2020年6月22日
COPD (慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)と睡眠時無呼吸症候群(OSA)はそれぞれ、40歳以上では人口の約10%に相当すると云われています。COPDとOSAの両者が合併した状態は、重複症候群(Overlap syndrome)と呼ばれており心筋梗塞や脳卒中を起こす頻度が高いことが知られており、治療では特別の注意が必要です。
ここで紹介する論文は[1]、1994年より2010年までの6年間にカナダで実施された大規模調査の報告です。
OSAとは、一晩(7時間)の睡眠中に30回以上の無呼吸(10秒以上の呼吸気流の停止)があり、そのいくつかはnon-REM期にも出現するものと、定義されています。1時間あたりでは、無呼吸回数が5回以上(AI≧5)を指します。
なお、睡眠1時間あたりの「無呼吸」と「低呼吸」の合計回数をAHI(Apnea Hypopnea Index)=無呼吸低呼吸指数と呼び、この指数によって重症度を分類します。
低呼吸とは、換気の明らかな低下に加え、動脈血酸素飽和度(SpO2)が3~4%以上低下した状態、あるいは覚醒を伴う状態を指します。
Q. 研究のアウトラインは?
・カナダ、トロント、計10,149例の調査研究。
・COPDの診断が肺機能検査で確定している人。
・OSAがありAHIが30以上。SpO2は、90%以下が一晩で10分間以上、続く場合でCPAP治療を受けている人を対象。
・以下の4群に分類:
A群:AHI>30でCOPDの診断あり
B群:AHI>30でCOPDなし
C群:AHI<30でCOPDあり
D群:AHI<30でCOPDなし(基準となる健康者)
・6年間に心筋梗塞、脳卒中、心不全で治療をうけたか、心臓カテーテルによる治療をおこなったか、あるいは死亡したか、を調査。
・全体の30%の人はAHI>30、25%はSpO2<90%が10分以上持続。12%は、COPDと診断されていた。
・全体の16.4%が、6年間の観察期間中に問題を起こしていた。
・A群 ➡ ハザード比=1.91のリスク増加あり。
・しかし、C群ではリスク増加なし。
・女性だけを調べるとCOPDとOSAには相加効果があったが男性では見られず。
COPDは、肺にみられる傷害であり、他方、OSAは上気道が睡眠中に閉塞するという病気です。この研究では両者が合併すると、心血管病変が2倍近く発症することが判明しました。
注目すべきは、各群の年齢差です。A群は平均75.9歳、B群は76.4歳、C群は52.7歳、に対し、D群は56.3歳です。加齢とともに合併が多くなり、しかもリスクが上昇しています。
COPDの大多数は喫煙歴がある人ですが、長期間の喫煙により上気道が炎症により浮腫状態となり、これがOSAを悪化させる理由の一つです。
COPDとOSAは両方とも、心臓や脳の血管病変を起こしやすいという共通点があります。その理由は、酸化ストレス、全身性の炎症、血管内皮細胞の傷害、動脈硬化の促進です。COPDは昼間に階段を上るときが苦しいというのが主な症状ですが、この論文によれば実は夜間、睡眠中の低酸素があると心血管病変を起こしやすいことが判明しました。治療は昼間だけの問題ではなく、夜間睡眠中に起こっている問題にも目を向ける必要があります。
また、CPAP治療が適切に実施されているかどうかは調査してありませんが継続して適切に使用されているかどうかも問題です。
ここに紹介した研究では、OSAをAHI>30として対象を重症者に絞りこんだ点に注目すべきです。COPDで軽症のOSAを合併する人は極めて多いからです。軽症者では晩酌も危険になります(参考、コラムNo.45)。
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