No.200 新型コロナウィルスの変異株


2021年9月3日


新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の感染予防対策は、デルタ株の猛威に翻弄されています。

変異株とは何か、この先にはどうなるのか。

米国の科学雑誌、ScienceにSARS-CoV-2の変異株の解説記事がでました[1]。記事はサイエンス・ライターが各地の専門家の意見を集合した形で書かれています。




Q.デルタ株とはなにか?


・SARS-CoV-2の家系図を示したものが図1である。

(図1)Kupferschmidt K. New SARS-CoV-2 variants have changed the pandemic. What will the virus do next?より一部改変


・2019年12月に武漢でSARS-CoV-2による新型コロナウィルス感染症が報告されて以来、2021年6月までにこのウィルスの家系図(family tree)がどのように変化してきたか示している。

遺伝子解析で明らかにされたウィルスの小さな変異の種類は200万種を超えているといわれる。


WHO (世界保健機関)はこれを4種の変異株と、さらにこの先、懸念される4種に大別した。




Q.現在問題となっている変異株は?


・α(アルファ)株

最初に英国で発見され、最初の変異株として広く拡散した。


・β(ベータ)株

最初に南アフリカで発見され免疫監視システムをくぐり抜けて増殖を開始する逃避相(escape)を呈した。


・γ(ガンマ)株

最初にブラジルで発見され南米に拡散した。


・δ(デルタ)株

最初にインドで発見され、他の変異株を抑え込んで広く拡散した。




Q.他の注目されている変異株は?


・η(イータ)株

・ρ(ロー)株

・κ(カッパ)株

・λ(ラムダ)株




Q.過去に注目を集めた変異株は?


・ε(イプシロン)株 

・θ(テータ)株




Q.今後の予想は?


・流行の当初ではウイルスはおそらく、人間がもつ免疫を回避するために進化するだろう、時間の経過とともに人々の病気を軽減する可能性が高く、その感染力にはほとんど変化がないだろうと予想した。要するに、進化はパンデミックの近い将来に主要な役割を果たさないと主張したが、実際にはさらに毒性が強く、感染性が高くなり、より多くの人に感染を拡大させ、予想は真逆の展開となった。




Q.デルタ株の問題点は?


・多くの国々の政府は、マスク着用やその他の公衆衛生対策を延長、再導入しながら、予防接種プログラムを加速し、集団免疫に到達するという目標を立てたが、「デルタ株の出現により、集団免疫に到達することは不可能である」と判明した。




Q.今後の変異株出現は?


ウィルスの進化は、予測することが不可能なランダムな突然変異によって進む。

これまでの発生の過程は、コロナウイルスが現在のデルタ株よりもさらに感染性を強くする可能性があることを示唆する。


・突然変異の大部分はウイルスにまったく利点を与えるものでなく、不規則であり、特定することは困難である。


・変異株の予測としてウイルスの表面にあるスパイクタンパク質のヒト細胞に結合する部分を変化させる突然変異など、明らかな候補がある。しかし、ゲノムの他の場所での変更も同様に重要である可能性があり予測は困難である。遺伝子の機能は、それらの配列の変化が何を意味するのかが不明であることも予測を困難にしている。

・結局のところ、研究者たちは、まったく新しいウイルスがこれほど広く広がり、人間に進化するのを見たことがないという。




Q.抗原マップでみる変異株の動きは?


・英国、ケンブリッジ大学の進化生物学者であるDerek Smithは、抗原マップでインフルエンザウイルスの免疫回避を視覚化することに何十年も取り組んできた。Smithが作成したマップ上では、2つのバリアントが離れているほど、一方のウイルスに対する抗体が他方に対して保護する効果が低くなり危険度が高まる。最近公開されたプレプリントでは、Smithらのグループは、SARS-CoV-2の最も重要な亜種をマッピングした(図2)。


2021年4月頃よりデルタ株が急増してきた。

(図2)Kupferschmidt K. New SARS-CoV-2 variants have changed the pandemic. What will the virus do next?より



Q.スパイク部分の構造と変異の位置の違い?


