• 木田 厚瑞 医師

No.48 新型コロナウィルス感染症の診療に関わった呼吸器専門医らからの提言

2020年4月6日


新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による患者数が急速に増加しており危機的な状況が続いています。

COVID-19は、ウィルス感染により多臓器の機能が失われた状態ですが、特に肺の病変として、肺炎がさらに重症化した急性呼吸速迫症候群(ARDS)を来し、多数の人工呼吸器やECMO(膜型人工肺装置)が必要な状況となっています(No.47、参照)。

米国胸部学会は、中国、イタリア、米国、シンガポールで現在、COVID-19の診療に関わっている呼吸器専門医からの提言を緊急で報告しています[1]。

論文筆頭者のNiedermanは、臨床感染症の専門家として著明であり、最大の渦中にあるニューヨーク州の大学で長年、臨床、研究にたずさわっており、わが国の呼吸器内科医の中でも良く知られています。論文は例外的に副編集長が、執筆者として加わることにより短時間で厳しい査読を実施したと断っています。

論文は、全体は現在、治療に従事する呼吸器専門医に向けたアドバイスとなっています。

ここでは、その概要をお知らせします。




COVID-19の概要


・COVID-19は、SARSコロナウィルス2(SARS-CoV-2)と命名されたウィルスによる全身の感染症である。

・呼吸器臨床医にとって特別な問題点は、感染により呼吸障害を起こす頻度が多く、中でも肺炎のリスクが極めて高いことである。その結果、血液中の酸素濃度が極端に低下する呼吸不全を起こし、集中治療室(ICU)での治療が必要とされている。

・中国からの意見

患者の80%は軽症であったが、これらの約1/4 はICUでの治療が必要となり、そこでの死亡率は49%に達した。その中で、ARDSによる死亡率は52.4%に達した。

・現在、多くの国々でCOVID-19の検査ができない状況にあり、その結果、人口が密集した地域での接触感染の予防ができない。

・ICUのベッドは不足し、そこで使う人工呼吸器が足りない。また、訓練された医療スタッフが不足し、感染予防に必要な医療材料が足りない。支援体制は不十分であり、しかも現時点ではCOVID-19に有効な治療薬はない。

・COVID-19について基本的な情報が不足している。特に重要なことは正確な死亡率である。

- 3-4%と言われているが年齢、合併症、重症度により異なる。

- 死亡予測因子は、高齢者、入院時の血中のDダイマー測定値が高値、初期の臓器の機能低下が反映している。

- しかし、計算値の死亡率は、どのくらい広い範囲で正確な診断に至る検査を実施しているか、に拠っている。多くの軽症患者は検査を受けていない可能性が高い。

・中国では191例の入院のうち54例が死亡。ARDSを起こした症例では高血圧19.4%, 糖尿病10.5%, 心血管病変3.5%の合併症があった。

集中治療室、呼吸器科病棟ではベッド不足、人工呼吸器が不足した。発生数が必要数を上回り医療崩壊につながった。

・韓国からの見解

 広範なスクリーニング・テストを実施し、感染者の実数が判明。その結果、全死亡率は1%以下と判明した。これは季節性インフルエンザによる死亡率(=0.1%)よりも高率である。

ちなみにMERSの死亡率は4%、SARSは10%であった。

・COVID-19は長い期間、無症状である。潜伏期(5-7日間)の間に広範に感染者が広がっている。また、症状が無くなってもウィルスの感染状態は持続する(さらに7-14日間)。

181例の解析では潜伏期間の中央値は5.1日間。しかし、97.5%までの患者を含めると11.5日となった。最大、この期間内の行動が感染リスクを高める。

・実験では、SARS-CoV-2はエアゾルでは数時間、表面付着では数日間、ウィルスが残存していた。このことから、無症状者の拡散があると考えられ、特に医療関係者の安全性を考える際に重要である。感染初期の治療および、対極にある終末期治療にあたる医療関係者が危険に曝される。このため、早期の正確な診断が特に大切である。中国では早期の診断が確立されない段階では人から人への感染予防が困難であった。また、感染初期のデータは不足している。

・治療は早期に呼吸器専門医の介入が有効であった。

・ウェブを利用した感染拡大の予防を進めている研究がある(Baiら)。診断は簡単な数個の質問で行い、感染の疑い濃厚者の居住地を点で示すマッピングを作成することにより注意を喚起することや感染者がそれぞれ守るべき事項を教えること、さらに医療補助的な手段を具体的に教えることなどが組み込まれている。

・シンガポールからの見解

種々のテストを組み合わせることにより診断する方法が取られた。接触者を追跡調査すること、患者は陰圧になった病室に隔離し、他方、接触者には社会的広報を徹底した。

・医療従事者へのアドバイスとして、呼吸不全により死亡率が高くなり、その原因は治療困難なARDSであるが、直接的な死亡原因は、致死性の不整脈と腎機能障害が多かった。腎機能障害は第2週目に起こることが多いが、通常のARDSにみられるような多臓器障害はあまり多くなかった。

