• 木田 厚瑞 医師

No.190 喘息女性は心臓血管疾患のリスクが高い


2021年8月11日


 喘息は、女性に多い疾患ですが経過中に心筋梗塞や脳卒中など心臓、脳血管疾患のリスクが高くなることは古くから注目されてきましたが根拠となるデータは限られていました。

 米国では、半世紀以上も前から圧倒的に多かった心血管疾患の対策が行われています。

喘息の多くは小児期に発症すること、他方、心血管疾患は中高年層に多いことから相互の影響を明らかにするには長い期間の、厳密な観察が必要です。

 ここで紹介する論文は、フラミンガム研究(Framingham study)によるものです。フラミンガム研究は、米国NHIが米国北部のマサチューセッツ州フラミンガム町(住民28,000人)で行っているコホート研究で1948年から開始されています。1984年からは心血管疾患の前兆となる因子および自然歴を明らかにするために、フラミンガム町在住の男女5,209人を対象に開始された大規模研究です。登録時の年齢は30~62歳でしたが、後に対象者の子と配偶者も含むようになっています。本研究は4年ごとにフォローアップ検診を行い、病歴聴取、身体所見、胸部X線、心電図、各種血液生化学的検査を実施し経過観察し、喘息と心血管疾患との関係を明らかにしたものです。




Q.調査研究の方法は?


・対象はフラミンガム研究の男女を含む計3,612人。年齢は17歳~77歳。1979年から2014年までの継続観察。


・統計的には、フラミンガム・リスク・スコア(FRS)と呼ばれるこれまでの研究結果に基づき、年齢、総コレステロール値、善玉コレステロール、HDL-C, 収縮期血圧、高血圧治療の有無、喫煙歴をそれぞれ、点数化したものを利用した。




Q.結果は?


・全体の533人(15%)に喘息があった。

観察開始の時点で喘息ありは384人(10.6%)、経過中に149人(4.9%)で喘息が発症。


・喘息ありの平均年齢は44.4歳。


・もとから喘息ありで肥満ありは24.5%。経過中に肥満ありの喘息は24.8%。喘息あり、肥満なしは19.2%。


・心血管疾患に対するリスク評価をFRSで行うと喘息ありでは高リスク、中間リスク、低リスクはそれぞれ、13.0%, 20.6%, 66.4%であった。他方、観察経過中に喘息が発症した群では、3.4%、10.1%、86.6%であった。喘息なしの群では、7.4%, 18.4%, 74.2%であった(p<0.001)。喘息ありではリスクが高くなる


・喫煙歴ありの人が経過で喘息を発症した群では、57.4%, 40.3%, 36.4%で非喫煙者と比べて有意に高値(p<0.0001)。


・また、全体の897人(25%)に心血管病変があった。喘息を肥満、教育レベルを調整したときの心血管疾患のリスクはhazard risk(HR) =1.3195%CI=1.10~1.57)

喘息が心血管疾患発症のリスクとなったのはHR=1.28(95%CI: 1.07~1.54)


・喘息がある人での心血管疾患のリスクは、HR=1.40(95%信頼区間:1.17~1.18)

Cox regressionでHR=1.28(95%信頼区間:1.17~1.54)であった。


心血管リスクは女性で特に高値であった。HR=1.37(95%信頼区間:1.17~1.54)

他方、男性では、HR=1.22(95%信頼区間:0.97~1.55で有意差なし)。


・喫煙歴ありでは心血管リスクはHR=1.53(95%信頼区間: 1.20~1.94)、非喫煙者ではHR=0.96 (95%信頼区間: 0.71~1.31)




Q.経過でみた喘息と非喘息で見られる心血管疾患が生存期間にどのような影響を与えるか?


図1に結果を示した。


出典:Pollevick ME. Et al. The relationship between asthma and cardiovascular disease: An examination of the Framingham Offspring Studyより一部改変


喘息の発症から10年以上経過した段階から心疾患血管疾患による死亡が多くなる。




Q.問題点は?


女性喫煙歴ありの喘息では心血管疾患の合併が有意に高値となる。


・心血管疾患の背景因子には高血圧、肥満、喫煙歴、糖尿病、社会経済的影響が関係しているがこれらを補正した結果である。


・喘息と心血管疾患に関与する因子では、共通点が全身的な炎症であり、IL-6, CRP, fibrinogen, Dダイマーの異常が見られる。


・高度の喘息発作で低酸素血症が生じ、これが虚血性心疾患の発症と関連する可能性がある。


 多くの人たちを長期間、フォローアップして貴重はデータですが、喘息の診断は医師の問診によっており厳密な肺機能検査は実施されていません。喘息と鑑別が難しいのがCOPD (慢性閉塞性肺疾患)ですが、喫煙者に多い疾患です。従って、喘息および喘息と似た症状の経過を示す疾患と読み替えた方が正確かも知れません。

米国では心血管疾患が多いことは歴史的にも知られています。わが国では同じ血管病変でも脳血管疾患(脳卒中)が心血管疾患に近いくらい頻度が高いのでこの点も注意して読むべきでしょう。

 喘息症状がある中高年女性では、喘息だけの治療では不十分であり、血管病変の合併症の予防につねに目配りしながら治療を継続すべきでしょう。




参考文献:


1.Pollevick ME. Et al. The relationship between asthma and cardiovascular disease: An examination of the Framingham Offspring Study

CHEST 2021; 159:1338-1345

DOI: https://doi.org/10.1016/j.chest.2020.11.053


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