2021年10月1日
市販薬の鎮痛薬の多くには、喘息の人は使用に注意と書いてあります。喘息は多様な原因により起こります。近年、喘息という名称はumbrella term と言われることがあります。喘息という名の下に実はさまざまな原因で発症するものがあることが判明したからです。
中でもアスピリンにより起こる喘息はアスピリン喘息と呼ばれ、多くの鎮痛薬で起こることが知られてきました。
歴史的には、アスピリンが臨床使用に導入されてから数年後の1902年に最初の症例が報告されました。これがアスピリンにより起こる喘息として1968年、Samterにより報告されたのが始まりです。喘息症状、アスピリン感受性、鼻ポリープの3つの特徴を有することで知られています。
アスピリン喘息は、欧米からの最近の論文では、広い範囲をカバーする呼吸器の病気という意味でアスピリン増悪呼吸器疾患(AERD)(NSAID増悪呼吸器疾患またはNERDとも呼ばれる)と呼ばれています。アスピリンだけではなく、より広い範囲の薬で起こる可能性があるという意味を持たせています。
Q. アスピリンにより呼吸器症状が悪化する場合とは?
・喘息、鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎(CRS)およびアスピリン服薬により悪化する急性上気道および下気道反応の組み合わせを指す。
➡上気道反応として鼻症状に加えて下気道反応としての喘息症状の組み合わせと表現されていることに注意。
・特徴は、喘息及び鼻の多発性ポリープを伴う慢性副鼻腔炎(CRS)の患者で、アスピリンまたは他の非ステロイド性抗炎症薬の摂取後に急性の上気道および下気道症状を起こす場合である。
Q. AERDの特徴は?
・AERDは、喘息患者の5~20%を占める。
・やや女性に多く、ほとんどが20歳代後半から50歳代前半に発症する。小児喘息の既往を持つ者は少ない。初診時(確定診断前)には重症者が6割を占めるが、確定診断されて自己管理を指導すると軽症化する症例が多い。ただし、副腎皮質ステロイド依存症例が半数近くを占め、他のタイプと比べるとやはり重症者が多い。
・ほとんどの患者には、アルコール摂取時に不快な呼吸反応がある。アルコールの種類や量に無関係であると云われる。
Q. AERDでの症状の特徴は?
・アスピリン類似薬に対する反応は、通常、摂取後30分から3時間後に始まり、喘息、鼻づまりが突然、悪化。他の症状を伴うことがある。
Q. AERDが起る機序は?
・アラキドン酸(AA)代謝における後天的な作用と、その結果として生じる
炎症誘発性メディエーターと抗炎症性メディエーターの不均衡により、慢性気道炎症を引き起こす。
➡その結果、鼻症状、咳、痰、息切れなど上気道、下気道の症状を呈する。
・シクロオキシゲナーゼ1(COX-1)を阻害するNSAIDに分類される薬剤は、この不均衡を急激に悪化させ、肥満細胞の活性化も引き起こす。
過敏反応のトリガーとしては、防御因子としてのプロスタグランジンE2(PGE2)の減少というステップが重要であり、最終メディエーターとしてはシステイニル・ロイコトリエン(cysLTs=LTC4,LTD4,LTE4)が重要な役割を演じているものと考えられている。しかし、その間の機序(関与する細胞やメディエーターなど)に関しては不明な点が多い。
Q. 治療方針は?
・確定診断にはアスピリンによる誘発テストが必要だが、危険を伴う可能性もあるので通常は実施しない。
・AERDおよび中等度から重度の喘息の患者には、他の喘息治療にロイコトリエン修飾剤(LTMA)を追加することが勧められる。ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)から始めることを推奨する意見がある。例:モンテルカスト、ザフィルルカスト。
・4〜6週間経っても臨床的改善が見られない場合は、5-リポキシゲナーゼ(5-LO)阻害剤を追加あるいは変更する。
・AERDの患者は、COX-1を阻害するすべてのアスピリン類似薬を避ける必要がある。
ある報告では、慢性鼻炎を持つ者が84%を占め、しかも鼻症状の重いもの
が多いとされ、また鼻茸(鼻ポリープ)は72%の患者にみられるが、非アス
ピリン喘息にも8%程度の頻度で認められ、結局鼻茸を合併する喘息患者の
約半数がAERDであるといわれる。
・嗅覚障害を合併する頻度が高いのはAERDの特徴である。
・注射薬、坐薬>内服薬>貼付薬、塗布薬の順で症状が早くかつ、強く起こ
る。またNSAIDsを含んだ点眼薬も原因となりうる。
AERDは、成人発症型の喘息に特徴的です。注意すべきことは薬剤により喘息あるいは鼻症状が短時間に悪化することです。この経過に気づかなければ長期間、そのままになってしまうことがあり危険です。患者さんの中には、鼻症状を自分で花粉症と考えている方がいます。季節に関係なく悪化する鼻症状は、花粉症ではない可能性があります。
また、自分の判断で市販薬を使用するときは、注意しましょう。腰痛のときなどに使う貼薬も危険です。
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