2020年6月30日
梅雨のころにはカビが生えやすくなり、カビを吸うことにより急性、慢性の呼吸器の病気を起こすことがあります。
米国では、ハリケーン、竜巻、水害など大災害のあと、絨毯や家具の表面にカビが生え、それを吸い込むような喘息やアレルギー性の呼吸器疾患や、慢性の呼吸器疾患の発症が多く、社会問題化しています。その予防のため情報提供のシステムがあります[1]。対策のたて方も注意点も複雑だからです。
ここでは米国胸部学会が一般市民のための情報をまとめたもの[2]を紹介します。
Q. 災害後の感染問題は何か?
カビ、および通常の環境では家の中では見られない細菌などが増殖し、病気を起こすことがある。
Q. 家の中のカビをどのように見つけるか?
・カビは目で見える、臭いがすることで気づくことが多い。
・水害の後では壁、天井にカビが生えていることがある。
・泥臭い、古い家屋のような臭い、悪臭がないか。
・注意点は、カビは必ずしも見えるとは限らない。そのような場合でも健康を害することがある。
注:米国では公的な資格をもった産業衛生技師をネットで公表されており、そこに相談することを奨めている。これはカビ対策には専門知識が必要であることを意味する。
Q. 周囲に適切なアドバイスをしてくれる人がいないときにはどうするか?
災害直後の状態の中に帰宅せざるを得ないときには以下の点の注意を勧めている。
・水没家屋に入るときには、電源、ガスが切れていることを確認すること。
・泥水で室内が汚染された状態の家屋に入るとき、汚染物質による感染の危険がある。
➡ N95マスク、手袋、ゴーグルの着用が望ましい。
・多孔質のカーペットや壁紙、凹凸がある家具の表面が著しく汚染されていると消毒、洗浄が難しい。
・固い表面のものは水や洗剤できれいにする。このとき、漂白剤が入ったものは吸うことにより呼吸器を刺激することがあるので、注意書きを良く読むこと。
・鉛やアスベストを含む場合には取り扱いに注意。
・妊婦、乳幼児、高齢者では免疫能が低下しているので感染にかかりやすい、また、強い刺激物に弱く、炎症性の合併症を起こすので注意する。
Q. なぜ、喘息や、その他の呼吸器疾患を持つ人はカビが危険なのか?
・喘息、およびその他の慢性呼吸器疾患では一般的にカビに対して気道過敏がある。
・癌の化学療法を行っている人や臓器移植を行った人たちでは免疫能が低下しており真菌(カビ)感染を起こしやすいことが知られている。
・慢性呼吸器疾患や職場環境で喘息になったような人では、肺に真菌感染を起こしやすくなるので建物内でカビを吸入する危険を避けなければならない。
Q. カビに過敏な症状にはどのようなものがあるか?
・汚染された部屋に入った後、鼻づまり、目の痒み、皮膚のピリピリ感がでる。
・呼吸器症状では、息切れの悪化、喘鳴、咳が強くなるなどの症状が出る。
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)では、肺内に真菌感染が起こりやすくなる。
Q. どのようにしてカビを防ぐか?
・室内の湿度を下げることが最も重要。
・窓、ドアを広く開け、外気を入れる。
・ファン、エアコン、除湿器を活用する。
・家具などの表面は乾拭きではなく水分を含む布で丁寧に拭く。
・洗うことのできないものはなるべく捨てる。例:マットレス、カーペット、本、おもちゃ、枕、壁掛け、紙製品など。
・汚染水が付着したものは捨てる。断熱材、衝立など、汚染水に触れたものは捨てるか、移動させて綺麗にする。
・コンクリート表面、金属製や木製の家具の表面は温水、食器洗剤などで丁寧に汚れを完全に落とす。
Q. 洗浄作業を行っているときの身の守り方?
・N95マスクか、同種の厳密なマスクを使い、長靴、ゴム手袋、ゴーグルを使用する。
・洗浄作業の終了後は自分の手指を石鹸、温水で十分に洗う。
・慢性呼吸器疾患や免疫能が低下した状態では、肺に真菌感染を起こす危険がある。
・洗剤を混ぜて使用しないこと。有毒ガス発生の危険がある。また、洗剤は使用前に注意書きを丁寧に読むこと。
・洗浄作業の後、体調不良となった場合には医療機関を受診すること。
災害のあとに身の周りに生えるカビは、種類を問わず一般的に呼吸器にとって危険という視点で注意点が書かれています。
その要点は、1)肺真菌症としてカビが慢性呼吸器疾患に合併する危険性、2)災害後の後片付け作業中にカビを含め、アスベスト、鉛などこれまでは厳重に管理されていた物質がむき出しになり呼吸器に悪影響を及ぼすこと、3)カビを吸い込むことにより肺に生ずるアレルギー性病変がある、ことです。
私たちも、大災害の時、慢性呼吸器疾患を持つ患者さんはどのような注意をすべきか、についてマニュアルを出版しています[3]。参考にして下さい。
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