2022年1月17日
医療に関する新しい情報は日進月歩ですが、睡眠時無呼吸症候群に関する研究にも急速な進歩があります。米国肺学会は、呼吸器系の研究、啓蒙で世界をリードしていますが、毎年、進歩の跡を要約して知らせています。2019年にAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicineおよび Annals of the American Thoracic Societyなどに発表された、睡眠医学の分野での新しい情報を中心にまとめています[1]。
ここではそのうち、臨床医学に関する論文のアウトラインを紹介します。
Q. 鼻粘膜に変化が起こるか?
・研究の仮説:閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)ではCPAP治療が行われるが開始で鼻閉や鼻汁を訴える人がいる。CPAP治療が鼻粘膜の異常を起こすことはないだろうか[2]?
・重度のOSAでCPAP 治療を開始した人たちの治療開始3か月後の炎症バイオマーカーと粘膜の微生物(鼻マイクロビオーム)の比較を実施した。結論として変化は認められなかった。
・研究は治療開始後3か月目までの比較であるが、これ以降も変化がないかどうか、さらに、鼻咽頭への口腔内内容物の逆流がOSAでは起こりやすいことが知られているので、発症または悪化の一部であるか、または障害の副産物であるかどうかを評価することが必要である。
Q. OSAとCOPDが共存している場合のリスクとは?
・研究の仮説:OSAとCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の合併例は多い。両者の合併例に起こるリスクは何か[3]?
・10,000人以上のカナダ人の臨床データセットにおけるOSAおよびCOPDの発生、心血管イベント、死亡率の発生率をOSAとCOPDの合併例(=オーバーラップ症候群)を調査した。
・オーバーラップ症候群(AHI >30およびCOPD)を有する者は、重度のOSAもCOPDもない個体と比較して、9.4年間の中央値にわたって心血管イベントおよび死亡率(調整された危険度[HR]、1.53;95%信頼区間[CI]、1.27-1.84)の割合が53%増加した。
・オーバーラップ症候群でAHI≤30あっても睡眠中に酸素飽和度<90%が10分間以上、続く場合には大きなリスクを有していた(HR、1.91;95%CI、1.60-2.28)。さらにオーバーラップ症候群を有し、CPAP治療を未実施の人で最も危険な量が見られた(HR、2.01;95%CI、1.55-2.62)。女性のオーバーラップ症候群では相互作用による相対的な過剰リスクは男性よりも高い。
・未治療女性のオーバーラップ症候群は男性よりも心血管イベントおよび死亡率のリスクが高い。
Q. CPAP治療が心血管疾患および脳卒中の予防となるか?
・研究の仮説:CPAP治療により心血管疾患、脳卒中を予防できるか?
・SAVE(睡眠時無呼吸および心血管エンドポイント)と呼ばれる大規模な国際研究では、心血管疾患(CVD)および中等度から重度のOSAの患者をCPAPで治療しても、深刻な心血管イベントを予防できなかった[4]。
・CVD患者の40〜60%でOSAが発症し、併存するCVDを発症し、CVDを悪化させるリスクの増加にOSAが関連していた[5]。
・SAVECPAPと呼ばれる研究グループのさらなる分析では収縮期血圧と拡張期血圧(BP)の両方がCPAPの使用により最初に低下し、さらに収縮期BPの変動性(BPV)がCVDの発症に関わっており、収縮期BPと収縮期BPVの両方が脳卒中の予測因子であった。
・収縮期BPが予後に重要な役割を果たしており、これはCPAP治療により改善することが示唆された[6]。
Q. CPAP治療は鬱状態を改善するか?
・研究の仮説:OSAでは欝症状が多いがCPAP治療で改善するか?
・うつ病と冠状動脈疾患[CAD]に対するCPAP治療の影響を判断するために、眠気のないOSAの患者を評価した(n = 203)。CPAPが抑うつ症状の改善効果を示さなかった。しかし、ベースラインでうつ病を患っている人の場合では、3か月のCPAP治療により、最大12か月間うつ病スコアが改善した[7]。