・死亡者の特徴は、高齢者、高血圧や糖尿病の治療中、低体温が多く、死亡者で血液のIL-6値がわずかに高値であった。治療では、中国の治験でメチルプレドニゾロンの投与で死亡率が低下してことが判明している。

イタリアからの見解

・北イタリアでは2,000人以上が死亡したが、平均年齢は79.5歳(74.3-85.9歳)で女性高齢者が男性よりも多かった。生存者の平均年齢は63.0歳。平均2.7個の合併症があった。心血管病変が最多。その多くに、COPDなどの慢性呼吸器疾患があった。合併症がない場合の死亡率は1%以下であった。

医療者感染のリスク

・イタリアでは、全ての呼吸器内科医、集中治療室勤務医のネットワーク化が行われ、できるだけの患者が収容できるように配慮された。その場合、医師が極めて多忙となり、バーンアウトとなることがあった。医師の健康、QOLの配慮が極めて重要である。医師のハイリスクとは、人工呼吸器の操作であり、気管内挿管などの治療をウィルスがエアゾル化した環境下で行うことが危険である。医療材料の不足があり、イタリアでは2000人以上の医療者の感染があり、その平均年齢は49.0歳であった。全患者数の14%を占めており極めて高値となったことが問題である。他方、中国では、医療者の患者は3.8%であり、うち14.8%が重症となった。

米国では医療者のN95マスクが不足している。人工呼吸器では陽圧呼吸法や高流量の酸素投与の環境では、病室内にウィルスがエアゾル化する危険が高い。治療は陰圧室で行うべきである。重症化して初めて人工呼吸器を装着するより、むしろ早目に気管内挿管を行う方が医療者への感染は少なくできる。以上より陰圧室での治療が理想的である。

COVID-19対策で優先すべき内容: 呼吸器専門医からの提言

・ウィルス反応が陽性で現在、無症状の患者を判別し拡散を防止する対策を講じなければならない。

・個体側(宿主)とウィルス側の強度のバランスに関わる因子の解明を進めなければならない。これにより発症のしやすさ、宿主側の抵抗力の強さを明らかにでき、発症しやすい人、重症化しやすい人を判別できる可能性がある。

・ウィルス感染の潜伏期間、および適切な隔離期間を明らかにしなければならない。

・リスクの高い患者を判別し、効果的な拡散予防策を講じなければならない。

・現在、他の疾患で服薬している薬物がウィルス感染にかかりやすくしている可能性を検討しなければならない。すなわち、薬剤がウィルスの感染を促進している疑いがある。その候補薬としてアスピリン、NSAIDs薬、降圧剤の一部(レニン・アンギオテンシン系の薬物)が挙げられる。

・ウィルス感染拡大を遅くし、防ぐ方法を確立しなければならない。

・拡散防止に向けて危ない集団の免疫能を高める方法を検討する必要がある。

・感染した後の予後を予測するバイオマーカーや臨床的な判断を行う方法を確立し、治療の効率性を高める必要がある。

・効果的な抗ウィルス薬の治験を進めること。候補となるのは、血清療法、免疫グロブリン、抗ウィルス薬、IL-6 阻害薬、その他がある。

・ウィルス感染に伴い発症する細菌性肺炎に効果的な抗菌薬を明らかにすることが必要である。

・抗炎症効果があるステロイド投与が効果的であるか、むしろ有害かを明確にする必要がある。また、その他の投薬の効果的な時期を明確にする必要がある。

・患者および医療者の心因的なストレスをできるだけ少なくすることが必要である。

・効果的な患者の管理方法を明らかにする。遠隔医療などはその例である。

・医療者にリスクが少ない非侵襲性人工呼吸の使い方を明らかにする必要がある。

この論文は、現在、COVID-19の治療に取り組む、呼吸器内科医、集中治療室で働く医療者に向けたアドバイスとなっています。引用文献は16編、いずれもごく最近、発表されたものをもとに、執筆者たちの現場経験がもとになっています。

人工呼吸器を現場に投入するだけでは解決しないことは明らかです。陰圧室の準備を短期間に行うことは難しく、また、人工呼吸器以外の医療材料の不足が専門医たちを危険な環境に置いています。病棟や集中治療室の機器管理には熟練した医師、看護師、臨床工学士などがチームを組んで毎日の治療にあたっています。すでに出来上がっているチーム医療の中に慣れないメンバーが急に加わった場合、必ずしも円滑に進まない事態が起る可能性があります。不慣れなメンバーが全体の感染リスクを高める危険性もあります。

そのように考えると、これ以上の感染患者を増やさないという方策が最も重要であり、その判断こそ、急がれるべきです。




参考文献

1.Niederman MS. et al. Rising to the challenge of the novel SARS-coronavirus-2 (SARS-CoV-2): Advice for pulmonary and critical care and an agenda for research. Am J Respir Crit Care Med, 2020, in press.


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