No.76 パルスオキシメーターの有用性と注意点


2020年6月18日

パルスオキシメーターの発明は、青柳卓雄先生によるものです。救急救命や在宅医療などで広く使われており、その恩恵は図り知れないものがあります(コラムNo.68参照)。

パルスオキシメーターは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による重篤な肺障害で生ずる低酸素血症を早期に発見するツールとして、注目されています。

ここで紹介する論文は[1]、医療者以外が使用する場合の注意点について指摘している点で参考になります。



Q.症状がない低酸素血症の怖さ?


・COVID-19では、ウィルス感染後に肺病変が急に進行し、呼吸困難を訴えることなしに急速に血中の低酸素状態が進行することがある ➡ 低酸素の結果、全身の臓器機能が急に低下 ➡ 急性の心停止など、の経過を短時間に起こす。

これはSilent hypoxemia (症状がない低酸素血症)として注目されている。




Q.何を測定する機器か?


・動脈血では、酸素はヘモグロビンに結合した状態で運ばれている。各臓器に達したところで離れ、その酸素が臓器で使われる。

・ヘモグロビンの何%が酸素に結合しているかは酸素飽和度(SaO2)と呼ばれる。

 他方、動脈血の中の酸素は分圧(PaO2)で表現される。

・酸素飽和度と酸素分圧は、直線的な比例関係ではなく緩やかなS字曲線を呈する。

出典 Luks AM. et al. Pulse oximetry for monitoring patients with COVID-19 at home: Potential pitfalls and practical guidance

ANNALS ATS Articles in press. Published June 10, 2020 as 10.1513/AnnalsATS.202005-418FRを改変


・この関係があることにより動脈血の中の酸素分圧が低くなった酸素不足の状態ではヘモグロビンと結合した酸素は離れやすくなり、生体を守ることになり臓器にとっては有利である。


・図の薄い灰色の部分は動脈血の酸素分圧が低下しても酸素飽和度の低下はわずかである。

 濃い灰色の部分では酸素分圧はわずかに低下しても酸素飽和度は大きく低下することを示す。Aは海面レベルで暮す健康人。Bは、海抜1,600m付近で暮す健康人の酸素飽和度の値を示す。




Q.なにが問題となってきているか?


・ポケット・パルスオキシメーターやスマートフォンによる機器が販売されているが正確さに問題がある。特に酸素飽和度(SpO2)が90%を切る低下での誤差が問題。

 ➡ 著者たちのテストでは、数種類で-5%~+7%の範囲での測定誤差があった。データの再現性も一致しないことが多い。

 ➡ 信頼度の高い機種を選ぶことが大切である。




Q.測定中の注意は?


・室内で安静にした状態を数分間、保った状態で測定すること。

・人差し指、中指で測定する。

・脈拍で測定値が変化する場合には最も強い脈拍のときを読み取る。

・30-60秒間で最も多い数値を測定値とする。

・1日に2-3回、測定して記録を残しておく。

・測定する指のマニキュアは落しておく。

・測定する前に指先を温めておく。



Q.問題となるのは?


・測定中に指先を振ると安定度が低下する。

・航空機の中など高地では不安定となりやすい。

・測定中に話す、笑う、息止め、により測定値が変わる。

・酸素飽和度が75%以下の値には誤差が多い。75-80%では±1-2%、70%以下は信頼できない ➡ COVID-19で急に低酸素血症が起こる場合には多くは70-80%に低下する。

・異常ヘモグロビン血症の場合には不正確となる ➡ 重喫煙者では一酸化炭素と結合しているヘモグロビンが多くなることがある(=カルボキシヘモグロビンと呼ばれる)。



参考文献:


1. Luks AM. et al. Pulse oximetry for monitoring patients with COVID-19 at home: Potential pitfalls and practical guidance

ANNALS ATS Articles in press. Published June 10, 2020 as 10.1513/AnnalsATS.202005-418FR


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