- 木田 厚瑞 医師
No.39 COPDでおこる運動能力の低下をどのように改善するか
2020年3月6日
COPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)の患者さんを困らせるのは、階段や坂道を上るときの息切れです。息切れが強くなれば家から出られない(home bound)となり、やがてトイレへ行くのもやっとの状態となり、寝たきりに近くなります(bed bound)。
COPD は肺の病気ですが、これにより筋肉、特に骨格筋の筋力低下が進むと日常生活が不自由になり、「増悪」を繰り返すようになります。「増悪」とは一時的な症状の悪化を意味し、ときには入院が必要となります。
COPD で生ずる筋肉の病変はどのようにして起こるのか、どのようにして予防、治療ができるかを解説した論文[1]を紹介します。
Q.COPDにおける筋肉の変化
COPDでは身体を構成する筋肉に病変が生ずるが、呼吸すなわち換気運動に関わる筋肉、それ以外の筋肉に大別される。これらはいずれも生存とQOL(生活の質)の両方に関係する。
筋肉に生ずる病的変化は、筋肉を構成する筋線維の変化、筋線維の萎縮、筋肉の代謝の異常に分けられ、肺を取り巻く胸郭全体の改変現象(リモデリング)が起こることが問題である。特に肺が過膨張となり、呼吸運動を担う筋肉の横隔膜が引き延ばされ過ぎとなり効率的な呼吸運動ができにくくなる。
Q.増悪で筋肉にも変化が起こる
COPDの「増悪」を起こすとさらに多くの筋肉の機能低下が生ずることが多い。
増悪により生じた筋肉の変化は予後に関係し、適切な呼吸リハビリテーション、栄養療法で回復しうる。このため特に早期のリハビリテーションが必要である。
Q.COPDの病型による筋肉の影響
COPDは肺気腫型、気道病変型に大別されるが、肺気腫型では筋肉の消耗状態(wasting)が起こりやすい。このような病型は古くはピンク・パッファ型と呼ばれ、やせと赤ら顔が特徴である。
Q.どこの筋肉に変化が起こるか?
上肢筋よりも下肢筋に変化がおこりやすい。これにより歩行障害など日常生活の活動度が低下する原因となる。
Q.筋肉量の減少が与える影響?
全身の筋肉量が減少すると、感染にかかりやすくなる。また、骨密度の減少が起こり骨折しやすくなる。これらはさらに「増悪」の頻度を増加させる。
Q.筋肉に起こる変化?
一般に老化や慢性疾患で筋力が低下する。これらは筋萎縮、消耗(wasting)の変化が筋肉に生じ筋肉を構成する筋線維のサイズが減少する。
筋肉にみられる病的な変化には、萎縮(atrophy)、カヘキシア、サルコペニアがある。
カヘキシアはCOPDで痩せが強い場合にみられ、他方、サルコペニアは、COPD以外にも重症糖尿病、がん、慢性心不全でも起こる。
Q.COPDで筋肉の減少や消耗状態を起こす原因?
運動量の減少
低栄養状態
喫煙
感染や増悪
低酸素血症
高二酸化炭素血症
ステロイド薬の全身投与が頻回
Q.COPDではどのような運動を選ぶか
呼吸リハビリテーションを専門とする理学療法士の指導が望ましい。
患者の日常生活の必要性に合わせる
規則正しい運動習慣とこれに合わせた負荷量を決める
改善に合わせた負荷量の設定
持久運動を重視する。そのためにはインターバルの置き方、負荷のかけ方が大切である。
息切れを改善するには上肢の筋肉を鍛えること、特に吸気に関わる筋肉を鍛える。
Q.呼吸リハビリテーションの効果とは何か?
入院回数が減る
救急受診の回数が減る
運動能力がアップする
呼吸困難の改善、下肢の疲れやすさの改善
四肢の筋力や持久力が改善する
健康に関連したQOL(生活の質)が改善
心配、不安などが改善
自分の病気を自分で管理するという意欲、能力が向上
COPDの治療は吸入薬などの薬物治療と呼吸リハビリテーション、栄養療法など非薬物治療の両方をバランスよく進めることが必要です。後者が、特に大切で定期的な通院治療により患者さんの生活習慣に合わせた細かなアドバイスにより増悪を回避でき、日常生活の快適さを向上させることができます。
参考文献:
1. Jaitovich A. et al. Skeletal muscle dysfunction in chronic obstructive
pulmonary disease. What we know and can do for our patients
Am J Respir Crit Care Med 2018; 198: 175–186.
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すべて表示2021年2月17日 COPD(慢性閉塞性肺疾患)と喘息の違いは、前者COPDが全身疾患であるという点です。その特徴の一つが筋肉に起こるサルコペニアと呼ばれる病変です。寝たきりの原因となるので近年、特に注目されています。 運動療法は、軽症の段階から、ほぼ全ての患者さんに必要ですが、安全で効果的な方法の選択はどの患者さんにとっても大きな課題の一つです。 ところが近年の運動理論は、いずれもとても難解で