2020年8月4日
正常な状態では、息を吐きだすときには声帯は開き、逆に吸うときには閉じます。声帯の開閉がうまく働かず、息を吐きだそうするのに声帯が閉鎖していれば、急に呼吸が苦しくなります。これが声帯の機能不全と呼ばれる状態です。
声帯の開閉とは別に、喉頭の一部だけが急に狭くなることがありますが、これでも急に呼吸が苦しくなります。前者は英語名の略語ではVCD, 後者はILOと呼ばれます。
さらに、これらとは別に喉頭咽頭逆流は、胃内容物(酸とペプシンなどの酵素)が喉頭へと逆行性に動き、喉頭/下咽頭に関連する症状を引き起こす状態を指します。これは、LPRと呼ばれます。VCD, ILO, LPRは、いずれも狭くなったり、逆流を起こしている状態が確定すれば診断できますが、起こしていないときは粘膜の表面が炎症で紅くなっている、浮腫状になっている程度の病変で区別が難しいという理由があります。
さらに、咽頭の上部は耳鼻科医が専門で、喉頭鏡などで直接、観察でき、異常を指摘できる強みがありますが、声帯より下の肺は呼吸器内科医の守備範囲であり、さらに胃液が逆流する場合には消化器内科医が相談に乗ります。境界部分の病変はつねにアプローチしにくいという問題があります。
ところが日常の診療では、これらが少しずつ重なりあい、しかも、時々、複雑に悪化することが多いので診断も治療も難航することが少なくありません。
Q. 喉頭咽頭逆流の症状は何か?
・発声しにくい、しわがれ声、軽度の嚥下障害、慢性の咳、痰がきれにくい、などの症状があります。
・逆流するのは多くは酸度の強い胃液です。
Q. 声帯機能不全の症状は何か?
・喘鳴、急に起こる強い呼吸困難
・呼吸時に喘鳴または口笛を吹く音
・喉の圧迫感
・喉が詰まっている感じ
・話しにくい
・咳
・声がかすれる(嗄声)
・胸部の圧迫感
Q. 声帯機能不全はどのようにして起こるか?
・息を吸ったり吐いたりすると、声帯がカーテンのように開いて肺に空気を送り込む。声帯機能不全では、声帯が閉じたままになったり、少しだけ開いたりすることがある。
これは、運動中あるいは何かが喉を刺激した後に起こる。声帯が急に閉じるので高度の呼吸困難が起こる。
Q. 声帯機能不全の原因は何か?
・声帯機能不全よる症状は、原因があり、それによって引き起こされるので「誘導される」という。
・引き起こす可能性のあるもの原因は「トリガー」と呼ばれる。明確なトリガーがない場合でも起こることがある。
・非常に強い運動中に起こることがある。「運動誘発性喉頭閉塞」と呼ばれることがある。運動誘発性の喘息とは異なる。通常は運動中止により改善する。
・刺激性のガスや化学物質の吸入。
・胃液の逆流。
・後⿐漏:⿐の粘液が喉の奥に沿って垂れるときに起こることがある。
・ストレスや強い不安感。
・集中治療室で人工呼吸器をつないでいる挿管チューブを抜管するとき。
・喫煙が原因となる。
Q. 声帯機能不全はどのような検査を行うか?
・喘息と区別するため肺機能検査を実施する。
症状が持続している場合にフロー・ボリューム曲線の形から推定できることがある。
・喉頭鏡検査を実施する(耳鼻科専門医へ依頼する)。
・胃液逆流症状が強い場合には食道内視鏡を行う(消化器内科医へ依頼する)。
Q. 声帯機能不全の治療はどうするか?
・しばしば、喘息が合併していることがあるので吸入薬などの治療を開始する。
・浅く、速い呼吸をくり返し行うことで治まることがある。
・胃液が逆流して起こる場合などでは薬物投与を開始する。
・急に起こり呼吸困難が強い場合には酸素吸入を行い、心筋梗塞など心血管疾患との鑑別を急ぐ。
・後鼻漏が強い場合、鼻アレルギー症状が強い場合には薬による効果を見る。
・自宅で反復して起こす場合には、酸素療法を開始することにより改善することがある。
・くり返し起こる場合には、カウンセリングや、言語療法士の指導で改善することがある。
VCD, ILO, LPRでは症状、原因が共通することが多く、さらに多くは喘息を合併しています。
私たちの日常の診療では、診ることが多く、関連する耳鼻科医、消化器内科医と協力しながら診療を進めています。
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