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No.34 新型コロナウィルス肺炎に関する新情報


2020年2月3日


 新型コロナウィルスによる肺炎(NCIP)は、中国での感染者は1万4千人を超え、死亡者は304人に達しています(2020年2月2日現在)。拡がり続けるNCIPについて連日、報道が続いています。


ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)は、1月29日号で一度に5編の関係論文を掲載しました。編集長が通常の研究論文の掲載プロセスを短縮して、できるだけ早く正確な医学情報を伝えていく、という決意を述べており[1]、さらに関係論文は無料で提供すると伝えています。(www.NEJM.or/coronavirus

他方、英国の臨床雑誌、ランセット(Lancet)もこれに呼応して研究論文を掲載しています。


ここでは、NEJM、Lancetに掲載された論文に解説を加えていきます。




Q. コロナウィルス感染と判明


 NEJM 1月24日版では中国のCDC(疾病対策センター)のZhuらが武漢で発生したウィルス性肺炎がコロナウィルス感染によることをつきとめた[2]。

重症肺炎の3例、内訳は49歳女性、61歳男性、32歳男性で61歳男性は死亡。気管支肺胞洗浄液から感染はコロナウィルスであることを明らかにし、遺伝子解析を行い、さらに気管支上皮細胞を用いて培養に成功、PCR法による診断、遺伝子解析を報告した。




Q. コロナウィルスとは?


 コロナウィルスは、ヒトのカゼ症状を起こすウィルスとして知られている。

6種類がヒトに感染を起こし、このうち4種類の感染頻度が特に高く、通常のカゼ症状を起こす。他の2種は、2002-3年に中国で流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)と2012年に中近東で流行したMERS(中東呼吸器症候群)である。今回のNCIPは、これらと同じコロナウィルス(ベータ型)による感染であることが判明した。




Q. 武漢で発症した症例の解析


 NEJMの1月30日号では、中国CDC所属のLiら[3]が武漢市で発生した425人のNCIPの解析結果を発表している。

平均年齢59歳、男性が56%。全体の55%が海鮮市場と関わりがあった。潜伏期間の平均は、5.2日(4.1-7.0日の範囲)で12.5日までに95% が入る。ヒトからヒトへの感染があり、1人が2.2人に新しい感染を起こしている。ちなみにSARSの場合は3人だった。15歳以下の子供の発症例はない。感染してから発症までの経過が短いのが特徴。全体の27%は発症後の2日以内に医療機関を受診していた。これ以降の受診では入院が多くなっていた。下痢、嘔吐などの消化器症状を認める例があった。




Q. 武漢市海鮮市場勤務者の発症例


 Lancet の1月24日号では[4]、2019年12月16日から1月2日までに武漢市内の病院に入院した41例の解析を報告している。

平均年齢49歳。男性73%。32%は他の疾患で治療を受けている人たちだった。発症者の2/3は、海鮮市場の勤務者。発症時の症状は、発熱98%、咳76%、筋肉痛、倦怠感44%。55%が呼吸困難あり。平均発症後8日間で受診。胸部X線写真、あるいは胸部CTで異常があり、両側肺の浸潤陰影が特徴。発症後の合併症では、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)29%、心筋梗塞などの心疾患12%, さらに細菌性肺炎など二次感染は10%。重症となり人工呼吸器の装着が必要例は10%。感染者の血液中のコロナウィルス感染(2019-nCOR)を示すウィルスRNAの陽性は15%。1月22日の段階で68%が退院。




Q. 武漢市での感染例の解析


 Lancet の1月30日号 [5] では、武漢市内の病院に入院した99人の解析を発表している。

平均55歳、2/3が男性。47%は海鮮市場内の勤務者で反復して感染曝露の機会があり、2人は短期曝露で感染。感染者の50%が他の慢性疾患の治療を受けていた。その内訳は、心血管および脳血管障害が40%。入院時の症状では、発熱83%、咳82%、息切れ31%。咽頭痛はほとんどなし。鼻汁など鼻症状、嘔吐、下痢の消化器症状は5%以下。


検査データでは、肝機能障害43%, 血液中のリンパ球減少35%、胸部CTでは両側の肺炎陰影が75%。1人は自然気胸を起こしていた。ARDS 17%、急性腎障害3%、敗血症4%。1月25日現在で11%が死亡。うち7人は高齢者であった。今後は、軽症および感染しているが無症状の人のデータ蓄積が必要としている。




Q. 家族内の感染発症例


 NEJMの1月28日号[6]では、ベトナム、ホーチミン市在住で武漢市に旅行をしていた父親が帰国後、発症で1月22日に入院。発熱、低酸素血症を起こしたが回復。同行した妻は検査で感染が確認されたが症状なし。他方、旅行しなかった息子、27歳、が1月20日に咳、発熱で発症。嘔吐、下痢あり。1月22日には39度の発熱。検査でコロナウィルス感染(2019-nCOR)が判明した。検査所見でCRP値が上昇したが他の検査所見では異常が認められなかった。1月23日以降は回復した。


Lancetの1月24日号では[7]、家族6人で武漢市へ旅行し、うち2人が入院中の患者を見舞いに行き感染。家族のうち4人が発症した。中の10歳男児は感染し、胸部CTで感染を示すスリガラス陰影が見られたが無症状だった。




