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No.371 肺の老化とは何か

9月28日
読了時間: 9分

2026年9月28日 

 

 9月21日、敬老の日。この日、毎年、恒例のように発表される統計があります。

「65歳以上の高齢者数は、3,624万人で前年より2万人増えた。総人口に占める割合は29.6%であり、統計データがある1950年以降では最高を更新した。高齢化率は1950年以降、一貫して上昇している」。「日本の高齢化率は、人口が4千万人以上の世界39か国の中で最も高かった」(朝日新聞、2026年9月21日)。

「2022年のデータでは、男性の平均寿命は、81.05歳、女性は87.09歳となっている。これに対し支障なく日常生活を送れる健康寿命は男性72.57歳、女性75.45歳で大きな差がある」(読売新聞、2026年9月21日)。


 さらに死亡原因の報告では、1位―悪性腫瘍、2位―心疾患、3位―老衰、4位―脳血管障害、5位―肺炎。他方、WHOが発表(2025年)している世界の死亡原因の統計では、1位―虚血性心疾患、2位―脳卒中、3位―COPD、4位―下気道感染症、肺炎、5位-肺がん、となっています。WHO統計では5位までの死亡原因に呼吸器疾患が3種類を占めています。統計の元となるデータの集め方に違いがあるのでわが国のデータとWHO発表のデータには差異がありますが、心血管病変、肺がん、感染症としての肺炎が共通していますが、わが国の統計ではCOPDの順位が低いことです。実際にCOPDの患者数が少ないのか、あるいは診断率が低いことによるか、は議論のあるところです。実際、欧米発表の医学論文には、日本人にCOPDの患者数が少ない理由を議論している文献もみられ、正確なデータの収集は重要な研究テーマです。


 読売新聞記事では、平均寿命と健康寿命の差は、男女とも約10年間と伝えています。つまり、男女とも日常生活に不自由な生活が約10年間ある、ということでしょう。この10年間にCOPDで悩む患者さんがどのくらいになるかの正確なデータは目にしませんが、いずれにせよ、咳、痰、歩行時の息切れなどの呼吸器症状で悩む高齢者が少なくない、ということです。

 臨床の現場では、COPDの予防、早期発見、効果的な治療は、重要な課題です。

最近になり、COPDを発達-老化と結びつける論文を多く、目にするようになりました。その多くが10年前に開催された、大西洋気道病変会議(Transatlantic Airway Conference)で議論された肺の発達、老化の研究会で発表された論文を始まりとしています。ここでは、2016年度のまとめの論文を踏まえた10年後、2026年度に発表された論文[1]を紹介します。




Q. 大西洋気道病変会議(Transatlantic Airway Conference)とは?


・大西洋気道病変会議(Transatlantic Airway Conference)は、毎年開催され、2026年、31回目を迎えた➡会議の目的は、呼吸器疾患研究の最近の進展をレビューすることである。

➡会議の目的は、1)現在の知見をまとめ、呼吸器病変に絞り、根本的なメカニズムの理解を深め、呼吸器疾患の新たな調査アプローチや治療法を提案する。

2)毎年の会議に選ばれた呼吸器研究分野の学際的な科学者グループを結成することを目的とする。さらに、会議の重要な側面の一つは、異なる国の研究者間の意見交換を促進することである。




Q. 第31回会議の主題「肺の老化と再生」の目標は?


・老化と肺再生のメカニズムの最近の進展、そしてそれらが肺疾患に果たす役割について議論し、治療的介入の標的となる共通経路を定義する。




Q. 老化の機序をめぐる研究とは?


・細胞、臓器、生物レベルでの老化メカニズムの理解はまだ十分に解明されていない。


・加齢は組織・臓器・生物の機能の進行性を障害すること、として特徴づけられ、環境への脆弱性が高まり、病気や死亡のリスクが高まる。


・老化にはさまざまな遺伝的要素が含まれ、多様な側面を持ち、そして何よりも明確な目的を持たない。老化は生物の単一細胞に限定されるものではなく、異なる細胞タイプに影響を及ぼし、生物による影響も異なる。


