No.214 高齢者と女性に多い咳


2021年10月30日


繰り返し起こる咳は、睡眠中であれ、日中であれ、日常の生活の支障になります。1回の咳で約2kcalを使うというデータがあり、咳が止まらなくて、と受診する人の中には疲れ切った表情の人を目にすることがあります。


 咳についての診療ガイドラインは、わが国にもありますが、2006年、American College of College of Chest Physicians (CHEST) は咳に関する生理学、病態生理学を元にした詳しいガイドラインを発表しています。研究が進んだことを受け1951年から2019年までに発表された研究論文をもとに改訂したのが今回、発表となった咳のガイドラインです。Part 1では咳についての理論をまとめ、Part 2は、主に臨床的な問題点を取り上げています。臨床編で強調されているのは、高齢者と女性で持続する咳です。




Q.咳の問題とは?


アーノルド耳咳反射は、迷走神経の耳介枝の刺激が咳を起こすことを指す。反射は、耳道後下壁の触診、外耳道の前下壁の触診、または綿棒を3~5㎜の長さで2~3秒間、外耳道に挿入すると咳が引き起こされる現象をいう。

この現象が陽性の場合に陰性の場合と比較すると慢性の咳が起る有病率は11倍高値となる。 


・運動は咳反射に関係している。カプサイシンによる刺激で咳の誘発を行う咳感受性を調べると運動により全ての健康な成人は咳感受性が低下し、咳が起こりにくくなった。しかし、健康な子供では運動で咳反射低下は約80%に過ぎず、残りの20%は運動で咳が誘発される可能性があり、家族性のアトピー素因がこれに関連している可能性がある。




Q.咳の男女差とは?


思春期前では咳の感受性には男女差はない。しかし、これ以降は女性が、感受性が高くなり、咳を起こしやすくなる。


・咳反射は、出生前、出生後のいずれも受動喫煙の影響を強く受けることが判明している。


成人女性では咳反射の感受性が亢進し、女性の咳の有病率が増加している。多くの国のデータでは、咳で受診する患者の約3分の2は女性である。


・女性では禁煙後に咳がみられることは男性よりも多い。


・小児では10歳までは男児で咳が多いが、14歳以降は女子の方が多くなる。

アンギオテンシン変換酵素阻害薬による副作用としての咳は男性よりも女性に多い。


・逆流性食道炎があると慢性の咳を起こしやすいがプロトンポンプ阻害薬による薬効は男性よりも女性では遅れる。


・咳のメカニズムに女性ホルモンが関係しているという研究が多い。


・女性での強い咳こみは尿失禁をおこしやすくするので心理的な悪影響も大きい。




Q.高齢者の咳とは?


・65歳以上の高齢者では若い世代と比較すると急性、慢性の咳を起こすリスクが高くなる。


・高齢者の約10%が慢性の咳を有すると云う報告がある。慢性の咳は、アジア人、アフリカ人よりも白人に多いという報告がある。しかし、高齢者集団で比較した解析データはない。


高齢者の咳の原因は、喫煙、喘息、鼻炎が多い。韓国からの報告では、高齢者1,000人の調査では、慢性の咳とうつ病の有病率(5%)が関連していた。


・中国からの報告でも50歳以上の高齢者集団では、カプサイシン吸入による咳感受性は高地であった。


糖尿病、慢性便秘では咳が起こりやすいが機序は不明である。


慢性の咳と嚥下障害は深く関連しており、嚥下障害と咳障害の両方が存在すると嚥下性肺炎を起こしやすくなる。声帯への過剰な刺激および口腔内の細菌を含んだ唾液の誤嚥により気道の粘膜に細菌のコロニーをつくりやすくなり、その結果、肺炎を起こしやすくなる。




Q.脳血管障害に伴う咳は?


脳卒中では、脳の傷害部位により異なるが咳発作をみることがある。中大脳動脈梗塞の急性期では、より低い機能的残気量、より低い咳吸気量、より低い自発的CPFを呈した。


・急性脳梗塞、818人の患者で実施した噴霧酒石酸による咳反射試験の研究では、82人で咳反射消失あるいは減弱あり。これらのうち11%が肺炎を発症したのに対し、咳のチャレンジに対し、正常な反応を示したのは3.5%であった。


・脳卒中に伴う身体障害(例えば、自己摂食または歯磨きにおける腕の不全麻痺、可動性の低下を起こす下肢筋力の低下)などの要因も肺炎を起こしやすい。


・呼気筋力、吸気筋トレーニングでは28日間のトレーニングでCPFの改善がみられたが脳卒中後の群ではそのような効果は認められなかった。


・脊髄損傷後にも呼吸機能、咳機能に障害を起こす。


・ALSでは咳障害を起こしやすい。


・パーキンソン病では呼吸筋の動きの鈍化、硬直または上気道の閉塞を起こしやすい。咳反射の低下は、他の感覚障害よりも先に症状がでることがある。




Q.その他の問題は?


・慢性の咳の患者では、喉頭の刺激感やくすぐり感を訴えることがあり喉頭の知覚異常がある。


・咳を客観的な評価方法として、咳の開始時の肺気量、圧迫段階での持続時間、気管圧の発声、咳のピークフロー(CPF)率、CPFへの加速、ピーク後の持続的な気流など、いくつかの要因がある。これらには、吸気、呼気、喉頭、咽頭、口腔の筋肉組織の緊密に働いている。

このうち、CPFは咳の強さの最も重要な指標である。咳に関するほとんどの研究はCPFに焦点をあてている。CPFは、現在、自発的な咳の世界的な尺度となっている。


 長引く咳は呼吸器内科で診ることの多い病気です。咳に関する検査項目は限られているので原因の検索には詳しい問診が重要です。

 ここでは取り上げていませんが間質性肺炎の初期も咳を多く認めます。2週間以上、持続する咳、あるいは睡眠中にも咳が出る場合には受診をお勧めします。市販薬での対応は好ましくありません。




参考文献:


1. McGarvey L. et al. Global Physiology and Pathophysiology of cough Part 2. Demographic and clinical considerations: CHEST Expert Panel Report

CHEST 2021; 160:1413-1423

DOI: https://doi.org/10.1016/j.chest.2021.04.039


※無断転載禁止

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