No.205 新型コロナウィルス感染症の空気感染説


2021年9月30日


新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)による急性感染症です。

COVID-19流行の当初は、咳などで出た飛沫を吸い込んだり、飛沫が鼻や目などの粘膜に付着することで感染する従来から指摘されてきた飛沫感染と考えられていましたが、その後、空気感染の可能性も追加せざるを得なくなり、WHO(世界保健機関)、CDC(アメリカ疾病予防管理センター) [1,2]は修正案を発表しました。(後述)

本論文は、最近のScience誌に発表された空気感染説を解説した総説です[3]。引用論文206の長論文ですが、ここでは、要点のみを説明します。




Q.従来の飛沫感染、飛沫核感染、空気感染の考え方の問題点は?


飛沫感染:サイズは直径5㎛以上。重いのですぐ落ちる。飛距離は1~2m。発生源は咳、くしゃみ、会話など。主な病原菌は、インフルエンザ、RSウイルス、百日咳など。


飛沫核感染:サイズは直径4㎛以下。軽いので長時間浮遊する。発生源は飛沫から水分が蒸発。痰の吸引など医療処置で拡散する。主な病原菌は麻疹、水痘、結核など。


空気感染:感染者から1~2m離れたところで感染。感染性エアロゾルまたは飛沫核(空気中で蒸発する飛沫)の吸入を指し、5㎛未満を指すが多くの粒子は1㎛以下であると定義されることが多い。

注)airborne transmissionを空気感染と訳した。


➡近年、エアロゾルおよびスキャニング移動粒子サイジングなどのエアロゾル測定技術の進歩により、5㎛による従来の定義よりもエアロゾル、液滴の大きさの違いは、それらの空気力学的な挙動にもとづき100μに変更されるべきだという提言がある。


➡呼吸器エアロゾルは呼吸、空気中に浮遊したままになるほど小さい、微細な液体、固体、または半固体の粒子であり、会話、歌、叫び、咳、くしゃみなどで健康人と呼吸器感染者の両方で呼気を吐く活動中にでる


・世界保健機関(WHO)と米国疾病予防管理センター(CDC)は病原体の空気感染について主にエアロゾルの空中挙動についての理解が不十分であり、これまで非常に過小評価してきた。2021年4月と5月にSARS-CoV-2を短距離と長距離の両方で拡散する主なモードとして、ウイルスを含むエアロゾルの吸入を公式に認めた。[1,2]




Q.直径100㎛に変更するべき理由は?


・100㎛は静止空気中に5秒以上(高さ1.5mから)浮遊し、感染者から1mを越えて移動し、吸入できる最大の粒子を表す。

咳や短い距離でも感染しうる、くしゃみを介して感染個体により生成される液滴は(<0.5㎛)は、1~2mの距離に達し、これが他の人たちに吸入される可能性がある。


・ウィルスを含んだエアロゾルの輸送は、エアロゾル自体が持つ物理化学特性と、温度、相対湿度、紫外線、気流、換気などの環境要因を受ける➡生体内に吸入されると、ウィルスを含んだエアロゾルは上気道に沈着する傾向がある。小さなエアロゾルは、細い気道を経て、肺胞領域まで浸透する可能性がある。

➡SARS-CoV-2の感染、および屋内での超拡散イベントが高頻度で起こること、動物実験、および気流シミュレーションは、空気感染(空中伝播)が起ることを強く示唆する。


・会話時には個人が互いに20cm以内にいる場合にのみ、飛沫が優勢になる。


・飛沫は数秒以内に地面または表面に急速に落下し、飛沫よりもエアロゾルの濃縮を残す。




Q.エアロゾル感染によるウィルス性呼吸器感染症とは?


図0:呼吸器ウィルスの空気感染に関わる各段階



図0説明:

ウイルスを含むエアロゾル(<100㎛)は、感染者の呼気中に含まれ➡気道を通して外界へ吐き出され➡環境中に放散され➡それが健常者に吸引される。


飛沫核(>100㎛)とは異なり、エアロゾルは空気中に数時間も滞留し、それらを吐き出す感染者から1~2mを超えて移動し、短距離と長距離の両方で新たな感染を引き起こす。



図1:呼吸器ウイルスの空気感染とは?



