top of page

No.124 新型コロナウィルス感染者の後遺症


2020年12月7日


 新型コロナウィルス感染者(COVID-19)は、早くから予想されたように晩秋に入って猛威をふるっています。感染者はわが国全体で、15万人を超え、死亡者は、2306人に達しています(令和2年12月4日、現在)。入院者は2万1,000人を超え、うち、重症者は505人。欧米と比較して死亡者が少ないのは、日本人の特性なのか、あるいは医療の体制による違いであるのかは不明ですが、他方で多くの回復者がいることも事実です。

 COVID-19からの回復者は全世界で約2,000万人に達したと推定されています。しかし、各国の臨床医からの報告では、回復後も重い症状は持続する場合や、後遺症で臓器機能が終末状態に近い患者があることも報告されています。




Q.集中治療室後遺症とは何か?


・これまでの記載ではpostacute症候群とは、重症で集中治療室に入院し、治療により回復した人を意味した。2016年の報告では43人、集中治療室に入院し、うち46%が人工呼吸器装着を必要とした。36人(84%)が退院後、6-12か月後でも認知機能異常、精神機能障害、あるいは身体的な機能異常を呈し、集中治療室後症候群(post-intensive care syndrome)と呼ばれた。




Q.COVID-19の後遺症とは何か?


・新型コロナウィルス感染症の後遺症は、新型コロナウィルス感染後遺症(post-acute COVID-19)の明確な定義は、定められていない。


・米国、英国、スウェーデンでは400万人以上の患者登録(COVID Symptom Study)を行ったが、最初の症状から3週間を越えて何らかの症状がある場合としている。


慢性COVID-19とは12週目を越えて症状がある場合。




Q.COVID-19後遺症が発生する頻度は?


・イタリアのデータでは、143人のCOVID-19感染者のうち、最初の症状発症から60日後で完全に症状が改善したわずか18人(12.6%)だけであった。

しかし、postacute COVID-19症候群は、重症で入院した患者では、認められなかった。


・米国CDCの電話アンケート調査で、PCR検査陽性者成人(18歳以上)を292人調査。

274人の有症状者では検査陽性から2週間経てもいつもの健康状態に戻らなかった(93.8%)。内訳は18-34歳(n=85)では26%。35-49歳(n=96)では32%、50歳以上(n=89)では47%に相当した。

50歳以上で3つ以上の慢性疾患がある場合には、検査陽性から14~21日経ても元の健康状態には戻らず。また、18~34歳の若い世代でも5人のうち1人は、慢性疾患がないのに陽性が判明してから16日目でも回復していなかった。




Q.どのような後遺症がみられたか?


・COVID-19後遺症で共通の症状は疲労感、息切れである。他は関節痛と胸痛。

臓器症状は心、肺、脳の各臓器に認められた。


・機序として、COVID-19を起こすウィルス(SARS-CoV-2)が細胞のACE2受容体に結合して細胞内に入り込み、増殖し、組織障害を起こす。多種の組織に強い炎症反応を起こし、サイトカインストームの状態を引き起こす。免疫系の障害を起こし、血液凝固能の亢進が見られる。




Q.COVID-19で起こる心血管系の後遺症は?


・SARS-CoV-2による感染で心筋炎が起る。また、不整脈が起こる。

COVID-19回復者の心臓のMRIを感染の診断確定から71日目で実施。78%で心筋の異常があり、60%で心筋炎が進行していた。このような慢性の併存症はCOVID-19の罹病期間や重症度には関係しなかった。また、このような合併症が見られるのは確定診断からの日数にも関係しなかった。


・大学在籍のアスリートたち26人(PCR陽性者)は誰も全員、入院治療受けず、症状もほとんどなしだったが12人(46%)は心筋炎か前心筋炎状態だった(診断後12~53日)。このような心筋炎の予後については不明であり、今後、長期的なフォロアップが必要である。


・COVID-19後の心不全が増えるのではないかと懸念。特に多重疾患の高齢者が問題であるが若年者や健康なアスリートでも後遺症が問題である。




Q.COVID-19で起こる肺の後遺症は?


・COVID-19罹患後の55人で退院後3か月後、35人(64%)は症状が持続。39人(71%)は胸部CTでは間質性肥厚および間質性肺炎が認められ、肺機能検査では異常所見を示した。


・退院3か月後、25%では肺拡散能(DLCO)が低下し、肺胞での酸素の取り込み、二酸化炭素の排出に異常がみられた。


・他の追跡調査研究で57人では退院後30日目でも肺機能異常が残った。30人(53%)ではDLCOが低下、28人(49%)で呼吸筋力の低下がみられた。

これらの結果は、もし心機能低下の持続があれば心肺機能を合わせた低下となり重症度が高まる。




Q.COVID-19で起こる神経系の後遺症は?


・SARS-CoV-2によるウィルス血症では脳組織に傷害を与える。嗅神経から直接的に脳に侵入する場合がある。COVID-19の後遺症で長く持続する神経症状は、頭痛、めまい、嗅覚異常、味覚障害などがある


・頻度は少ないが脳梗塞を起こすことがあり、脳炎、けいれん、気分の変動が激しいなどは初期症状の2,3か月後に見られる。

中東呼吸器症候群(MERS)やインフルエンザ感染後でも回復後、数か月後にも認知力低下、QOL,日常生活の機能状態の変動が見られることがあるのでウィルス感染症に共通した症状の可能性がある。




Q.COVID-19で起こる心因的な異常の後遺症は?


・COVID-19治癒後に長く心因変化、行動異常が持続することが注目されている。

COVID-19と診断され、その後の「密」な生活の禁止で孤立感、寂寥感が強くなる。

希望が無くなる、倦怠感や慢性疲労症候群、鬱症状、不安神経症、心的外傷後ストレス症候群(PTSD)や薬物依存が多くなる。




Q.COVID-19後遺症の問題点の総括は?


・COVID-19治癒後に長期間フォロアップしたデータは不足している。多数が長期にわたりトラブルを抱え続ける可能性ある。


・COVID-19後遺症は多重疾患を起こす可能性があり、多数の国民の障害となり、それも数万人単位となるのではないか。




 現在、COVID-19をめぐる問題点は、感染の予防、早期診断、的確な治療の開始に集中していますが、他方で急性症状が治まっても慢性症状が残っている可能性があります。本論文ではもっとも体力があるアスリートの大学生ですら後遺症を認める場合が少なくないことを報告しています。特に集中治療室後症候群としての後遺症については、どこを受診すれば良いのか、リハビリテーションや医療保険の問題など早急に解決すべき問題が多いと思われます。




参考文献:


1. Rio CD. et al. Ling-term health consequences of COVID-19. JAMA. 2020; 324 (17):1723-1724. doi:10.1001/jama.2020.19719


※無断転載禁止

閲覧数:10,464回

最新記事

すべて表示

No.285 新型コロナウィルス感染症後にみられる間質性肺炎とは?

2023年10月3日 新型コロナウィルスによる肺の感染症で入院治療が必要となる重症呼吸窮迫症候群(ARDS)となった患者数は全世界で約6億人と言われています。 重症のウィルス感染がきっかけで間質性肺炎を起こすことは、HIV、サイトメガロウィルス、Epstein-Barrウィルス感染症でも知られています。 新型コロナウィルス感染後に、脳の霧(brain fog)といわれる状態や、息切れ、胸痛、動悸な

bottom of page