• 木田 厚瑞 医師

No.128 睡眠時無呼吸症候群に多く見られる認知機能の障害

2020年1月6日


 睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、中高年に多い病気で、睡眠中の大きないびき、繰り返して起こる短い時間の呼吸停止、熟睡感が無く、眠ってはならない会議などで居眠りをくり返すなどの症状から受診する場合が多く見受けられます。


 他方でOSAは、認知機能の低下の原因と深く関わっていることが知られています。ここで紹介する論文は、OSAと診断されている人たち約1,000人の調査で軽度の認知機能の低下(mild cognitive impairment: MCI)と診断された人たちの比率が半数になるという報告です。約半数が軽度以上の認知機能の異常を伴っているという実態は重要です。


 現在、認知症の治療薬は、確実な効果を示すものは報告されていません。その意味では、認知症の一部にせよ、予防でき、治療できるというこの情報は重要です。




Q.OSAが起こす健康障害とは何か?


・OSAは睡眠中に上気道がくり返し狭くなり、呼吸が止まり、十分な空気が吸いこめなくなることが起る病気である。

・全世界で4億2500万人に達すると云われるほど頻度が高い疾患である。

・OSAは、高血圧、脳卒中、糖尿病、メタボリック症候群の発症と関係している。




Q.OSAと認知機能の関わりで判明していることは?


・OSAは、記憶障害、実行障害、注意力散漫、空間認知機能障害と関わっている。

OSAは、MCI(軽度の認知機能の低下)および認知症を起こす原因である。他方、認知症と診断されている人の27%にはOSAがある。


・全てのOSAがMCIになるのではないし、また、MCI の原因も不明である。


・OSAで認知機能の異常がどのようにして起こるかは不明であるが、夜間睡眠中の低酸素血症、睡眠が切れ切れになること、昼間には過剰に眠くなることなどが関係している。


・しかし、OSAで、これらの生理学的機序と認知機能障害の関係については不明である。たぶん、年齢、性別、OSAの重症度、認知機能の残存性、併存症が関係していると考えられるが詳しくは不明である。




Q.研究方法は?


・カナダの3つの大学の睡眠センター受診の患者で調査。成人のOSAと診断されている患者、1,084人。少なくとも研究参加までの6ヶ月間はOSAに対する治療なし。


認知評価テスト(MoCA)、聴覚言語学習による記憶テスト(RAVLT)、情報処理速度テスト(WAIS)、数字と記号のテスト(DSC)を実施した。


MoCAスコアが26点以下(0~30点)を認知機能異常とした。


・対象は、18-80歳、OSA疑い、あるいはOSAの診断が確定しており過去6ヶ月間は無治療の人。3,360人の申し込み者の中から計1,084人を選別。


・OSAの診断は通常実施されているPSG法か、あるいはこれと同等と評価される自宅でできる検査方法による。


・研究実施場所:カナダ、カルガリー大学、サスカチュワン大学、ブリテイシュコロンビア大学睡眠呼吸センター。


・睡眠中の酸素の低下を指標とした。

1時間に覚醒時の酸素飽和度(SpO2)よりも4%低下した回数をODI(oxygen desaturation index)とし、SpO2<90%の継続時間をT90とした。

・本研究でのOSAの重症度の区分:OSAなし、軽症ODI<5, 中等症5<=ODI<15、高度 15<ODI<30, 重症ODI>30/hr




Q.研究結果は?


・本研究でのOSAは、主に男性、中年、肥満、白人という特徴がある。平均ODIが15.6 回/hrで夜間には中等度の低酸素血症があった。


・46.1%は昼間の眠気。85.7%は睡眠障害を訴えた。46.6% は睡眠時間が短すぎるという。

不眠は79.1%, 22.2%はむずむず脚症状を訴えた。合併症として多いのが高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、現喫煙者。


・OSAの重症度が上がるに従い男性、肥満者、日中の眠気、睡眠時間の短縮、高血圧頻度増加、高コレステロール血症、糖尿病の頻度が高くなった。


・認知機能障害は、OSA患者全体の47.9%に相当した。中等度、重症のOSAでは、55.3%以上に相当する。




Q.OSAにおける認知症の特徴と頻度は?


