• 木田 厚瑞 医師

No.166 変わってきた重症喘息の治療方針


2021年5月14日


 喘息には多様な病態が知られています。その中で重症喘息に対する治療は、最近、見直されつつあります。英国の呼吸器専門雑誌、Thoraxでは、重症発作を起こす喘息の対策が必要であると述べています[1]。著者らは喘息治療の専門家として知られています。


 なぜ重症喘息が問題か?「重症発作で入院する患者数が多いこと、また、入院治療にも拘わらず死亡者が多いこと、さらにその医療費は莫大」であることが理由です。また、重症発作をくり返しているうちに次第に肺機能の低下が進み、駅の階段を上るのも休み休み、という日常の生活が不自由になる状態も問題です。高齢患者が多いことも問題です。


 特に、近年、生物製剤(biologics)と呼ばれる新しい製剤が使われるようになり、その適切な使用を巡って多くの議論があります。

多様な喘息がありますが、この論文で指摘していることは、現在、呼吸器科医師に求められていることは、画一的に診るのではなく、個別的であるべきこと、その方針が適切で理にかなっていることです。医師にとっての最大のバリヤーは理にかなっているかどうかです。なぜなら報告されている臨床研究の結果は極めてバラエティーに富んでいて方向性が一定しないこと、患者さん一人ひとりの個別性が大きいことです。


 この論文にそって、重症喘息の治療の最前線を解説していきます[1]。

まず、重症発作、中等度以上の発作とは何か、という説明から始めます。




Q. 重症喘息発作とは何か?


・喘息には国際的な診療ガイドライン、通称GINA(ジーナ)が知られている。

 GINAによる重症発作の定義は概略、以下の通りである(注:この論文では2009年版を引用している)。


・入院が必要、あるいは死亡の危険性が差し迫っており、すぐに受診し、治療が必要な状態。

➡全身性ステロイド投与(注射、経口薬)が1週間ごとに必要か、苦しいので予定外の受診で全身性ステロイド投与が必要な状態。あるいは直ぐに入院が必要な状態。




Q. 中等度以上の喘息発作とは何か?


・さらに重症化しないように一時的に治療法を変更しなければならない状態で以下のどれかに当てはまる場合。

a) 症状が悪化してきた。

b) 肺機能が低下してきた。

c) 短時間作用型β刺激吸入薬の使用が増加してきた。


これらの状態が2日以上続くが救急外来受診や入院が必要ではない。


➡ただし、現時点では、これら2つの定義は、不十分で議論が多い。




Q. 成人の喘息で悪化に関わる要因とは何か?


・過去の重症歴、肺機能でみる重症度、喘息のコントロール状態、治療薬の処方内容、統計的に判明しているさまざま事項(大気汚染など)、合併症の種類、血液中の好酸球数、気管支拡張薬の効き方。


・女性患者、高齢患者は悪化しやすい。


・合併症の中で問題となる場合は以下の場合➡喫煙者、逆流性食道炎、鼻炎・鼻ポリープ・湿疹、慢性副鼻腔炎、肥満、声帯の機能異常、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、気道感染の感服。


・炎症所見が高値。血液中の好酸球数が増加。


・肺機能検査で気管支拡張薬吸入前後の変化値が大きい。




Q. 喘息発作を起こす誘因とは何か?


・ウィルス感染:

成人の喘息発作では80%以上でウィルスDNAが検出される。

➡ ライノウィルス(RV)のA型、C型、インフルエンザ・ウィルス、

RSウィルス、コロナウィルス(注:新型コロナウィルスとは別種)


・アレルゲン:

猫、塵埃の中のダニ、カビ、ゴキブリ➡曝露量と発作発症の関連性は個体差が大きい。

花粉症➡飛散量と発作誘発の関係には個体差が大きい。

オーストラリアには雷喘息あり➡雷鳴と花粉飛散がリンクして悪化させる。


・細菌:典型的には、Chlamydophila, Mycoplasma pneumoniae が知られる。


・その他:非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs),高濃度の刺激物を吸い込んだとき。



Q. 喘息発作の始まり、ピーク、回復期とは?


図1は喘息発作の始まり、ピーク、回復期に関わる要件を図示したものである。


(図1)

Martin MJ. et al. Towards a personalised treatment approach for asthma attacks

Thorax 2020;75:1119–1129.より一部改変



Q. 喘息発作の始まりから回復までの経過に生ずる症状に対応する肺の病理組織変化は?


図2は喘息発作の始まりから回復までの経過に生ずる症状に対応する肺の病理組織変化についてこれまでに報告されている論文をまとめたものである。


(図2)



Martin MJ. et al. Towards a personalised treatment approach for asthma attacks

Thorax 2020;75:1119–1129.より一部改変



Q. 将来の課題は何か?


・喘息発作は、罹患率、死亡率の両方からみてその治療対策は重要である。


・喘息発作は多彩な背景・原因で発症することが判明してきた。


従来のように吸入ステロイドの高容量で治療するという時代から考え方が変わりつつある。


研究を進めるべき領域は以下の通りである。


1.発作についてさらに正確な分類、詳細な定義が必要である。これに従い、治療法を工夫する必要がある。


2.生物学的製剤と分類される治療を取り入れるためには、その前に発作がアレルギー、環境、ウィルス・細菌による感染症などの発症原因を明確にする必要がある。


3.治療の方針をその時機、時期にうまく、簡単に決められるようなマーカーを開発する必要がある。


4.発作を起こしやすい人たちについての発作の改善と予防の治療法を研究する必要がある。




Q. 著者たちが推奨する生物製剤の使用にかかわる問題点?


図3は、重症発作の反復を示す。


(図3)

Martin MJ. et al. Towards a personalised treatment approach for asthma attacks

Thorax 2020;75:1119–1129.より一部改変


注)急性症状の回数が多いほどサルブタモール吸入の使用回数が増加する。


特徴をまとめると以下のようになる。

・大多数の重症喘息に合致。

・気道感染に伴って悪化する。

・気道炎症は好酸球が主に働く。

・気道内には粘稠な痰が詰まっている。

・治療に抵抗性で方針が難しい。

・入院すると期間が長くなる。

・気道の基底膜の肥厚が著明。

・医療費が高額となる。




 近年、多種の生物製剤(biologics)が幅広い領域の治療で使われるようになりました。生物製剤は、重症喘息の治療で使用されていますが、どのような条件があれば最も効果的かを巡って多くの議論があります。費用が高額であること、開発から販売までの期間が比較的短く、継続使用の有効性、安全性について不明の点が多いことが問題です。他方で、喘息症状を伴うCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支拡張症で重症の場合に治療の重要な選択肢となっている現実的な問題もあります。


 そもそも多彩な喘息を一つの病名で呼ぶのは不適切であり、喘息という病名の枠組みを変えるべきだという議論もあり、臨床研究は新たな場面を迎えているといえます。




参考文献:


1. Martin MJ. et al. Towards a personalised treatment approach for asthma attacks

Thorax 2020;75:1119–1129.


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