• 木田 厚瑞 医師

No.96 苦しんでいる新型コロナウィルス感染症からの回復者


2020年8月18日

わが国でも新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に罹患した患者数は、日ごとに増加していますが、幸い軽症で済み社会復帰している人も増えてきています。

WHO(世界保健機構)は、すでに、2020年2月18日、「臨床的な改善の指標」を発表し、社会復帰に際しての注意を呼びかけています。

COVID-19で隔離あるいは入院していた患者さんの多くで症状が続き、あるいは職場復帰で新たな問題を抱えることになった人は多い、と推測されています。

ここでは、医師が医療現場でCOVID-19の治療にあたっている最中に感染、自宅療養を選択。2か月経過してもまだ体調が戻らず苦悩しているレポートを紹介し[1] 、回復過程にある人たちをどのように評価し、フォロアップするか、の試案を紹介します[2]。




Q.自分は医師として、患者としてどのような苦しみを経験したか?

COVID-19の多くの患者さんの中で治療にあたっていた一人の女性医師が、感染し、人工呼吸器を装着しなければならない一歩手前となったが、自宅で療養を続け、かろうじて回復した。恐らく40歳代であり、夫と息子との生活であった。

3月13日、旅行先から自宅のあるボストンに帰宅。空港で、自分が働いている病院に電話をしたところ、多数のCOVID-19が搬送され、混乱状態になっているという。直ちに、防護服の着脱や感染予防マスクの装着方法、病院の中で作成している感染症マニュアルで注意事項を確認の上、業務につく。

「病院はコロナウィルスの嵐の中心でした。ピーク時には、入院患者10人のうち7人がCOVID-19でした。私は初めて防護服を着用して、1日の終わりに全て着替え、家に入る前にスニーカーを脱いで、ゴミ箱に捨てました。私は社会的な接触は全くなしの状態となりました」。

連続勤務の、最後に2日を残すだけとなった朝、突然、原因不明の強い疲労を感じた。入院患者は、主治医の変更を頼み、仕事を終え、早目に帰宅。その翌朝、発熱、汗、頭痛、軽い咳で目が覚めた。COVID-19のPCR検査は陽性反応。その段階で朦朧(もうろう)としていたが帰宅。自分の寝室に閉じこもり家族と離れて生活。それから4週間は部屋に閉じこもりきりだった。

「重病感が極めて強くなり、びしょ濡れの汗、息切れ、吐き気、嘔吐、下痢、失禁がありました。私は精神的に混乱し、せん妄状態を経験しました。いつも使っている携帯電話の開け方を思い出せませんでした。幻覚でトカゲが壁を這い回っていたので、目を閉じていました。唇が剥がれ、口腔内は乾燥した綿をくわえているようで脱水症状が高度でした。

夫はベッドのそばにゲータレードのグラスを置き、定期的に解熱薬、タイレノールを持ってきました。丸5日間、食べませんでした。病棟で呼吸不全の患者で行っているように、できる限り腹臥位に保ちました。私の判断能力は損なわれ、この最悪の時期には、自宅にいるより入院した方が良かったと後悔もしました」。

「私にとって最も悲惨な症状は、皮膚、汗、息、尿から出るにおいでした。それは吐き気を伴う恐ろしいものでした、決して忘れることはできません。爬虫類の肉の腐敗を思い出させました」。

「最悪の段階では私はとても衰弱し、助けなしでは歩行もシャワーもできませんでした。1日18時間、寝ており、起きている間は頭が霧の中の状態でした。5㎏近く痩せました。一度はベッドから落ち、腰と頭を痛めました。一人でいることに恐怖を感じましたが、家族に感染することをさらに恐れていたので、可能な限り隔離を強制した生活をしました。

私は人工呼吸器を必要としなかったし、マサチューセッツで出た8,000人の死者の一人とはなりませんでした。しかし、私が15年以上にわたって診てきた患者の一人は残念ながら死亡。私とほぼ同年齢で深刻な危険因子もない普通の人です。私は寝室に持ち込んだコンピューターで病院スタッフからの連絡で彼女の入院中の概要を知りました。ICUでの40日間を超える悪夢を何度も繰返し、突然、心停止したということでした」。