・認知機能障害という点から見ると、中等度、重症のOSAが危険である。


・全体のMoCA値は25.3, OSAが無い場合には26.0より重症OSAでは24.8

全体ではMoCA<26は47.9%, MoCA<25は36.1%

OSAなしではMoCA<26 は37.2%であるが中等度、重症では55.3%以上

OSAなしではMoCA<25は26.6%であるが中等度、重症では42.1%以上


・MoCAが26以下と以上を比較すると以上では、大多数が男性で5歳以上高齢でより重症のOSAであり、夜間の低酸素血症が強く、より多くの併存症があった。


・言語能力は中等度は軽症よりも悪い。抽象的なことを考える能力は中等度、重症では低下。しかし、なし、軽症で差がなかった。


・手際のよい行動は、OSA全体でなしよりも低下。


・DSC遂行能力は、OSA重症度と共に低下。


・言葉の記憶テストでは、中等度、重症で低下。


・MoCA低下、DSC低下は高いODIと弱く相関、平均SpO2低下、T90高値と相関した。


・認知障害と定義するMoCA<26に相当する患者は、より重症のOSA, 低酸素血症の時間が長い場合、血管病変を伴う高齢男性が多かった。


・中等度、重症のOSAは、OSAがない健常人と比較すると、MCIが70%以上でありodd比が高値だった。MoCA, DSCスコアが低いほど、酸素飽和度低下指数、夜間低酸素血症が強かった。




Q.まとめ-何が判明したか?


・全患者の48%はMoCA<26であり、MCIに相当する。中等度、重症OSAでは55%以上となる。


・ MoCA<26は高齢男性で重症度の高いOSAで夜間の低酸素血症が強く、血管合併症がある場合に多い。


・中等度、重症OSAは、OSAが無い場合と比較してMCIを有する頻度のoddは70%以上、上昇する。


・できごとを思い出す記憶力や情報処理能力の速度はOSAでは同年齢者よりも低下する。またその速度も低下する。


・全MoCA、DSCスコアは、より重症のOSAと夜間低酸素血症に関係する。


・中国からの報告では、394人の睡眠センターの患者では、MoCA<26は34%であり、OSAなし、軽症、中等度、高度では15%, 25%, 38%, 41%であった。


・昼間の眠気、睡眠の質低下、睡眠時間の短縮、不眠はMCI に無関係。

単語を思い出す能力、再認識の能力の遅延は、年齢補正した重症度の比較ではOSA重症化に伴い低下していることはこれまでの報告と同様。


・OSAに伴う認知機能低下の機序は不明。無治療OSAで観察した結果では、慢性的な間歇的な低酸素血症が原因とする報告が多い。


・ODIの高値、低平均 SpO2、T90高値が低MoCA, DSCスコアに関係した。これは既報と同じ。すなわち重症OSAで夜間低酸素が強いことは認知機能低下と関係する。


・ODI高値は低MoCAと関係していたが高T90は低DSCスコアを起こす独立因子であった。


・低酸素血症の持続は、情報処理能力の低下に関係する。



 これまでも、OSAでは認知機能の低下が起こりやすいことが指摘されていましたがこの論文でもそれを裏付けています。注目されるのは、軽度の認知機能障害(MCI)が多いことです。一般的には、60-89歳の2-20%は認知症があり、MCIの27%にOSAがあることが知られています。論文の考察で述べていますが、OSAは、認知症への移行を速める可能性があります。


 認知症が進めば患者さんだけでなく、介護の負担が起こり、経済的にも大変になります。従って、認知症予防としてOSA治療は大切です。中でも喘息や、COPD(慢性時閉塞性肺疾患)がある中高年では、夜間の低酸素血症が強く、軽い脳梗塞など血管合併症がある人をたくさん診ます。早期発見、早期治療で悪化させない工夫が重要です。また、高齢でCPAP治療ができない場合には、睡眠中の低酸素血症を防ぐ治療が必要となります。




参考文献:


1. Beaudin AE. Et al. Cognitive function in as sleep clinic cohort of patients with obstructive sleep apnea.

Ann ATS Article in Press. Published November 04, 2020 as 10.1513/Annals ATS.202004-313OC


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