2023年9月25日
9月25日は、世界肺デー(World Lung Day)です。米国胸部学会は、国際的な連帯を呼び掛けています。
今年のスローガンは「すべての人のための予防と治療へのアクセスです。誰も置き去りにしないでください」です。
地球の温暖化、急激な気候変動で呼吸器の病気が増えてきています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)や夏季にも多くみられるインフルエンザ感染など急性感染症も重要な問題ですが多くの慢性呼吸器疾患が問題となってきています。
米国胸部学会代表である米国、ローチェスタ大学呼吸器内科の、リベラ教授が
世界肺デーに向けたメッセージを発表しています[1]。
以下にメッセージの概要を紹介します。
Q. WHO(世界保健機関)により最近、発表された呼吸器疾患の危機とは何か?
・喘息は、もっとも頻度の高い非感染性疾患であり、2019年に世界で2億6千200万人の患者数であり、毎年、約50万人が死亡している。
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、全世界では第3位の死亡原因であり、健康障害では第7位であり、2019年度に320万人が死亡している。
・肺炎は、全世界では子供の死亡原因のトップであり、5歳以下の全死亡原因の14%を占めている。2019年度には74万人の子供たちが死亡した。
・結核は、死亡に至る感染症の中ではトップであり毎年、150万人が死亡し、1,000万人が新たに罹患している。
・肺がんは、がんの中では首位を占め、2020年度では男女合わせて約180万人が死亡した。
Rivera教授は、肺がんの専門医であるが、多くの患者とその家族の悲惨さをつぶさに目にしてきた経験を述べ、米国では、大腸がん、乳がん、前立腺がんを合わせた数よりも肺がん死亡例が多く第2位である。
Q. 低、中所得国の慢性呼吸器疾患の問題点は?
・低、中所得国の慢性呼吸器疾患が深刻である。その理由は、研究、予防、管理上のリソースが不足していることが問題でありその結果、患者数が増加している。
・健康教育の不足、病気をスクリーニングするためのアクセスが悪いこと、識字率が低いこと、有害な環境毒への暴露の増加があり、資源の少ない環境で対策が遅れている。
Q. 呼吸器疾患に関わる医療者の連帯は?
・世界中の呼吸器疾患に関わる医療者(臨床医、看護師、呼吸療法士、研究者、医療指導者、政策担当者など)が連帯し、基本的人権としての肺の健康を守るために行動を呼びかける。
・アドボカシー、コラボレーション、教育を通じて医療の枠組みを越えて健康を守るための社会的および環境的な要因の改善に取り組む必要がある。特にタバコの使用と気候変動に目を向け、世界的な健康の成果を改善し、格差の緩和に向けた行動を求める。
Q.タバコ問題とは?
・WHOによればタバコは公衆衛生に関わる重要な脅威の一つであり、毎年1万人以上が死亡し、間接喫煙による暴露で約2万人が死亡している。世界中では1億人以上がタバコ製品の利用者であり、約80%は低、中所得国に居住している。
・米国胸部学会は、タバコ産業を規制し、特に若年者やマイノリティーのタバコ、電子タバコを含むタバコ製品の販売を削減するために行動している。毎日、3,200人の若者が喫煙を始め、2,100人が常習化している計算になる。クール/非メントールのタバコ製品はこれら若者を新たな喫煙者に誘い込むことになっており市場から排除することを要請している。
Q.気候変動と健康問題は?
・米国胸部学会は2008年に健康問題としての気候変動についてコメントを出してきたが、2023年、新たに警告を出した。記録的な気温上昇、大規模な山火事の発生が問題である。気候変動は、粒子状物質による大気汚染、地上レベルのオゾンの増加、これらの影響による肺機能の低下、喘息の悪化による救急受診の増加、早期死亡の増加が問題である。
米国CDCの警告では、オゾンと粒子状物質による早期死亡者数は年間、1,000人のレベルから2050年には4,300人に増加すると予測されている。特に、弱者とされる女性、子供、高齢者、現在、慢性疾患で治療中の人たちのリスクが高くなる。
Q.医療者による患者教育の重要性は?
・慢性呼吸器疾患を抱える患者に対する教育という面で医療者の立場は重要である。適切な医療機器の使用、吸入薬の適切な治療、睡眠時無呼吸症候群の患者に対する適切な治療により合併症を予防することが重要である。
・頻度の多い呼吸器疾患としての喘息やCOPDだけでなく、まれな頻度の呼吸器疾患の対策にも目を向けるべきである。
Q.2023年度の肺の日にちなむ共同行動の呼びかけとは?
・米国だけでなく世界の政策担当者に慢性呼吸器疾患の予防と治療についてアクセスが不平等をならない社会的不平等の解消を呼びかける。
・アドボカシー、研究、教育を通じて肺の健康を促進すること、タバコ規制の強化、気候変動に対する緊急的な行動を呼びかける。
メッセージは、2015年に国連持続可能な開発サミットにより決められたSDGs(持続可能な開発目標)に準拠しています。すなわち、「誰一人取り残さない」持続可能な多様性と包摂性のある社会を目指しています。これには、17の大目標と169の具体的な目標が含まれています。2022年度、日本は19位で79.6%の達成率でした。17項目のうち6項目は達成できませんでした。
国際的な禁煙運動は、2003年のたばこ規制枠組み条約(FCTC)に始まり、2015年にSDGsの中に含まれました。必ずしも順調に進んでいるわけではありません。WHOはフレームワークの行動内容としてMPOWERという具体的な内容を示しています[2]。
以下がその項目です。
M:タバコの使用と防止の方法を監視する。
P:タバコの煙から人を守る。
O: タバコの使用を止めるために助けを提供する。
W: タバコの危険性について警告する。
E: タバコの広告、プロモーション、スポンサーシップ禁止を警告する。
R: タバコ増税。
2017年度だけでも間接喫煙の被害は、小児の死亡の2.18%を占めています[2]。先進国だけでなく途上国でも禁煙政策は進んでいません。