スパイク部分の構造が感染の鍵を握っていると考えられている。


武漢株がβ株に変異した。

(図3)Kupferschmidt K. New SARS-CoV-2 variants have changed the pandemic. What will the virus do next?より一部改変

  

・アルファ株は、細胞表面のウイルスの標的であるヒトACE2受容体により強く結合すると考えられている。これは、N501Yと呼ばれるスパイクタンパク質の変異による。また、体のウイルス免疫防御の一部である分子であるインターフェロンが作用する可能性がある。すなわち、インターフェロンが有効治療となる可能性がある。




Q.デルタ株の特殊性は?


・デルタ株で、最も重要な変化の1つは、スパイクのフューリン切断部位の近くにある可能性がある。ここでは、ヒトの酵素がタンパク質を切断する。これは、ウイルスがヒトの細胞に侵入できるようにする重要なステップである。その領域のP681Rと呼ばれる突然変異は、切断をより効率的にする。これにより、ウイルスがより多くの細胞に早く侵入し、感染者のウイルス粒子の数が増える可能性がある。7月に、中国の研究者は、デルタが以前の亜種よりも1000倍高い患者サンプルのウイルスレベルにつながる可能性があることを示すプレプリントを投稿した。感染した人々がウイルスをより効率的に拡散するだけでなく、より速く拡散し、変異体がさらに急速に拡散することを可能にするという証拠が蓄積してきた。


・従来の一般的な概念では、ウイルスは時間の経過とともに進化して危険性が低くなる傾向があり、ホストが長生きし、ウイルスをより広く拡散できるようになる、とした。しかし、従来のこの考え方は、SARS-CoV-2には当てはまらないといわれる。




Q.今後の予測は?


・今後数か月で感染力、病原性、免疫回避がどのように発生するかを正確に予測することは不可能であるがウイルスの軌跡に影響を与えるいくつかの要因は明らかである。

➡その第1は、現在、急速にしかも多数の人たちの免疫力を上げるということである。他方で、感染する可能性を減らすということによりたとえ感染していてもウイルス複製を妨げる可能性がある。つまり、より多くの人に予防接種をすれば、突然変異が少なくなるということである。


・ウィルスが、スパイクタンパク質に20回の変更が起れば現在の抗体反応をほぼ完全に回避する。すなわち新たな耐性反応を引き起こす可能性がある。


・人が感染した後、ウイルスは目まぐるしい速度で増殖し始め、数日以内に数十億のウイルス粒子を生成する。小さなコピーミスはすべての複製サイクルで発生するため、わずかに異なる多種多様なゲノムがすぐに出現し得る。SARS-CoV-2のゲノムはわずか30,000ヌクレオチドに及び、1つの位置を変更する方法は3つしかないため、感染した個人では起こりうるすべての突然変異が発生する可能性がある。




Q.感染を起こす最少のウィルス数は?


・2020年に発表された論文では、ある人が別の人に感染すると約1000のウイルス粒子が伝播すると推定されている。2月にプレプリントとして発表されたエモリー大学のKatiaKölleらによる再分析では、成功した感染の99%は3個からのものであるとした。オックスフォード大学の進化生物学者、Katrina Lythgoeが4月にScienceで発表した研究では、感染時に感染したウイルス粒子の数は1〜8個であった。すなわち空気感染がつねに起こりうるということである。




Q.慢性感染はあるか?


・ほとんどの人では、身体が持つ免疫系が数日以内に感染を抑制するが、数ヶ月続く慢性感染症を発症する人がいる。これは突然変異が蓄積して優勢になるための時間を与え、それらの感染の可能性を高める。短命の急性感染症では、進化は「ルーレットのようなもの」であるが、慢性の場合、ウィルスがその環境に適応するために必要な時間を与えることになる。




 この論文で述べられている内容は、かなり衝撃です。デルタ株は変異ウィルスの中のほんの一部に過ぎない可能性があること、すでに部分的に遺伝子が変化した種類は200万種を超えていること、さらに増え続けていること、新型コロナウィルス感染症に慢性感染が一部で起こっていることなどです。

 現時点での効果的な対策は、3密回避であり、ワクチンであるという主張は改めて予防策の難しさを伝えています。




参考文献:


1. Kupferschmidt K. New SARS-CoV-2 variants have changed the pandemic. What will the virus do next?

Science in press. By Aug. 19, 2021, 2:05 PM

https://www.sciencemag.org/news/2021/08/new-sars-cov-2-variants-have-changed-pandemic-what-will-virus-do-next

doi:10.1126/science.abl9960


※無断転載禁止

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