top of page

No.363 呼吸リハビリテーションの問題点と在り方

  • 7月9日
  • 読了時間: 12分

2026年7月9日


 慢性の病気の多くは、治癒、すなわち完治というより病気を持ちながらも快適な生活を最大限、工夫していくことが大切だ、と考えられています。その最大限の工夫の一つがリハビリテーション(リハビリ)です。階段や登り坂での息切れなど日常生活の上で苦しさ、不自由さを起こす呼吸器疾患の治療では、特にリハビリテーションという治療法を持ち込むことが大切です。多くの疾患の治療で、リハビリが大切なことは、内科学の祖と言われるウィリアム・オスラー (1849-1919年)が100年以上前に指摘していますが、いまに至っても十分とは言えないほど多くの問題点を抱えています。実際、多くの患者さんに対し、限られたスタッフ数の診療現場で継続的なリハビリの実現は容易ではありません。


 一般のメデイアは取り上げていませんが、医療記事では、世界保健機関(WHO)事務局長が改めてリハビリの大切さを提言しています[1]。以下が概略です。


 「第158回執行理事会において、リハビリテーションの保健システムへの統合を監視するための世界的な指標を概説した報告書を発表した。これらの指標は、2024年11月から2025年3月にかけて加盟国間で行われた協議を経て策定された。この節⽬は、2023年の世界保健総会(WHA)決議76.6「保健システムにおけるリハビリテーションの強化」に続くものであり、同決議は、満たされていない膨大な人高口ニーズに対応するため、保健システムのあらゆるレベルでリハビリテーションサービスを開発することを求めている」。


 リハビリが特に必要とされるのは、片麻痺など四肢の運動能力が著しく低下した状態を回復させる治療法が必要とされる高齢者の慢性疾患です。しかし、現実には、慢性に経過する内臓疾患に対するリハビリテーション体制は、著しく不十分です。特に、呼吸器疾患では、高齢者が重い肺炎でICU(集中治療室)での治療からようやく、回復してもそれから元の生活に戻るためのリハビリテーションの対応は、共通して不十分であり、大きな課題となっています。


 ここで紹介する論文は、老年医療の先進国、英国を代表する呼吸リハビリテーション(PR)専門研究者であり、呼吸ケアのあり方を主導する研究者、University of Leicester のSally J. Singhらのグループが実施してきた無作為に抽出したリハビリ群と非リハビリ群を比較した論文です。

 ここでは、呼吸器診療の現場で指摘されている呼吸リハビリテーション(PR)に関する問題点を中心に問題点と解決策の在り方を指摘しています。




Q. 慢性の病気に起こる障害の問題点とは?


・WHOの国際生活機能分類(ICF)モデルでは、「障害」とは、「健康状態に起因する身体機能障害と、社会的支援や環境など、障害への適応能力に影響を与える文脈的要因との相互作用から生じる」状態と定義している。


・世界中で障害率が上昇しており、障害の主な原因については国ごとにかなりのばらつき があるものの、世界の疾病負担は感染性疾患から非感染性疾患に移行しており、多くの国で加齢に伴う疾患が障害の原因として増加している。呼吸器疾患では、 COPDや重症の喘息、間質性肺炎、ときには肺がんもこれに該当する。


・障害は本人とその介護者の生活の質(QOL)に多大な影響を及ぼし、医療費の増加にもつながる。




Q. 複数の慢性疾患を抱えるリスクとは?


・複数の慢性疾患を抱えることは、より高いレベルの障害と関連している。


・米国での調査では高齢者のうち複数の慢性疾患を抱える人の割合が年々増加しており、1998年には4つ以上の慢性疾患を抱える高齢者は11.7% ➡2010年には13.7%に増加。

 ➡米国保健福祉省(2010年、報告書)では、全米国人の31.5%が複数の慢性疾患を抱えており、その割合は加齢とともに急激に増加し、65歳以上の人の80%以上が複数の疾患を抱えていると報告されている。

