2021年8月19日
喫煙者では感染しやすくなるのではないかという意見は早い段階から指摘されていました。ここに紹介する論文[1]は、最近、英国の呼吸器専門雑誌、Thoraxに掲載された論文です。
英国の研究者たちは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染リスクを調べるために企業と一緒に登録アプリを開発しました。このアプリは、発症前の段階で登録してもらい、毎日、日記のように症状の変化を記録してもらうシステムです。COVID-19感染後は、その症状についても報告していきました。その結果、喫煙者では感染リスクが高値となり、重症化することが判明しました。さらに入院しても譫妄症状が起ることが多いという報告は、入院後に医療者負担が多くなることを示唆し、看過できない問題です。
また、COVID-19には、症状に特徴がありますが、他の原因で起こる普通の風邪との違いが、あまりはっきりしていないことがわかりました。冬季に入るとCOVID-19と通常の風邪と紛らわしいことが多くなり混乱に拍車がかかりそうです。
Q. 喫煙習慣とCOVID-19の関係?
・喫煙は、呼吸器系障害、ウィルスや細菌感染を起りやすくする。
・喫煙者ではインフルエンザが発症する可能性は2倍。これが肺炎となるリスクは5倍。
・これまでの研究論文では、COVID-19は喫煙により重症化する、ICU入室リスク高まる、過剰死亡を起こすというものであった。他方、COVID-19で入院した例での喫煙率はむしろ低かったというレポートがあり、現喫煙者、元喫煙者などの分類が正確でなかった可能性がある。
Q. どのような方法で進めたか?
・ZoeGlobal社がKing's College Londonなど所属研究者と共同で開発したアプリ。
・ZoeCOVID-19 Symptom Studyと呼ばれる。
・TV、ラジオ、SNSでアプリ完成をリリースした後、成人にアプリ登録を奨めた。
・約250万人が登録。
Q. 登録者と内容は?
・2020/3/24~20/04/23の期間内に計2,401,982人が登録。全て英国居住者。
・平均年齢43.6歳、63.3%が女性、全体喫煙率は11.2%。
・最初の使用時に身長、体重、住所、健康状態を入力。喫煙(現喫煙者か、既喫煙者か)。
・登録時点でPCR検査によりCOVID-19かどうかを質問。
・登録後は毎日、身体症状を送信した。
・以下の14の症状があるか:腹痛、胸痛、譫妄、下痢、倦怠感、発熱、頭痛、倦怠感、嗅覚の消失、持続的な咳、息切れ、食欲低下、喉の痛み、筋肉痛。
・医療機関を受診したかどうか。
・倦怠感、息切れがある場合には軽度から重度までの程度別を送信。
・年齢範囲は16歳から90歳以下。妊婦は除外。
・糖尿病、呼吸器疾患、腎臓病、癌、心臓病がある場合には記載した。
Q. 結果は?
・全体の35%が経過中(1ヶ月間)の14症状のうちの1つを毎日、報告した。
・現喫煙者ではCOVID-19の典型的な3徴候である咳、発熱、息切れを訴える可能性が高かった。Odd Ratio(OR)=1.14(95%CI:1.10~1.18)
・症状のパターンは喫煙者、非喫煙者の間で差がなかった。
・現喫煙者では古典的症状が多い。発熱、持続性の咳、息切れ。
・非喫煙者との比較では 5項目以上の症状はOR=1.29(95%CI:1.26~1.31)
10項目以上の症状ではOR=1.50 (95%CI=1.42~1.58)
・現喫煙者は非喫煙者との比較で譫妄状態が発症する可能性大OR=1.83(95%CI:
1.47~2.27)、腹痛ありはOR=1.43 (95%CI: 1.15~1.77)
・喫煙者は入院リスクが高い。OR=2.11 (95%CI: 1.41~3.11)
併存疾患を除外しても高い。OR=1.87(95%CI: 1.15~2.95)
Q. 問題点は?
・現喫煙者では発症リスクが高い。重症化する可能性高く、入院の必要が高い。
・理由は、喫煙習慣で新型コロナウィルスの粘膜付着が高まるのではないか(基礎データは多い)。その他、喫煙で手を口に持っていく回数多いので感染するのではないか。
COVID-19発症前からの追跡調査であり、多数の人たちのデータがもとになっていると云う点では、うまい調査方法だと云えます。
さらに、この著者たちが警告しているのは、無症状感染者が多いことです。発症者だけを隔離しても無症状者が移動や交流を含む普段の生活を行っていれば流行は拡散する一方となります。感染流行の抑え込みが奏功しないのは、恐らくこの点に問題がありそうです。
掲載雑誌、Thoraxに同じ研究者からの論文[2]では、貧困層に感染が多いことを指摘し、その対策を提言しています。
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