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No.174 12歳~15歳までの新型コロナウィルス感染症ワクチンの効果と副反応


2021年6月16日


 わが国ですでに広く接種されているファイザー-バイオンテックCOVID‑19ワクチンは、トジナメラン(Tozinameran)とも呼ばれています。コードネームはBNT162b2。商品名としてコミナティ筋注(Comirnaty)で販売されています。緊急使用のために厳格な米国の規制当局により認可された最初のCOVID-19ワクチンであり、通常使用が許可された最初のワクチンです。高齢者層から開始されたワクチン接種は成人から若年者への接種が検討されています。現在は、16歳以上での接種許可が認められています。

 次に、12歳以上の子供たちへの接種が計画されています。ここで紹介する論文[1]は、12歳から15歳までの子供たちに対するファイザー-バイオンテックCOVID‑19ワクチンの臨床治験成績です。掲載は、臨床医学ではトップの評価を受けているNew England Journal of Medicineであり、今後、わが国でも許認可の重要な参考資料となると考えられます。




Q.成人に対する効果は?


・健康な成人では、30μgのBNT162b2を2回接種すると、高い中和力価とSARS-CoV-2に対する抗原特異的で確実なCD4+, CD8+ T細胞応答が誘発された。




Q.12歳~15歳でワクチン接種が必要な理由は?


・小児、青年期におけるCOVID-19の感染症状は成人に比べ軽症のことが多い。ただし、基礎疾患がある人では若年者でも重症化することがあり、ワクチン接種が望ましい。


・感染拡大という視点では、無症状感染が多い世代の予防対策が重要である。


・高齢者層の感染が減少してきており、より若い世代への対策に移ってきている。


・学生層が、通常の通り通学できることは学業レベルの維持という点でも重要である。

 日常生活におけるメンタル面でも安定が期待される。




Q.治験の目的は?


・これまでBNT162b2は成人について第1相から3相までの臨床治験が実施されてきた。この幅を12歳以上の健康人を対象にしたときの安全性、免疫原性、有効性を評価する目的で実施した。無作為、偽薬を用い、注射を実施した医療者にもわからないように計画し、第3相の治験として実施した。


・今回、初めて治験を行う12歳~15歳の参加者におけるBNT162b2接種の結果が、並行して実施する16歳~25歳の参加者の接種結果と比較して非劣性であることを証明する(同等であることを証明する)。




Q.効果と副反応の検証は?


免疫原性の評価は、成人で実施してきたようにCOVID-19を発症させる新型コロナウィルス SARS-CoV-2に対する血清中和抗体および受容体結合ドメイン(RBD)結合またはS1結合IgG直接ルミネックスイムノアッセイ法を用い、ワクチン接種前、2回目投与後の1カ月目に実施した。


・免疫原性の目的は、同時並行で実施した、16歳~25歳の参加者と比較して、12歳~15歳の参加者におけるワクチン接種後の中和抗体の幾何平均値を比較した。




Q.臨床治験の具体的な方法は?


・2020年10月15日~2021年1月12日までに治験を実施。


・12歳から15歳までの計2,264人を無作為にBNT162b2接種群(以下、ワクチン群)と偽薬群に分けた。1回目、2回目は必ず同種の接種を行った。


・ワクチン群:1,131人。偽薬群:1,129人。ワクチン群の97%以上が2回目接種を受けた。51%が男性。86%が白人。全体の58%が2回目接種後、少なくとも2か月の追跡調査を実施した。




Q.治験の結果は?