 ➡障害は本人とその介護者の生活の質に多大な影響を及ぼし、医療費の増加にもつながりる。


・高齢者では、転倒、感染症、入院などの軽微なストレス要因が障害の誘発につながる可能性がある。




Q. 論文[3]の要点は?


背景:

COPD患者に対する呼吸リハの問題点

・COPD患者において、呼吸リハビリテーション(PR)は身体機能と精神機能の両⽅を改善する上で非常に効果的であるというエビデンスがある。


・開始時に一定のプログラムの下で期間を限定して実施するのが一般的である➡PR効果として医療費および患者負担の軽減や、死亡率の低下の効果が期待できる。


・英国では、国際的なガイドラインに沿って、期間を限定して(通常6~8週間)のPRプログラムが実施されている➡患者の生活習慣の改善が目的に含まれる。改善が継続しなければ、PR介入の効果はなしと判断される。


運動能力健康関連QOL (HRQoL)の向上を⻑期的に維持する能⼒には、多くの要因が影響する。


・心理学的観点から、PR終了後に患者意見として「見捨てられた」という訴えがある。  ➡PRの利点を維持するために、「PRプログラム自体で実施される頻度よりも少ない回数により継続的に監督下で行われる運動」とする案が報告されている。

 ➡そこで、なるべく理学療法士の負担を減らすための積極的なデジタル機器の利用は、解決案の一つである。

 ➡本論文では、一定の期間のPRが終了した後の継続の形を検討した。デジタル機器の併用効果も検討した。

 ➡PRの効果の詳細は別稿で紹介される予定とされており、本論文では、主にSinghらのグループが勧めるPRの特徴を論ずる内容となっている。



方法:

・前向き多施設共同、評価者にも不明な二重盲検無作為化比較試験を実施した。


・COPD患者を、通常ケア(対照群)またはSPACEに1対1で無作為に割り付けた。

 ➡PR実施(=介入群;SPACE for COPD群と呼ぶ)は、12か月間継続実施、自宅での生活様式のマニュアルと4回の教育目的で指導者付きのグループセッションとして実施した。

主要評価項目:12か月時点での持久力シャトルウォーキングテストを含む評価。

副次評価項目:最大運動能力、気分、患者の活性化、身体活動、医療費、および健康関連QOL(HRQoL)。



結果と考察:

・米国胸部学会(ATS)作成のPRプログラムでは、多くの維持療法プログラム(例えば、頻繁な対面訪問や電話連絡を伴うこと)が資源と労力を多く必要とすることが判明した。


・さらに、維持療法としてのPRが、最初のプログラムから6~12か月後の運動能力や健康関連のQOL(HRQoL)を改善するというエビデンスが一貫していない。


・SPACE for COPDは、英国レスター大学で患者と医療従事者が共同開発した4段階のマニュアルである➡このプログラムの特徴は、COPD患者の行動変容を支援するために動機づけ面接法を取り入れている。


・対照群(通常のケア)と比較して維持療法に有利な傾向があったが、研究対象数が少なく、介入試験は期間、設定、監督レベルに関して一定の結果が得られなかった。


・両者とも、監督なし/監督ありのPR維持療法プログラムの最適な頻度、期間、内容、監督レベルに関する研究ギャップが存在することを示唆した。


・これらのプログラムの費用対効果を検証する必要がある。


・PR維持プログラムの最適な内容に関しての差異が大きいことから患者の動機づけと日常の行動を変化させる行動変容戦略は効果の維持において重要な役割を果たす➡この部分のさらなる検証が必要である。


