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No.95 COPD(慢性閉塞性肺疾患)治療の問題点

  • 執筆者の写真: 木田 厚瑞 医師
    木田 厚瑞 医師
  • 2020年8月12日
  • 読了時間: 4分

更新日:2023年3月22日


2020年8月12日

 COPD(慢性閉塞性肺疾患;肺気腫、慢性気管支炎)は、成人の約10%に達するといわれるほど頻度の多い慢性疾患です。しかも、高齢化社会で患者数は増加する一方です。COPDが悪化してくると、息切れだけでなく下肢の筋力低下が起こり、日常生活が不自由になるだけでなく、入退院を繰り返し、医療費も高額となります。

 従来は、禁煙が最初に取り組むべき治療とされ、それ以外の治療はあまり重要視されてきませんでした。

 最近、COPDの治療の全体を見直すべきであるという提言があり、これを裏付けるための新たな研究組織(ANTES)が立ち上がることになりました[1]。ここでは、彼らが指摘する、問題点を紹介します。




Q. 問題の背景は何か?


・最近の研究ではCOPDの約30%は非喫煙者であるというデータがある。

 ➡ これは肺の成長、発育段階で傷害を受けた結果、成人に至っても回復せず、結果的には肺機能が低下した状態が持続していることを意味する。


・肺機能が低下した状態が持続すれば心血管病変、骨粗しょう症などCOPDで見られる併存症の頻度が高くなる。




Q. 研究すべき問題点とは何か?


 以下の5項目が新たに検討されるべきだと提言している。

1. COPDの診断率を向上させる

・一般的にCOPDを持つ患者の75%以上は、実際には診断されていない。

・診断の決め手は肺機能検査(スパイロメトリー)である。これは、痛みを伴わず、安価で、簡単で、検査の再現性が高いという特徴がある。

・従来のスパイロメトリーに代わる検査法として、質問票とより簡便なマイクロ・スパイロメトリーの組み合わせ、あるいはピーク・フロー・メーターの代用がある。

・スマートフォンにより呼吸音を録音。これを送って専門医が判定するという方法が検討中である。

・実際には、吸入薬を使った前後のスパイロメトリーを比較することにより診断が確定するが煩雑であり、専門性の高い医療機関以外には実施しているところは少ない。そこで「肺機能検査センター」を設置するという案が検討されている。

2. 早期のCOPDのうちに行動させる

・「早期COPD」とは何か、という問題点を検討する必要がある。

・十代からの喫煙歴がある人、粉塵などを吸入する機会が多い労働者などハイリスクの患者の早期発見が必要である。

・具体的には、高校、大学、自動車運転教習所などでのスパイロメトリーの実施が考えられる。

3. 早期治療による楽観主義が問題

・若年患者の早期診断、早期治療、適切なアドバイスによりその後の経過を改善できる。

・経過に合わせて薬物治療の内容を徐々に改善していくことができる。

・コロナ禍の中で、早期にあるCOPD患者が、どのような経過をたどっているかのデータがない。

4. 増悪をなくする

・COPDの経過で、怖いのは一時的に悪化する増悪である。増悪により健康状態は急に悪化し、肺機能が低下、死亡率が上昇し、必要な医療費が増加する。

増悪は、通常、前年の回数と同じ回数が次年度にも起こるといわれており、その回数は平均2回である。

➡ 増悪回数0を目指す治療計画がなされなければならない。

・日常生活の注意では、完全禁煙、規則的な運動習慣、適切な食事摂取に加えワクチン接種である。

・治療薬は、近年、種類が多くなっている上、従来とは使い方が異なるものがある。

 カゼなど上気道感染後に、咳、息切れが強くなった場合には、気管支拡張薬の吸入のほか、吸入ステロイド薬の追加が効果的である。

・COPDの増悪が起こっているかどうかの判断は、診断の根拠となる血液のマーカーがないので医師の経験で判断している。増悪回数を0にすることが目標である。

5. 生存率を向上させる

・COPD治療の基本は、完全禁煙、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンの接種、適切な運動習慣、栄養改善であり、これを徹底させる必要がある。

・その他の治療では低酸素血症があれば積極的な酸素療法が必要であり、重症肺気腫で上肺野のみに認められる場合にはLVRS治療(肺容量減量手術)が奨められる。

・高血圧や心血管疾患など呼吸器疾患と並び循環器疾患がある場合にはCOPDの死亡リスクを高める可能性がある。



 最近、COPDの新しい治療薬が次々と上市され、治療の幅が広がってきました。著者らが繰り返し、強調している完全禁煙、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンの接種、適切な運動習慣、栄養の改善は、日常の治療では極めて大切ですが、必ずしも効果を挙げているとは言えません。新しい薬が、これまで以上の効果を示すようにするには、患者さんの一人ひとりの日常生活についてどのくらい踏み込んだアドバイスができるかにかかっています。私たちは日常診療の目標にしたいと思っています。



参考文献:

1.Agusti A. et al. Time for a change: anticipating the diagnosis and treatment of COPD. Eur Respir J 2020; 56: 2002104[https://doi.org/10.1183/13993003.02104-2020].


※無断転載禁止

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