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No.282 睡眠時無呼吸症候群の治療で問題点となっていることは何か?

2023年6月30日


睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に上気道が狭くなる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)と睡眠中も正常な呼吸運動の持続が妨げられ呼吸停止を繰り返す中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)に大別されています。肥満、上気道狭窄が主な原因とされているOSAは世界中で10億人が罹患しているといわれ、わが国でも推定患者数は900万人ともいわれています。

OSAの病態は複雑で解明されていない点が多くありますが、現時点ではCPAP治療(経鼻的持続陽圧換気;シーパップ療法)はもっとも単純化された治療法とされています。

 

 ここで紹介する論文[1]は、英国、オックスフォード大学の専門研究者によるもので、OSAに関する現状の問題点を、1)OSAの病型をendotype とphenotypeの二つに分けて両者がそれぞれ、異なる問題点を有していること、2) OSAの合併症として心血管病変との関係を詳しく記載しています。結論として、OSA治療は、病態が複雑で本来は、個別化治療として進めなければならないが検査での数値の一部に過ぎないAHI(無呼吸低呼吸指数)やこれと近似している低酸素指数のみを評価して治療方針を決めるなど簡便化し過ぎています。


CPAP治療では解決できない点など、問題点を解説しており、OSAと深く関連する心血管病変について解説を加えています。ここでは専門的な部分は割愛し、要点を述べます。




Q.OSAの問題点は何か?


・OSAは社会的に重要な疾患である➡患者数が多く、大きな健康リスクとなっていること、それが原因となり社会的に大きな経済損失を生み出している。




Q.研究の進歩に伴う現状の問題点は何か?


・近年、OSAに関する研究は著しく進歩してきたが問題点をendotypeとphenotype という二つに分けて考えるのがよい。


・高血圧、心筋梗塞、脳血管障害とOSAがどのように関係するかを理解していくことが大切である。




Q. 近年のOSA治療の問題点?


・肥満を伴うOSAの治療ではCPAP療法か、軽症例ではマウスピース(MADsと呼ばれる)、扁桃肥大があれば扁桃摘出、高度肥満なら減量法(胃縮小術を含め)の利用がある。


・CPAP療法が奏功すれば睡眠中の無呼吸はなくなる。他の方法は選択肢とできるが無呼吸をなくする方法ではない。


・CPAP療法は継続性が問題であり、実施した25%が1年以内に中止するというデータがある。また、半数は毎日、規則正しく使用せず、効果が期待される限界値の毎晩最低4時間使用を下回っている。その他、最初から装着を嫌う人が多い。しかし、現時点ではCPAP療法を上回る新しい治療法の開発は困難である。




Q.OSAのendotypeの定義と治療法は?


定義

:病的な生理学的な状態で生ずるOSA


原因

:扁桃の肥大、肥満、気道を拡張させる筋肉の反応性の低下

 Loop gain の上昇

 覚醒を起こす閾値が低下し過剰に反応

    

対応する治療法

:扁桃の肥大➡手術

 肥満➡減量

 Loop gain の上昇➡酸素吸入療法

 気道を拡張させる筋肉の反応性の低下➡舌下神経の電気的な刺激療法

 覚醒を起こす閾値が低下し過剰に反応➡安定剤投与


注) loop gain とは工学研究で用いられている用語であり、制御システムの動的応答のパターンを表現し、特に反復して無呼吸を引き起こすときに動作する可能性のある経時的な不安定性を示す。臨床的に重大な睡眠時無呼吸の再発性は、フィードバック制御または 「ループゲイン」の観点から説明する学説である。




Q. OSAのphenotypeの定義と治療法は?


定義

:特徴は原因として挙げる多彩なものを包含する病態。


原因

:低酸素血症が持続する状態。症状別では過剰睡眠、睡眠障害、症状が乏しいこともある。


対応する治療

:OSAに伴う疾患としてもっとも重要な心血管病変を予防できるという観点に立って選ばれるべきである。


・病態が複雑であり単純化した画一的な治療法の確立は困難である。


・これまでの論文報告でMESA研究は2000人におよぶOSA患者を調査しているがendotypeの患者の割合を明らかにしていない。


・現在は、PSG, polysomnographyの結果からendotype を評価しているに過ぎない。

 



Q.  OSAの心血管病変をどのように治療すべきか?


・CPAP治療は、高血圧患者では血圧下降、安定に適した治療法であるが効果が一定ではないが有効性が確実である患者がいる。




Q.  OSAと高血圧の関係は?


・CPAP治療が奏功した場合は血圧を約2mmHg低下させることが知られているが経口の降圧薬を服薬する方が、効果は確実である。


・降圧薬を3剤以上服薬しても下降しない難治性の高血圧の場合にはCPAP療法のみで5mmHgの下降が知られている。


・CPAPの降圧効果は、年齢およびOSAに伴う夜間睡眠中の低酸素状態を反映する。




Q. OSAにみられる低酸素血症と心血管病変の関係は?


・ OSAと心血管病変が関わっていることは古くから知られているが、CPAP治療による予防効果に関する無作為比較では有意差を証明できていない。


・OSAでは、夜間の就眠中に繰り返し呼吸停止が起こるが、反復して断続的な低酸素状態が起こる。その結果、心血管系や脳神経系に悪影響を及ぼし、血圧上昇も起こる。


・OSAの中でも著しく昼間の眠気が強い人たちがハイリスクであると言われている。


・OSAではCPAP治療実施で、使用状況が良い人たちでは脳血管病変やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の増悪による入院が少なくなる。OSAが合併したCOPDはCOPD-OSA overlapと呼ばれることがある。




Q. 現在のOSAを巡る問題点は?


・OSAの病態は複雑であり、詳しいメカニズムは解明されていない点が多い。


・しかし、OSAの診断は、睡眠検査として在宅、病院などで実施されており、多種の指標が得られているがCPAP導入基準は、AHIの数値を一律、機械的にあてはめており個別化医療の配慮がなされていない。


・CPAP治療が軌道に乗らず脱落状態で経過している人たちが多い。これも代替え治療法の開発が必要である。




 現代人の中には肥満者が多くなってきており、OSAの頻度は高くなっています。小顎が多い中国人では近年、肥満者多く人口の8%にOSAがみられるとも言われています。同じ状況は日本人でも推定されます。心筋梗塞や脳梗塞など心血管病変はOSAと密接に関係することが知られています。

 本論文は、OSAを新しい理論としてendotype, phenotypeの2型に分けて論じている点で従来の論文と比較してユニークです。CPAP治療がうまく軌道に乗らない場合には病態、生理学的機能の再考を促しています。

 機器の改良や、他の新しい治療法の開発が切に望まれている領域です。




参考文献:


1. Turnbull CD et al. Endotyping, phenotyping and personalised therapy in obstructive sleep apnoea: are we there yet? Thorax 2023;78: 726–732.

doi:10.1136/thorax-2023-220037


※無断転載禁止

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