top of page

No.51 多数の新型コロナウィルス感染症を診た医師たちの報告


2020年4月20日

 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、PCR検査で初めて診断が確定します。しかし、パンデミックに近い混乱の中では、確認の作業には時間がかかります。限られた数の検査しかできない状況では、必要な早期の治療開始が遅れてしまう危険性があります。また、発症しているのにPCR検査が陰性であるという場合も知られています。

 ここで紹介する論文は、ハーバード大学に属し、ホームドクターに近い立場で働く二人の医師たちの報告です。彼らは2020年3月、米国がまだパンデミックになる前から最前線で働きはじめました。COVID-19の臨床論文は、現在までのところ、中国から発表された論文が中心です。情報が極めて限られた状況の中で軽症、中等症のCOVID-19患者を千人以上、診てきた臨床医の提言はとても参考になります。



Q. 現場の問題点?


・PCR検査の結果が出るまでは、4,5日かかる。この時間の遅れは初期治療の開始が遅れることを意味する。通常、外来で実施されるような血液検査は、あまり診断の参考とはならなかった。


・現場で役立った情報は、発症までの詳しい経過、病歴と診察したときの身体所見であった。これを参考にして類似する疾患との鑑別を進めた。


・COVID-19の診察を開始した初期のころは、インフルエンザ、上気道感染、肺炎、胃腸炎との鑑別が難しいと感じていたが次第に見分けがつくようになってきた。


・無症状のCOVID-19の判断が難しい。



Q. 武漢からの報告との差異?


・武漢から191例のCOVID-19確定例の症状が報告されている。感染後、数日以内の症状は発熱(94%)、咳(79%)であったがこのデータは入院治療が必要となった重症例の解析であったこと、さらに中国では発熱に加えて、咳、息切れなど呼吸器症状が1つ以上ある症例をCOVID-19疑いとし、下痢、嘔吐など消化器症状を伴う症例は除外していた。これらの中にCOVID-19が含まれていた可能性がある。



Q. 軽症COVID-19の症状?


 著者たちが診た患者の症状は以下の通りであった。


・軽症では鼻閉、咳だけで発熱なしがあったこと、咽頭痛、下痢、腹痛、頭痛、筋肉痛、背部痛、倦怠感でPCR検査が陽性となった症例があった。嗅覚異常は初期の数日間に特徴的な症状の一つ。これらの中で経過を診るうちに重症化した症例があった。

・軽症例の多くは2-3週間後には改善したが、他方で悪化例もかなり多かった。



Q. 悪化していく症例の特徴?


・発症後、4-8日目に呼吸困難を起こす。中には初期症状から10日以上経て、呼吸困難が悪化してくる症例があった。

・呼吸困難は、進行しない症例もあるが、他方で進行することがあり重要な観察ポイントである。


➡ 以上より、軽症のため自宅で隔離する場合で少しでも息切れがある患者では数日間は、テレビによる遠隔診療や、往診や訪問看護を勧めている。



Q. 悪化していく症例をどのように把握するか?


・有益なのは、指先で測定する酸素飽和度の変化である。安静時ではなく、軽く歩行させるなど負荷をかけた時に急に低下する場合は、一見、元気そうに見えても重症化する可能性が高い。


・高齢者、糖尿病、慢性呼吸器疾患、心血管疾患、肥満、高血圧の治療中では悪化しやすい。米国では中央アメリカ諸国より移民し、スラムのような環境で暮している人が特に悪化しやすい。



Q. COVID-19と似ている疾患は何か?


レジオネラ肺炎

初期に発熱あり、倦怠感を伴う。その後、間もなく咳症状あり。呼吸困難は重症例以外にはなし。


ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jiroveci感染)

息切れは数週間単位で持続。軽い労作で酸素飽和度が低下する場合にはCOVID-19の可能性が高い。COVID-19の息切れは数日単位で悪化する。


ウィルス性肺炎

初期の咳、倦怠感、発熱はCOVID-19と同じ。COVID-19の咳は、痰が出なくて息切れが強い。


インフルエンザ

合併症がないインフルエンザでは発症後、4-8日で息切れが出ることはない。インフルエンザに罹患した際に発症するウィルス性肺炎は稀であり、感染後、2,3日後に急に悪化する。COVID-19は、息切れが悪化すると終末期に近くなる。


・溶連菌による咽頭炎、ウィルス性副鼻腔炎、急性心外膜炎は臨床像でCOVID-19と似ている点がある。しかし、これらは感染初期から息切れを認めるCOVID-19とは異なる。



Q. COVID-19の息切れが起こす問題点?


・息切れは患者の不安感を強めるがCOVID-19では感染初期から息切れを認めることが多く、この症状は患者の不安感を強める原因となる。進行すると安静時、睡眠時にも息切れが強まる。息切れに加え酸素欠乏があるかどうかを酸素飽和度で確認することが大切である。


・息切れを起こすCOPD (慢性閉塞性肺新患;肺気腫、慢性気管支炎)および心不全の増悪状態に診られる息切れは類似していることが多いので治療法を決定するという点から厳密に判断しなければならない。



Q. COVID-19に見られるその他の症状?


・めまいが強い。

・胃腸症状を伴うことがある。



Q. COVID-19の経過で大切な点?


・息切れを少しでも認める場合には72時間は、呼吸困難が急に悪化してくることがないかを注意深く、観察する必要がある。




 COVID-19の問題点は、急激に悪化することがあり、少しでも息切れがある場合には厳重な監視下に置くべきであり、息切れの悪化は軽い歩行など負荷がかかると悪化するか、またその場合に酸素欠乏が悪化するようなことがないかを酸素飽和度を測定することが大切であると提言しています。

PCR検査が、必ずしも十分にできないこと、また、結果がでるまでに4,5日間の時間を要することは、わが国の現在の状況と似ています。

 この論文では、著者たちの豊富な経験にもとづき、訴えを丁寧に聞く、身体の変化を細かく観察していくという臨床医療の原点を改めて重要視しています。



参考文献:

1.Cohen PA. et al.The early natural history of SARS-CoV-2 Infection: Clinical observations from an urban, ambulatory COVID-19 Clinic

Mayo Clinic Proceedings, April 13, 2020 (in press)


※無断転載禁止


閲覧数:16,158回

最新記事

すべて表示

No.285 新型コロナウィルス感染症後にみられる間質性肺炎とは?

2023年10月3日 新型コロナウィルスによる肺の感染症で入院治療が必要となる重症呼吸窮迫症候群(ARDS)となった患者数は全世界で約6億人と言われています。 重症のウィルス感染がきっかけで間質性肺炎を起こすことは、HIV、サイトメガロウィルス、Epstein-Barrウィ...

Comments


bottom of page