No.93 高二酸化炭素が肺組織の損傷の治癒を遅らせる


2020年8月12日

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)の経過中に自然気胸を起こすことがあります。

多くは、肺気腫により肺組織が広い範囲で壊れており、さらに肺全体を風呂敷で被っているように包み込んでいる胸膜に局所的な炎症によりピンで突いたような穴があくことによるものです。時には、この穴が大きく、自然治癒が起らず、内科的治療が限界で手術を要することがあります。

 しかし、すでに重症のCOPDでは手術のリスクが高い上に、手術後に肺の傷口がいつまでも治ってくれない瘻孔と呼ばれる穴が閉じない状態が続くことがあります。手術自体のリスクが高い上、術後の経過が難航しそうなときには、自然気胸を起こした時点でそれ以上の治療は、かえって患者さんを苦しめるという理由で諦めざるを得ないことがあります。

 重症の肺気腫がある場合には、肺の一部を切除するような手術では、約50%に瘻孔が起るというデータがあります。重症の肺気腫の経過中に肺がんの発生が起る頻度が高いことが知られていますがこの場合も約50%で瘻孔を起こす危険があると報告されています。

 瘻孔が起こりやすい理由は、肺機能が低下し、栄養状態も低下している、恐らくそのような背景があれば肺の切除で瘻孔を作りやすいのだろう、と考えられてきました。

 ここで紹介する論文は、手術したあと、傷口が完全に閉じずに漏れ出てくる空気の二酸化炭素濃度が高い場合には瘻孔が起こりやすいこと、これにはCXCL12が関係していることを動物実験で証明したものです。





Q.著者らの実験は?


・CXCL12 という物質が鍵となっている先行実験からこの物質を組み込んだtransgenic (CXCL12-Tg) miceを使った。

・別のマウスから得た気管を(CXCL12-Tg) miceに移植し、二酸化炭素濃度による影響をみた。

・ヒトの肺がん術後から得た胸水中のCXCL12測定。

・細胞を用いた実験でCXCL12と二酸化炭素濃度の関係を検討。




Q.結論は?


・二酸化炭素の濃度を高くして細胞培養を行うと細胞増殖が遅れる。

・二酸化炭素の濃度を高くして細胞培養を行うとCXCL12の低下が起こりにくい。

・二酸化炭素の濃度を高くして気管移植を行うと治りにくい。これにCXCL12が関係していた。

CXCL12を抑える物質(抗体)が、瘻孔が閉じにくい場合の治療目的に使用できる新しい薬剤となる可能性があります。




 さらに、現在、肺の傷害により重症の呼吸不全の治療を行う目的で人工呼吸器を装着する場合には、二酸化炭素の濃度を高めにしたまま、あまり低下させない設定の方が肺組織を傷害することが少ないと云う先行した研究があり、それに従った治療が行われています。“permissive hypercapnia”と呼ばれるこの方法が、むしろ肺の傷害を遅らせる可能性があるのではないか、と短くコメントしています。

 今回の実験は、これを直接、証明したものではありませんが、これまでの考え方に一石を投ずる役割をしたことは確実で、今後の更なる研究が待たれます。



参考文献:

1.Bharat A. et al.High CO2 levels impair lung wound healing

Am J Respir Cell Mol Biol Vol 63, Iss 2, pp 244–254, Aug 2020

Originally Published in Press as DOI: 10.1165/rcmb.2019-0354OC on April 10, 2020

※無断転載禁止

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