・老化の一つの概念は、多面性遺伝子の存在を支持しており、これらは異なる年齢で逆の効果を持つ➡これらの遺伝子は生下時の初期段階では有益であるが、老年期には有害となる。

 ➡この概念は「敵対的多面症理論」として知られる(1957, Williams, G.C.)➡これまでに、p53および哺乳類標的として、抗多重性プログラムとして提案されている。

 ➡最近では、Wntシグナルのような重要な発達シグナル経路も「発達ドリフト」に寄与すると提案されている➡これらの経路の異常な活動は複数の慢性呼吸器疾患で示されている。




Q. 2026年度研究、肺の老化と再生の将来とは?


・COPDの発症は、成人期になって正常な肺機能検査(スパイロメーター)が正常値に達しない場合や、肺機能が急速な低下によって引き起こされることがある。


・多くの大規模コホートからの報告にもかかわらず、喫煙を含む単一の成人の生活要因だけでは、肺機能の急速な低下減少は説明できない。

 ➡対照的に、5つの小児リスク因子(母親の喘息あるいは父親の喘息、母体の喫煙、小児喘息および呼吸器感染症)は、肺機能低下の加速およびCOPDの発症と強く関連する。

 ➡肺の成長、発達に悪影響を及ぼす要因には、世代を超えたもの(祖母の喫煙)、産前期(喫煙や汚染への曝露)、幼児期(たばこや農薬を含む汚染への曝露)などがある。

 ➡胎児期の有害事象は、発達中の肺に構造変化を引き起こし、低出生体重や早産、免疫反応の変化を引き起こすことがある。

 ➡また、発達早期におけるウィルスや細菌感染、アトピー性の感作も重要である。

 ➡気道炎症の兆候が見られない乳児期の気管支過敏性(喘息症状)は、呼吸器へ悪影響を与える。

 ➡複数の集団を対象とした長期の観察研究で、肺機能検査(スパイロメトリー)は幼児期から中年後期まで追跡され、60歳代のCOPDの患者は10歳の時点で、肺機能検査ではすでに低値を示していた➡肺の発達は体細胞の成長期を通じて継続すると考えられており、幼少時早期のタバコ煙曝露は悪影響を与える。

 ➡遺伝的要因も重要で、肺の発達や幼児期の喘息症状に関与する遺伝子もCOPDの発症に関与している。

 ➡結論として、COPDの根源は幼少期にあり、COPDは幼少期の有害要因と遺伝的要因が相互作用する病気である。

 



Q.  COPDの発症に関する理論の修正とは?


・古典的な報告として、FletcherとPeto(BMJ 1977; 1:1645‒1648.)は、 環境の悪影響またはそれらの相互作用➡25歳で全員が正常な1秒量(FEV1)に達し、その後の呼吸障害への進行はスパイロメトリーの低下率のみによって決定されるというモデルを提案した。

➡喫煙歴は低下率の主な決定要因と見なされ、25歳以前の出来事は無関係とされた➡25歳での肺機能検査での1秒量の開始レベルと低下率の異なるものをモデルに組み込んだ➡これらの知見は、その後の研究の発展と最近の研究によって大幅修正となった➡現在では否定に近い評価を受けている。




Q.  妊娠前の有害事象は胎児に影響を与えるか?


・妊娠前の有害事象は胎児に影響を与える可能性がある➡特に祖母の喫煙は、妊娠中の母親と胎児の発育に⼆重の影響を与える➡母親の喘息のリスクを高め、母親が帝王切開による分娩はアトピー性疾患のリスク増加と関連している➡おそらく胎児のマイクロバイオームへの影響を介していると考えられる。

 ➡特に、少なくとも片方の親がアレルギー体質の場合、帝王切開で生まれた子供は8歳時点で喘息の有病率が高く、アレルギー体質でない親の子供は帝王切開分娩の場合、帝王切開分娩後の影響と、帝王切開分娩が必要となる前、すなわち原因を切り離して考えることができない。




Q. 成人期にCOPDとなるリスクが高い⼩児を特定するための質問は?


1. 妊娠中および産後に母親に対する質問項目は?

母親は喘息を患っていますか?

父親は喘息持ちですか?

母親は喫煙しますか?


2. 産後に行う質問項目は?