SPACE for COPD(活動、対処、教育の自己管理プログラム)が維持プログラムとして臨床的にも費用対効果の面でも有効かどうかのさらなる検討が必要である。




Q. 高齢者のリハビリの問題点とは?


・基本的な機能活動を行う能力の制限は、加齢とともにますます頻度が高くなり、「障害」を起こす。


リハビリテーションの主目的は、身体的な障害を抱えながらも、可能な限り最高のレベルで機能できるようにすることである。


・リハビリテーションの必要性が急速に増加しているのは65歳以上の高齢者グループである。


・高齢者のリハビリテーションは、複数の環境でリハビリテーションケアを提供する必要性が頻繁に生じるため、より困難になることが多い。

 ➡例えば、股関節骨折や脳卒中の患者の場合、リハビリテーションは急性期病院に入院中に開始され、その後、患者の回復過程において、集中的な入院リハビリテーション、熟練した看護施設、在宅医療、外来ケアへと移行する。

 ➡複数の場所での移行は、投薬ミスと変更、リハビリテーション介入の中断、患者の混乱、うつ病など、さまざまな問題のリスクを高める ➡これら、全体がプログラムに組み込まれることにより成果を高めることができる。




Q. 複数疾患を抱え障害をもつ高齢者の内臓疾患のリハビリとは?


・複数の健康状態を抱える患者の場合、障害の主原因や誘因を特定することはしばしば不可能である 

 ➡機能的依存を軽減する最も効果的な手段は、あらゆる要因、機能障害、そして状況要因を特定し、適切な介入によってこれらの要因に対処することである。

 ➡高齢者の重症COPDのリハビリの維持プログラムの設定は難しいテーマである。




Q. 呼吸リハビリテーションの効果の検証は?


・呼吸リハは、主に重症のCOPDを対象として実施されてきた。約1年間の期間を決め、その間に定期的に指導・訓練を実施していくタイプが多い。


・これを達成するために、身体活動コーチングプログラムでは通常、患者・家族を教育する目標の設定、自己モニタリング、身体活動・行動に対する効果を検証するための方法を提供している(例:歩数計などによる)。

 ➡従来、発表されてきたCOPDのリハビリ効果は、数か月間の効果を検証したものが大多数である。

 ➡その結果は、慢性疾患があっても身体活動の増加は有益、と結論するものが多い。

 ➡しかし、持続効果については呼吸リハのプログラム終了後、12か月間は実施前に比べて明らかに改善効果が認められているが、以降の改善効果は検証されていないものが大多数である。

 ➡COPD 患者の活動増は、長期試験では、一時的な増加にとどまり、QOLや精神健康への改善効果はほとんどみられていない。

 ➡これは重大な課題を浮き彫りにしている。長期にわたって利益を維持するには、継続的な支援と強力な行動戦略が必要である。




Q. デジタルコーチングによる有用性の検証は?


・定期的に受診させ指導・訓練させる呼吸リハは、新型コロナウィルス感染症の流行時期に英米の呼吸リハは中止のやむなきに至った。

 ➡これに代わるものとしてウェブサイトを利用したデジタルコーチングによる呼吸リハが実施されたが効果という点では従来型と同等効果が得られなかった




Q. デジタルツールによる呼吸リハはなぜ効果を持続させることができないか?


・デジタルツールは、新奇性や外発的動機、技術的な魅力でユーザーを引きつけることが多いが、医療者が個々に行う社会的‧感情的なサポートがなければ、患者側の熱意は次第に薄れていく➡ユーザーである患者は技術的な疲労、通知の過多、フィードバックや目的が不明確となり次第にデジタルツールから離れていく。


 ➡呼吸困難、急性悪化、併存疾患、酸素療法の開始による不自由さ、社会的孤立など、 COPD 特有の課題は、日常習慣の改善をさらに複雑にしてく。

 ➡医療者側の最善の努力にもかかわらず、すべての患者が介入に同じように反応するわけではないという臨床的現実がある。

 ➡従来の研究報告では、基礎的な運動能力が高く呼吸困難の程度が低い患者は、身体活動コーチングプログラムから良い効果を得やすいことが示されている。

 ➡症状が重く運動能力が低い患者では通常、より身体的に活動的になることが難しく、カリキュラム化された運動トレーニングの方が能力向上により効果的である場合がある。

 ➡自己認識をアクティブなライフスタイルへとシフトするためには、ソーシャルネットワークやコーチからの信頼と励ましを 強化するためにも、包括的なサポートが必要である。




