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No.184 ワクチン接種の副反応としての急性心筋炎

2021年7月30日


 わが国で現在、接種が進められている新型コロナウィルス感染症のワクチンはmRNAタイプと呼ばれるBNT162b2-mRNA (Pfizer-BioNTech社製)とmRNA-1273 (Moderna社製)の2種類です。臨床治験の段階では、副反応として指摘されていなかった急性心筋炎(acute myocarditis)が、きわめて少数例ではありますが若年者にみられており注目されています。


 ここでは、mRNAワクチンによると考えられている急性心筋炎という病気についての報告例と対応を述べた論文を紹介します。米国疾病予防管理センター(CDC)は、不安感が広がらないよう発生した事実を丁寧に説明しています。




Q.急性心筋炎とはどのような病気か?


New England Journal of Medicineには詳しい総説がある[1]。

臨床的には稀な疾患であり、確定診断に至るまでに心筋の生検を行い、病理診断で確定するなど診断、治療が困難な疾患であり、予後の予測が難しいのが特徴であった。


・軽度の息切れや強い胸痛までの多彩な症状を示し、特異的な治療法がなく、心臓が原因によるショック状態や死にいたる。


・慢性心不全をともなう拡張型心筋症は、こうした心筋炎の後遺症である。


・大多数は、ウィルス感染により発症する。頻度が少ない原因では、他の病原菌、薬物による毒性あるいは過敏反応として発症する。その他、サルコイドーシスなどによっても発症することがある。


・治療法や、その予後は、患者を専門医に紹介し、そこでは心筋の生検を実施したうえで治療方針を決めることになる。生検に代わる方法として近年、心臓MRI検査が実施されている。




Q.米国でmRNAワクチン接種により生じた急性心筋炎の報告例とは?


・第1報:mRNAワクチン接種後、1~5日目に発症した4例の報告が最初である。3例は男性で23歳~36歳。70歳、女性例。いずれも激烈な前胸部痛で発症し、心電図の異常所見を認めた。また心臓MRI検査で典型的な急性心筋炎に一致した所見を呈した。


・第2報:米国では、2021年4月30日までに軍人、約280万人の接種を実施したが23人に急性心筋炎がみられた。ワクチン接種後、4日以内。平均25歳。20例は第2回接種後の発症。8例は心臓MRIで診断が確定している。


・Marshallらは、7例の発症を報告。14~19歳。第2回接種後、4日以内。血中トロポニンの上昇あり。心電図の異常あり。心臓MRIで異常の指摘あり。


・ワクチン接種以外の原因は考えられない。




Q.推定される発症機序は?


・推定される発症の機序➡第2回接種後、3~5日が多いことから免疫学的機序が関与している。


・ワクチンに拠る急性心筋炎では天然痘ワクチン接種後に発症したという報告例があるが他のワクチンではなし。mRNAワクチン接種に特有であるらしい。


・重症COVID-19の入院患者で同様な、重症の急性心筋炎の発症がみられたとの報告がある。




Q.その他の報告例は?


・イスラエルでは500万人の接種で121例の急性心筋炎の報告がある。




Q.現時点での問題点は何か?


・ワクチン投与間隔の日程の見直しが必要ではないか?


・急性心筋炎を起こしても通常の急性心筋炎と比較すると予後は良好であると考えられるが今後、接種者に対する長期フォロアップの体制をどうすればよいか?


・発症者は原則、激しい運動は避けるべきであるが気づかれない発症例がありうる。そのフォロアップ体制をどのようにすればよいか。


・心臓MRI検査が診断の決め手になる。疑われる場合の全例で検査を実施できるようにする体制を作る必要がある。


・冒頭にあげた従来型の急性心筋炎とは病態は明らかに異なっている。

急性心筋炎の診断は、従来、心筋の生検など高度の診断技術を要し、専門医のみが可能となっている現況を見直す必要がある。




Q.米国の対応策は?


米国疾病予防管理センター(CDC)および関連機関では、この件について2021年6月23日より25日まで公開討論会を開催し、思春期および青年に対するワクチン接種の安全性について広く広報活動を実施している[3]。




 ワクチン接種は高齢者から若い世代へ移ってきています。急性心筋炎は若い男性で、第2回目から1週間以内に認められることが多いとされています。mRNAワクチン接種に特有な副反応と考えられますが重症化するようなことはないようです。

診断は、胸痛などの症状、心電図の異常、血中トロポニンの上昇に心臓MRI検査でほぼ確定します。従来は、極めてまれとされていた急性心筋炎についての早期診断のレベルを上げる必要を強く感じています。

 米国、CDCは、ワクチン接種に伴う不安感を解消する目的で専門的で詳しい情報を発表すること、公開討論会を行うなど、啓蒙活動をきわめて積極的に行っている点が特徴的です。




参考文献:


1. Cooper, Jr.LT. Myocarditis. N Eng J Med 2009; 360:1526-38.


2. Shay DK. et al. Myocarditis occurring after immunization with mRNA-based COVID-19 vaccines. JAMA Cardiology Published online June 29, 2021

Downloaded from: https://jamanetwork.com/ ACADEMIA ESPANOLA DE DERMATOLOGY


3. Gargano, JW. et al. Use of mRNA COVID-19 vaccine after reports of myocarditis among vaccinerecipients: Update from the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, June 2021

MMWR / July 9, 2021 / Vol. 70 / No. 27, 977-982.


※無断転載禁止

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