図1説明:

ウイルスを含んだエアロゾルの空気感染には、以下が含まれる。

1)粒子ができ、飛散する、2)輸送、3)吸入、沈着、および感染。

各フェーズは、空気力学的、解剖学的、および環境的要因の組み合わせの影響を受ける。(ウイルスを含むエアロゾルのサイズは一定の比率ではない)


従来、液滴伝播が優勢であると想定されているが、はしかウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器症候群ウイルス(RSV)を含む多くの呼吸器ウイルスが空気感染によるという証拠がある。これらは、5㎛未満の微粒子で最も多く検出されている。




Q.ウイルスを含んだエアロゾルの物理化学的性質とは?



図2説明:

エアロゾル粒子の物理化学的な特性に影響する因子

➡ウィルス量と感染力、その他の化学的要因(電解質、タンパク、表面活性)、pH値、電荷、空気―液体間の表面的な特性の影響を受ける。



図3:エアロゾルが空気中に滞留する時間



図3説明:

静止した空気中で様々なサイズのエアロゾルの滞留時間は球状粒子のストークスの法則から推定できる。例えば、100,5,1㎛のエアロゾルが1.5mの高さから地面(または表面)に落下するのに必要な時間はそれぞれ、5秒、33分、12.2時間である。




Q.屋内の空気感染に影響を与える因子



図4説明:

大きな液滴の動きは主に重力によって支配されるが、エアロゾルの動きは、気流の方向とパターン、換気の種類、および空気のろ過と消毒によってより強く影響される。




Q.気道内の部位へのサイズ依存性エアロゾルが沈着する機序は?



図5説明:

(A)人間の気道のさまざまな領域における主な沈着メカニズムと対応する気流の仕組み。大粒子のエアロゾルは、慣性衝突の結果として鼻咽頭領域に沈着する傾向があるが、小粒子エアロゾルは、重力沈降とブラウン拡散に基づき気管気管支および肺胞領域に沈着する傾向がある。

(B)気管気管支および肺胞領域の拡大図は、沈着メカニズムを示す。

大粒子エアロゾルの大部分は鼻咽頭領域に沈着する。肺胞領域に到達して沈着できるのは、極めて小さいエアロゾルのみである。




Q.結論は?


従来のウィルス感染症の考え方は、SARS-CoV-2には必ずしも適用できないことが判明した。現在のパンデミックを終わらせ、将来の発生を防ぐためには戦略の変更が必要である。


・換気、気流、空気ろ過、紫外線消毒、およびマスクの適合に主に焦点を当てる。


・短距離と長距離の両方でエアロゾルの伝播を軽減するために、追加の予防措置を実施する必要がある。




 SARS-CoV-2は、従来の呼吸器ウィルス感染症とは異なる性質を持っています。肺胞表面の広範囲にウィルス感染による傷害が高度の低酸素血症を起こし、重症化し、これと併行して生ずる多臓器傷害が問題です。この論文では、従来、考えられてきたエアロゾルの伝播に加え、空気感染を重視しており、マスク、3密回避、以外の戦略を練る必要を提言しています。流行の終息には相当の期間がかかるという点から屋内の換気という立場から建物内の気流の交差を避けるなど広い範囲での対策の見直しを含めたハード面の対策が必要であることを示唆しています。




参考文献:


1. World Health Organization (WHO), “Coronavirus disease (COVID-19): How is it transmitted?” (2021);

www.who.int/news-room/q-a-detail/coronavirus-disease-covid-19-how-isit-transmitted.


2. U.S. Centers for Disease Control and Prevention (CDC),

“Scientific brief: SARS-CoV-2 transmission” (2021);

www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sarscov-2-transmission.html.


3.Wang CC. et al. Airborne transmission of respiratory viruses

Science 373, eabd9149 (2021) 27 August 2021

https://doi.org/10.1126/science.abd9149


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