「COVID-19では検疫、隔離、経過の不確実性によってメンタルヘルスは悪化する一方です。これは誇張ではありません。しかし、回復者が世界的にどのような影響を残しているかは、まだ不明です。私は恐怖、不安、無力感、絶望感、気分の落ち込みを感じました。医師としても罪悪感があります。どうして感染したのだろうか。マスキング、シールド、手袋、手洗い日常を繰り返し練習し、手落ちがないようにしてきたはずでした。しかし、誰かに感染させたのではないか、といつも思っています」。

「いつになれば、以前の健康状態を回復できるかは、わかりませんが、楽観的に考えるようにしています。仕事を含め、人生を考える力は鈍化しています。他の多くの人と同じように、私は、パンデミックの影響を深く受けましたが、地平線に目を向け、一人の人間として、また医療者としての道を進んでいきます」。

以下に紹介する論文は、多数の患者を経験したオランダの研究者グループが、追跡調査や支援するために工夫した指標です。回復患者の協力を得てテストした結果であり、

“Post-COVID-19 Functional Status (PCFS) scale“(PCFSスケール)と呼ばれています。わが国でも、支援体制は急がなければなりません。




Q.COVID-19から回復した人たちで問題となっていることは何か?


・軽症であっても回復後に身体の異常、認知力の低下、知的な活動の障害、社会的な活動を継続するのに支障をきたすような健康障害を来すことが多い。

・医学的には多様な臨床症状を示し、胸部CT、検査所見で多様な異常を呈する疾患であり、長期的な管理が必要となることがある。

➡ ゆっくりと回復する場合、後遺症を残して回復する場合があり、長期にわたる医療および社会支援が必要とされる場合がある。これに合わせてライフ・スタイルを変化させ、改善していくことが必要となる。




Q.PCFSスケールの内容とは?

Grade 0,1,2,3,4に分かれており、Grade 4が最重症である。

・Grade 0:

日常生活に制限がない。

・Grade 1

 後遺症の症状、痛み、不安や心配がない。

・Grade 2

 軽度の後遺症の症状、痛み、不安や心配が軽度ある。

・Grade 3

ある活動についての中等度の制限がある。活動を変えなければならない。

・Grade 4

 日常生活で重大な高度の制限がある。




Q.回復後の患者に問診する内容は?

「新型コロナウィルス感染症にかかって毎日の生活がどのように不自由となっていますか? 下記のGradeから相当するものを一つ選んでください」

Grade 0: 感染後、身体症状、痛み、欝症状や不安感など毎日の生活で制限はありません。

Grade 1: 感染後、身体症状、痛み、欝症状や不安感などが少しありますが毎日の生活で制限はありません。

Grade 2:  感染後、毎日の生活の中で、身体症状、痛み、欝症状や不安感などはなく、全ての活動は援助なしにできます。

Grade 3:  感染後、毎日の生活の中で、身体症状、痛み、欝症状や不安感などがありますが、全ての活動は援助なしにできます。

Grade 4:  感染後、毎日の生活の中で強い制限があります。自分自身のことが自分でできません。身体症状、痛み、欝症状や不安感などがあり、ケアの手助けが必要です。

Grade 5については記載がない。



先に紹介した自宅療養を選んだ医師は、軽症であっても大変な苦しみを経験しました。職場復帰についても不安を感じています。

COVID-19により回復し、病院から退院後は、在宅での生活となりますが、就業などこれまでの生活に復帰するには、リハビリテーションや、社会的なサポートが必要となる場合が少なくないことが報告されています。通常は退院後、4~8週目が一つの目安であり、半年目で再評価を行うことが推奨されています。COVID-19は、治癒してもなお身体的、精神的に深い傷跡を残す疾患と考えなければなりません。



参考文献:

1.Crsosby SS. et al. My COVID-19.Ann Int Med. August 11. 2020., online.

https://doi.org/10.7326/M20-5126

2.Klok FA et al. The Post-COVID-19 Functional Status scale: a tool to measure functional status over time after COVID-19

Eur Respir J 2020; 56: 2001494

[https://doi.org/10.1183/13993003.01494-2020].


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