時期に屋外で働く。


・山火事では大量の煙にさらされる可能性があり、短期間で呼吸器症状が悪化する可能性が高い。煙状物質の吸入により成人の喘息悪化、肺機能の急速な低下、COPDの増悪を起こすリスクが高い。OSHAが認可した呼吸用保護具のみが安全性を守ることができる。しかし、マスク着用が、熱中症のリスクを高め、肥満や心臓病があるとさらに危険な状態となる可能性がある。




Q. 【具体例3】 子供の場合はどうするか?


・子供用の呼吸保護具は不足している。中国製、韓国製があるが米国の基準をクリアしておらず有効性は疑問である。喘息などの小児を守るとして年長の子供ではブランドの小型、または超小型のN95人工呼吸器の使用が考えられるが年長児以外では使用は困難。小児の呼吸保護に関する研究データはほとんどないのが実態である。




Q. 【具体例4】 28歳、山火事が多い地域で大気汚染被害が強い地域に住んでいるがマスクなしで、屋外で運動することは適切か?


・マスクなしでの屋外運動はリスクが高い。屋内で運動する場合でも十分なフィルターと適切なHVAC(暖房、換気、空調)がない場合には屋内汚染も強く、安全とは言えない。ジムで運動を開始する場合には建物の管理者にHVACレポートを要求し、適切な空気濾過を確認することが必要である。




Q. 【具体例5】 82歳、肺に放射線治療後の肺線維症があり、肺機能が低下し、そのために軽度の右心不全があり、酸素療法実施中。新型コロナウィルス感染予防のワクチンは2回接種済み。孫娘の結婚式に出席したいが1時間の航路で気を付けることは?


・米国の国内旅行の規制ではフライト中のマスク着用は義務ではない。フライト中に酸素吸入を行う必要があるので感染リスクは無防備となる可能性があり、危険である。代替え品では酸素吸入の鼻カニューラの上に着用できる緩いフード付きの電動空気清浄呼吸器の使用が考えられるが航空会社が受け入れるかどうか、と費用の面が問題である。




Q. マスク着用の一般的な問題点は何か?


・現在呼吸器保護具を着用していない人(教師、食料品店の労働者、農場労働者など)および一般市民が対象となる。


・報告書では、呼吸用保護具の快適性、フィット感、使いやすさ、有効性を改善し、非常に幼い子供、虚弱な高齢者、および障害のある人のニーズを満たす新しいものを開発するための研究を推奨している。すなわち、現在、これらを満たすようなマスクの入手は困難である。


・虚弱な高齢者、障害者、小児など弱者対策は臨床医、看護師など公衆衛生の専門家への教育が必要であり、多様な一般市民と多様な労働力のための文化的に適切なコミュニケーションキャンペーンが必要である。




Q. 新型コロナウィルス感染症流行中の問題点は何か?


・呼吸器専門医にとっても未解決な問題点が多い。


・予防策として、エアロゾル感染、屋内換気と紫外線照射、曝露の相対リスクとさまざまなデバイスによるリスク軽減がある。


・多様な文化や集団において、吸入による危険をどのように軽減するかについて、社会科学の問題がある。これらの未解決の問題点が多いことは医療者からの効果的なアドバイスの実効性が乏しいことを示唆する。


・この幅広い研究課題をサポートし、ガイドラインを確立し、一般市民が 適切なマスク使用により呼吸保護具を利用できるようにするために、研究の推進と監督庁の役割を決める必要がある。


・ 新型コロナウィルス感染症の感染対策だけを行ったとしても、煙、スモッグ、感染性エアロゾルによって引き起こされる問題は残る。




 感染予防のためのマスクの着用をどのようにすべきか、また、マスクなしの社会生活の中で感染予防策をどのように進めるかはわが国にとっても緊急的なテーマとなっています。

 公衆衛生の政策として実効性を高めるためには、問題点を整頓し、学童や広く社会人への基本的な教育態勢をできるだけ早く進めるべき時期にあると思われます。




参考文献:


1. Rice MB. et al. Medical guidance for respiratory protection; who should wear what, where, and when. Ann Am Thorac Soc 2023; 20: 196-199.


※無断転載禁止

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