その子には喘息症状がありますか?

その子は重い呼吸器感染症にかかったことがありますか?




Q. 幼児期、肺の成長期における問題点とは?


・出生後の屋外汚染への曝露と肺機能の低下、喘息、呼吸器感染症、および肺機能検査(スパイロメトリー)で評価すると成長率の低下と関連している。

 ➡社会経済的問題、大気汚染が肺の成長と関連する。

 ➡現在では室内でのバイオマス燃料の燃焼への曝露が最も重要である➡室内空気質の改善策は子供の肺機能を改善する。

➡有機リン系農薬は最近、子供の肺の発達に影響を与えることが指摘されている。




Q. COPDの発症を巡る新しい考え方?


・FletcherとPeto(1977年)の論文発表以降、肺の老化に関する多くの情報が発表され た➡要約すると、COPD患者の多くは肺の老化速度が進んだ状態である。

 ➡実際、20歳ごろの成人期初期に正常な一定値(プラトー)に達しない人はCOPDのリスクが最も高い。

 ➡喘息と気道過敏性は肺機能低下の加速のリスク因子である。さらに、喫煙を含むその他の環境因子は、一貫した原因であると結論されていない。


・結論として、遺伝的要因、特に様々なエピジェネティック機構を介した遺伝子と環境の相互作用は、肺の発達と老化において極めて重要である➡正常な肺の発達において、COPD関連遺伝子が豊富に見つかる可能性が高い。

 ➡しかし、喫煙者と非喫煙者の両方において、肺機能低下を引き起こす遺伝子はかなりの共通点がある➡近年、システム遺伝学的アプローチを用いることでさらに明確化してきた➡具体例:出生前の重要遺伝子ADAM33は、発生段階によって異なる役割を果たす代表的な遺伝子である➡出生前では気道分岐形態形成において重要である。


・胎児におけるレベルは、母体のアトピーは、IL‑13経路を介して影響する➡出生前の母体の喫煙と出生後のアトピーの間には有害な相互作用がある➡喫煙曝露とADAM33多型と8歳時の肺機能が関連する。ADAM33多型は就学前児童の気道抵抗の増加と関連しており、成人では喘息や気管支過敏性と関連している➡これらの原因は、COPDの発症に関連する。

 ➡詳細なメカニズムはまだ解明されていないが、効果が実証されている3つの予防策に焦点を当てる必要がある

 ➡電子タバコも含むあらゆる形態のタバコとニコチンへの曝露に対する対策を強化する必要がある。

 ➡屋外の汚染への曝露を減らすためにさらに厳しい法制化が必要である。特に住宅地における自動車の排出ガスに対する非常に厳しい規制を確実にしなければならない。




 COPDは喫煙歴のある中高年、男性に多い病気という考え方に始まった研究の歴史は、現在では、「胎児期から始まる複雑な慢性呼吸器疾患」という考え方に進歩してきました。

次世代のCOPDを予防するには、妊娠前を含む全世代の対策を強化していく必要があるという警告は、現在の注意事項ではなお、不十分であることを示しています。


 因みに、現在のタバコ警告文は以下の通りです。


 「20歳未満の者の喫煙は、法律で禁じられています。望まない受動喫煙が生じないよう、屋外や家庭でも周囲の状況に配慮することが、健康増進法上、義務付けられています。喫煙は、あなたが歯周病になる危険性を高めます。加熱式たばこの煙(蒸気)は、発がん性物質や、依存性のあるニコチンが含まれるなど、あなたの健康への悪影響は否定できません」


 若い女性の喫煙者が増えています。同じ本数の喫煙量と喫煙年数では、女性の方が男性よりも健康障害を受ける可能性が高い、という報告があります。欧米では、妊婦の喫煙被害を警告していますが、さらに妊婦になる前の女性の喫煙被害を警告しています。喫煙は肺の老化を促進する、すなわち若年者の肺の老化を進める。肺だけでなく全身の老化促進、という研究報告は、COPDの予防策としても重要であることを示しています。




参考文献:


1.     Bush, A. Lung development and aging.

Ann Am Thorac Soc, 2016; 13, Supplement 5, S438–S446.


※無断転載禁止

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