・ワクチン群の方が偽薬群よりも多くの局所および全身性の副反応を報告した。その程度は軽症から中等度であった。12歳~15歳群と16歳~25歳群の間での頻度の差なし。

最も多い、副反応は、両群では注射部位の痛みであり12歳~15歳群は1.5%、16歳~25歳群は3.4%。偽薬群では副反応なし。


・ワクチン群では頭痛、疲労感の頻度が最も高い16~25歳群より12~15歳群に、より高度の頭痛、疲労感の報告あった


・ワクチン群の2回目接種では、発熱(38度以上)は、12~15歳で20%、16~25歳群では17%。解熱剤使用は若年群でやや多かった:1回目では37%対32%、2回目では51%対46%。


・ワクチン群で1回目の1日後、若年群での1人で40℃を超える発熱あり。2回目を中止した。2日後には回復した。


・16歳~25歳ではワクチン群の1人が注射部位の激しい痛み、頭痛あり、2回目を中止した。リンパ節腫脹はワクチン群、偽薬群ともに0.8%で発生。血栓症、アナフィラキシーはみられず。


・12歳~15歳でワクチン群と偽薬群では1回目、2回目後、1ヵ月後の6%に副反応あり。ワクチン群対偽薬群:3%対2%。


・16歳~25歳でワクチン群と偽薬群では2回目後、1ヵ月後の11%に副反応あり。ワクチン群では6%。

ワクチン群では12~15歳の0.6%, 16~25歳の1.7%で重い副反応がみられた。ワクチン群では12~15歳の1人は1回目の副反応が重かったので2回目を中止した。




Q.免疫原性は?


・ワクチンを2回注射による臨床治験の第1相から3相までの無作為試験の結果、95%の感染予防効果あり。


・免疫応答は12歳~15歳群と16歳~25歳群は同等であった。


・12歳~15歳群でワクチン群ではBNT162b2中和幾何平均力価の幾何平均値は1.76。16歳~25歳群の方が12歳~15歳群よりも高値であった。


・以前にSARS-CoV-2感染があったかどうかに関係なく血清中和幾何平均値は12歳~15歳群のワクチン群で1283.0、16~25歳では730.8。これらに対する偽薬群は、15.1 および10.7であった。


・中和抗体幾何平均値は、12歳~15歳群のワクチン群で18.3, 16~25歳群では71.2。偽薬群では、1.4と1.1であった。


・1回目と2回目接種の間に、ワクチン群では3件、偽薬群では12件のCOVID-19の発症例があった。従って、1回目接種後のワクチン有効性は75%。


・12歳から15歳では2回目接種から7日目で100%のワクチン効果がみられた。他方、16歳以上では95%であった。


・1回目接種後の早期保護が報告されている。




Q.結果の問題点は?


・有効性を証明するには、必要なサンプル数をあらかじめ計算し、これにもとづいて行うことになっているが前例がない臨床治験であり、それができなかったので便宜的に決めた。

 ➡全体の例数が少ない。


・有効性の根拠は中和抗体価に、16歳~25歳群と差がなかった(非劣勢)ことを根拠としている。


この報告は、12歳~15歳までについてファイザー-バイオンテックCOVID‑19ワクチン副反応(安全性)と効果を検証したものです。予想されたように効果は16歳から25歳の青年期の人たちに対する効果と同等でした。

 わが国でもごく少数例ですがファイザー-バイオンテックCOVID‑19ワクチンの副反応の報告があります。詳しい内容が報告されていないので実態は不明ですが恐らく接種との関連性が高い例が含まれている可能性があります。

この臨床治験は、原則として基礎疾患のない人たちが選ばれています。米国の29か所でスクリーニングをした2,306人のうち最終的には、2,260人が治験に参加しています。46人は何らかの事情で治験から外れています。1例は高熱で第2回目が断念されたことが記載されています。

 緊急的な環境で実施された臨床治験ですが、例数は十分とは言えず、これで安全性が確立されたわけではありません。厳重な監視下での接種は今後も継続されるべきでしょう。




参考文献:


1. Frenck,RW.Jr. et al. Safety, immunogenicity, and efficacy of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in adolescents

New Eng J Med. This article was published on May 27, 2021, at NEJM.org. DOI: 10.1056/NEJMoa2107456


※無断転載禁止

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