Q. 軽症で終わったドイツの発症例


 NEJMの1月30日号は、ドイツでの発症例を報告している[8]。

33歳の生来健康のビジネスマン(患者1)が2020年1月24日、咽頭痛、悪寒、筋肉痛を訴えた。翌25日には、発熱(39.1℃)、さらにその翌日には咳、痰を訴えた。症状はここまでで、次の日には改善し退院となった。患者1のビジネスパートナー(患者2)は上海からドイツに来ており1月20-21日に会っていたことが判明。中国に帰国してから発症。患者1は、検査の結果、(2019-nCOR)が陽性と判明した。中国の会社側からドイツに連絡、その結果、ドイツ内での接触者3人から(2019-nCOR)が検出された。いずれも患者2からの感染と推定された。感染はあるが患者1およびドイツでの感染例3人はいずれも軽症にとどまっていた。(2019-nCOR)感染はあるがカゼ症状か、無症状に近い例があることから接触予防は、かなり難しいのではないかと結論している。




Q. 重症例が治癒した報告


 NEJMの1月31日号では、米国でのNCIP第1例目を報告している[9]。

35歳、男性。1月15日武漢市を訪問し、ワシントン州へ帰国した。米国CDCから警告が出ていたことを知り、自分がNCIPに罹患した可能性を強く疑った。糖尿病あり、喫煙歴なし。1月19日近医受診。この時は発熱なし。脈拍は速く110/分。酸素飽和度は96%であった。医師の聴診では、気管支狭窄を疑わせる雑音が聴かれたが、この段階では胸部X線上では異常なし。咽頭粘膜の擦過による検査では、インフルエンザ、SARSなどは全て否定的。CDCへ連絡したが武漢市では海鮮市場へは行かず、感染者との接触もなかった。さらに検査を続けたところ、1月20日にCDCでの検査で2019-nCoVのPCR検査が陽性となり診断が確定した。同日入院。入院前より熱感はあったが発熱は入院2日目に39度。以降、11日まで持続。咳は中国から帰国した翌日から持続。入院中に2日間、吐き気、下痢症状あり。


治療は、入院当初は生理食塩水の点滴、解熱薬、咳止めのみ。

検査結果では、白血球数の減少、軽度の血小板減少、クレアチニン・キナーゼ(CK)上昇、肝機能障害あり(AST/ALTの中等度の上昇)、LDH高値、入院第5日目の胸部X線写真で初めて浸潤影あり。酸素飽和度は90%に低下した。酸素吸入開始。細菌性肺炎に対する抗菌剤2剤の点滴開始。第6日目にはさらに胸部X線所見は悪化。抗菌剤は中止。第7日目、レムデシビル(remdesivir)というエボラ熱、SARSの治療薬として開発し、治験中の薬を投与。翌第8日目には解熱、酸素吸入も不要となり解熱。入院後11日目に自宅へ退院した。レムデシビルが劇的な治療効果を挙げたことが判明した[9]。




Q. 今後の診断薬、治療薬の開発の見通し


 米国、アイオワ大学で微生物研究に従事しているPerlman はNCIPについて次のような見解を述べている[10]。


・当初は海鮮市場での作業員のみに限定された感染症と考えられたがヒト―ヒト感染が多数みられるようになった。

・遺伝子解析では2019-nCoVは75-80%がSARS-Covと同じと判明した。

・このウィルスは蝙蝠(こうもり)にとっては常在ウィルスに近い。


今後の見通しは次のように進むだろうと推定している。

1) 遺伝子型がはっきりしたので精度の高いPCR法を含む検査薬の開発が進められるだろう。

2) 血清診断薬が開発されれば感染者の実態解明が可能となるだろう。

3) 抗ウィルス薬、ワクチン製造の目途がついた。




 令和2年に入った約1か月間に急速に患者数は増加しており、ほぼ全世界に広がっています。他方、これに対する予防法、早期診断、適切な治療法に関する情報も急速に進歩しています。米国での第1例目を報告したHolshue は[9]、拡大を防ぐには、臨床医、自治体、国レベルでの医療者間の連携が重要だと指摘しています。これは、私たちが従事している全ての医療についても言えることであり、日常の医療連携が非常時にも役立つと考えています。




参考文献:

1.Rubin EJ., et al. Medical journals and the 2019-nCoV outbreak. NEJM.org. January 27, 2020, DOI: 10.1056/NEJMe2001329.


2.Zhu A., et al. A Novel Coronavirus from Patients with Pneumonia in China. NEJM.org. January 24, 2020, DOI: 10.1056/NEJMoa2001017.


3.Qun Li., et al. Early Transmission Dynamics in Wuhan, China, of Novel Coronavirus–Infected Pneumonia. NEJM.org. January 29, 2020, DOI: 10.1056/NEJMoa2001316.


4.Huang C., et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet. January 24, 2020, DOI:10.1016/S0140-6736(20)30183-5.


5.Chen N., et al. Epidemiological and clinical characteristics of 99 cases of 2019 novel coronavirus pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. Lancet. January 30, 2020, DOI:10.1016/S0140-6736(20)30211-7.


6.Phan LT., et al. Importation and human-to-human transmission of a novel Coronavirus in Vietnam. NEJM.org. January 28, 2020, DOI: 10.1056/NEJMc2001272


7.Chan JF-W., et al. A familial cluster of pneumonia associated with the 2019 novel coronavirus indicating person-to-person transmission: a study of a family cluster. Lancet. 2020 Jan 24. DOI:10.1016/S0140-6736(20)30154-9.


8.Rothe C., et al. Transmission of 2019-nCoV infection from an asymptomatic contact in Germany. NEJM.org. January 30, 2020, DOI: 10.1056/NEJMc2001468.


9.Holshue ML., et al. First case of 2019 Novel Coronavirus in the United States. NEJM.org. January 31, 2020, DOI: 10.1056/NEJMoa2001191.


10.Perlman S. Another decade, another Coronavirus. NEJM.org. January 24, 2020, DOI: 10.1056/NEJMe2001126.


※無断転載禁止


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