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No.280 新型コロナウィルス感染症の後遺症に関する研究

2023年6月9日


 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)による急性感染症ですが、急性期症状が回復した後も一部の人では、さまざまな症状が持続することが知られています。ネットでは、ロングCOVID(ロングコロナ)と呼ばれていますが論文ではPASCとも呼ばれることが多いようです。PASCは、SARS-CoV-2感染の急性後後遺症(postacute sequelae of SARS-CoV-2)の略語です。

 PASCは、医学的な問題点だけでなく、社会的な問題をも引き起こしています。米国NIH(米国国立衛生研究所)が1億ドル以上の巨額研究費を投入し、解明しようとしているロングコビット・プロジェクト(RECOVERY)の成果として最近、掲載された論文[1]を解説し、編集者のコメント[2]にふれます。




Q. PASCの問題点は何か?


・ PASCは、数週間の短期間から、数か月以上の長期間にわたり社会的問題を引き起こす。これらには、健康関連のQOL低下、収入減、および医療費増大などがある。


・ PASCの社会的な影響を調べるにはまず、明確な定義を作る必要がある。それには、どのような症状が該当するかを調べる必要がある。




Q. どのように調査をしたか?


・前向き試験として登録し、米国の33州およびプエルトリコを含む計85カ所の医療機関から合計13,754人の参加者を集めた。参加者は以下の3群に分類して比較した。


1) 感染後30日以降(n=4,295)に登録し、感染後6か月以降で症状があり受診した患者(n=2,248)うちオミクロン株はn=2,231。


2) 感染後30日以降(n=7,368)に登録し、感染後6か月以降PACSにより受診した患者n=6398, うちオミクロン株はn=2,666。


3) 非感染者であるがPACS症状により受診したn=1,118。


女性71%、ヒスパニック/ラテン系16%、非ヒスパニック系黒人15%、年齢中央値47歳。




Q. どのような症状がみられたか?


・PASCスコアに寄与する症状には、労作後の疲労感、倦怠感、脳の霧、めまい、胃腸症状、動悸、性的欲求または能力の変化、嗅覚または味覚の喪失または変化、喉の渇き、慢性咳、胸痛、および行動異常が含まれた。




Q.  PASCのスコアは?


以下の表がスコアをつけたPASC の症状である。


出典:Thaweethai T. et al. JAMA online May 25, 2023より邦訳修正

PASC: postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection の略


PASC score>12で比較すると、既感染者は23%、非感染者は3.7%が相当した。




Q. 本研究の意義に関する編集者のコメントは?


 本論文を審査した編集者のコメントは以下の通りである[2]。


・本研究では、PASCを特徴付ける可能性が最も高い症状を特定した。最も顕著に現れた症状は、労作後の疲労感、倦怠感、脳の霧、めまい、胃腸症状、動悸、性的欲求または能力の変化、嗅覚または味覚の喪失または変化、慢性的な咳、喉の渇き、胸痛、異常な行動であった。


・合計のPASCスコアのカットオフポイントは12とするとSARS-CoV-2に感染したコホート全体の2%が定義を満たしていた。この定義を満たす割合は、一般に、完全にワクチン接種された参加者よりもワクチン未接種の参加者の方が高く、オミクロンコホートでは、1回の感染が報告された参加者と比較して再感染した参加者の方が高いことが判明した。


・重要なことは、個人を同様の症状と障害の程度を持つグループに分類し、PASCの表現型が異なるかどうかを調べた。最も重篤なクラスターは、労作後疲労と中枢神経系機能障害の症状を共有していた。無嗅覚症は、最も深刻な影響を受けていないクラスターで顕著であった。


・COVID-19の感染病歴のない人の19%近くがPASCのスコアカットオフを満たしたことは注目に値する。これはCOVID-19パンデミックの期間中にうつ病など、他の一般的な慢性症状の状態が重複しているためと考えられるPASCスコアに含まれる症状の多くは、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の症状と類似している。


・無嗅覚症がそれほど重篤な症状のないユニークなサブグループとなっている可能性がある。


・この研究のコホートでは、米国の一般人口よりも女性と教育レベルの高い女性が過剰に含まれており、これが結果に影響を与えた可能性がある。女性のほうが男性よりも訴えが多いという報告は、他にもある。




 PASCと呼ばれるコロナ後遺症に注目が集まっています。症状が多彩で、呼吸器、脳神経、循環器など多臓器にわたっており、臓器ごとに診断、治療が進められている現在の医療での対応を難しくしています。さらに、非感染者であっても高齢者では長いパンデミック期間に不安感を増幅させ、鬱状態を悪化させる原因となっています。本研究は、NIHが莫大な研究費を投入して開始したRECOVERYプロジェクトの成果のいわば第1段階に相当するものです。今後の成果を期待したいと思います。




参考文献:


1.Thaweethai T. et al. Infection development of a definition of postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection. JAMA online May 25, 2023

JAMA. Published online May 25, 2023. doi:10.1001/jama.2023.882


2. Gross R. et al. Disentangling the Postacute Sequelae of SARS-CoV-2 E (From One, Many)  JAMA Published online May 25, 2023


※無断転載禁止

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