 ここで紹介した論文は、英国、Leicester州にあるUniversity of Leicesterの教授であるSally J. Singhが中心になって実施した臨床研究です。Singhらのグループによる呼吸リハは、この方面の研究の中心とされています。彼女は、2022年に東京で開催された呼吸ケア・リハビリテーション学会に招聘され特別講演を行っており、文字通り呼吸ケア・リハの第1人者です。私自身も数年前に呼吸リハの見学のため同研究室を訪れたことがあります。まさしく、本論文で記載されている方法によるリハ教室が実施されていました。また、この中で、医療者の役割が新たに問われ、また患者さんたちを支える形の患者会の役割は極めて大きいと感じています。

 階段や坂道での高度の息切れや、咳、痰。COPDや重症の喘息など慢性の呼吸器疾患の治療では、吸入薬など治療薬だけで解決できる問題点は限られています。さらに問題点を複雑にしているのは重症のCOPDや経過の長い重症喘息は、高齢者層に問題点が偏在しているという点です。重症のCOPDを対象とした呼吸リハの実施効果を検証した論文は、わが国でも多数あります。高齢、重症COPD、脳梗塞、心不全など心血管病変併存症の存在、関節痛、四肢の筋力低下や核家族化など環境因子は、患者さんを、次第に孤立化させる要因となっています。


 新型コロナ感染症の流行で、米国では、定期的に通院で行う呼吸リハは壊滅状態に陥ったと言われています。他方、ネット環境を利用した自宅での呼吸リハの効果は必ずしも一致した成績は得られていません。本論文でも述べられている通りです。呼吸リハの新たな立上げは、わが国だけでなく、世界的な共通の目標と言えます。高齢社会に入った現在、整備は、「焦眉の急」とも言える社会的な重要な課題です。



追記:

2026/07/07付けの読売新聞朝刊、2面の記事によれば、厚労省は、リハビリに関する政策を一体的に推進する部署を目的として省内に「リハビリテーション統括調整室」を新設した。今後、地域介護や高齢者の保健事業などを統括的に実施していく。健康寿命の延伸や、生活習慣病の予防など幅広い領域を視野に入れ、リハビリに従事する理学療法士、作業療法士の職務を拡大していく方針である、という。




参考文献:


 

1. WHO. Strengthening rehabilitation in health systems. Report by the Director-General. World Health Organization, 2025. https://apps.who. int/gb/ebwha/pdf_files/EB158/B158_26-en. pdf (accessed Feb 12, 2026).


2. WHO. Strengthening rehabilitation in health systems. World Health Organization, 2023. https://apps.who.int/gb/ebwha/pdf_files/ WHA76/A76_R6-en.pdf. (accessed Feb 12, 2026).


3.Houchen- Wolloff, L.et al.

Clinical and cost- effectiveness of SPACE for COPD delivered as a pulmonary rehabilitation maintenance program: a randomized controlled trial.

Thorax 2026; 0:1–8. doi:10.1136/thorax-2025-223734 https://doi.org/10.1136/thorax-2025-223734


4. Walsh, JA. et al.

Implementing pulmonary rehabilitation in primary care - a randomized 3 controlled feasibility trial. Ann Am Thorac Soc, 2026; in press.


5. Connolly BA. et al.

Development of a core outcome set for trials of physical rehabilitation in critical illness. Ann Am Thorac Soc 2024; 21:1742–1750.

 

6. Hoenig, H. et al.

Overview of geriatric rehabilitation: Patient assessment and common indications for rehabilitation. UpToDate. Literature review current through: May 2026. This topic last updated: Oct 14, 2025.


※無断転載禁止

bottom of page